無振動ヘリウム冷凍機

昨日紹介した、KAGRAの無振動冷却装置について調べました。 https://gwdoc.icrr.u-tokyo.ac.jp/DocDB/0056/P1605622/001/DanD.pdf (博士論文) サファイヤの鏡に水ガラスでサファイヤの「耳」をつけ、インジウムで接着したサファイヤのワイヤーで吊っているようです。水ガラスはケイ酸ナトリウム水溶液。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B4%E3%82%AC%E3%83%A9%E3%82%B9 冷却はヘリウム冷凍機です。「GM(Gifford MacMahon) 型」「スターリング(Stirling)…

世界の研究所 VirgoとKAGRA

今週の世界の研究所は、LIGOの仲間の重力波観測施設であるVIRGO(イタリア)とKAGRA(日本)を取り上げます。 LIGOは米国の北西と南東の2つの観測所がありますが、3つ以上あると方向と距離の両方を決められるので、国際的に連携をとって共同観測が行われています。インドにも作ろうとしているようです。 ヨーロッパのものはVIGROといって、イタリアのピサ近郊にあります。virgoは略語ではなく「おとめ座」から名付けられています。下記は感度やノイズ対策についての説明が詳しいです。10~10000Hzの重力波に対して感度を持つように作られているそうです。完全な消光条件からわずかにずらしているそうで…

LIGOの発明者 Weiss教授

LIGOの基本的なアイデアは50年前にさかのぼります。発明者のProf. Rainer Weissの経歴は独特です。 https://www.sciencemag.org/news/2016/08/meet-college-dropout-who-invented-gravitational-wave-detector ドイツからナチスに追われてアメリカに渡った家族の一員で、ニューヨークでラジオの修理をする少年時代、hi-fiのエレクトロニクスを勉強するためにMITの電気工学科に入ったが電力の勉強ばかりで失望、大学3年生時に船旅でピアノとダンスを教えてくれた音楽家に恋をしてくっついて移動(結果…

LIGOの仕組み(1)

LIGOは2つの直交する4kmの光路の長さの変化を10^-4Åの精度で測定できます。基本的には、光の干渉による強度変化としてモニターします。光としては、Nd系のレーザー1064nmの光を使います。10^-4Åは波長の10-^8倍なので、さすがに強度変化から光路長の変化を測定するのは無理です。どうやっているかというと、マイケルソン干渉計の光路中にファブリーペロー干渉計をいれて、光を光路内で300回往復させたものを干渉に使っています。したがって、光路は4kmではなく、その300倍の1200kmに相当します。これで3x10^-6の強度変化を測定することになりました。干渉により検出光が完全に弱めあった…

世界の研究所 LIGO (Laser Interferometer Gravitational-wave Observatory)

今週の世界の研究所は、重力波観測施設である LIGO (らイゴ、Laser Interferometer Gravitational-wave Observatory)です。技術的に面白い大ネタなので、2週間にわたって解説する予定です。 LIGOは、米国の北(ワシントン州)と南(ルイジアナ州)の2か所に設置された特殊なマイケルソン干渉計で、CaltechとMITによって運営されています。ブラックホール連星系の崩壊に伴う重力波の検出に成功した(2015)ため、2017年にCaltechのB.C.Barish(LIGOプロジェクト運営)、K.S. Thorne(一般相対論の理論家で何を探したらいい…

ブログ小説「火星の人」

火星と言えば、Andy Weirのブログ小説”The Matian”(2011年)が流行って映画(2015年)にもなりました。私の知り合いの先生が映画の化学的側面の助言をしたと言っていました。 https://www.andyweirauthor.com/books/the-martian-tr この話は、事故で一人で火星に取り残された人が工夫を凝らして生還する話で、技術的細部が面白いです。ネットで連載していて、終わるときには読者がたくさんついたということです(今は上記サイトで数ページしか公開されていません)。日本でいうと「100日ワニ」のような感じでしょうか。 上記サ…

熱電式原子力電池

火星探査車 Perseveranceが積んでいる放射性同位体熱電気転換器(radioisotope thermoelectric generator; RTG)について。RTGは原子力電池(atomic battery)の一つの種類です。 RTGは、長い歴史があります。Apollo(月着陸)やVoyager(太陽系の外に向かう)にも使われました。一時期は心臓ペースメーカーの電源にも使われていました。 二酸化プルトニウムの放射壊変の熱を使って熱電発電をします。下記に発熱体の写真が出ています。けっこう高温に見えます。勝手に赤く発熱する物体はちょっと恐ろしいです。また、プルトニウム金属は化学的に活性…

Perseverance号 火星着陸成功

先週発表された火星探査機 Perseverance の着陸ビデオはいいですね。RoverがSkycraneと一緒にパラシュートで降りて行って、Skycraneは逆噴射しながら紐の長さを調節して軟着陸させています。各段階で拍手をして、最後に喜びを爆発させていますが、「こまめに喜ぶ」のはプレッシャーのかかる仕事をチームでやるときの一つのやり方だと思います。 https://mars.nasa.gov/mars2020/multimedia/videos/?v=461 Perseveranceは、火星での太陽光が弱いので、原子力電池(今はradioisotope power sourceと呼ぶようで…

世界の研究所 NPO形態のPlanetary Science Institute

今週の世界の研究所は、NPO(non-profit organization)形態の民間の研究所 Planetary Science Institute(惑星科学研究所、米国アリゾナ州ツーソン)を取り上げます。 https://psi.edu/about 1972年設立で、NASA等のプロジェクトに関与したり、博士号をとった人の腰掛に使われたりしています。カリフォルニアやボストンなど(さらに外国も)、家族の関係で遠隔で仕事をしている人も複数いて、勤務形態は時代を先取りしていると思います。最初は会社のサポートがありましたが、現在は独立しています。政府の補助金を入れるために会計面を整備して専門のス…

硬X線光学

硬X線は、中性子星(pulsar)やブラックホールの観察に使われます。高エネルギーの光にはレンズとして使える物質がありません。低エネルギーのX線には、すれすれ入射による反射(斜入射望遠鏡)を使う方法(1,2:X線回折装置の集光にも応用されています)があります。それが使えないほどの高エネルギー微弱光を見るため、いろいろな方法が考案されました。札幌出身の故 小田稔教授(3)による「すだれコリメータ」(4)が最初で、2次元版のcoded mask(5)があります。天文学、生物学に使われる極限の光学は半導体のナノリソグラフィ等にも応用可能で、勉強になります。 (1) http://astro-dic.…