クライオ電顕のノーベル賞受賞者の寄与

クライオ電顕(Cryo-EM)の解説動画は下記がわかりやすいです。 https://www.youtube.com/watch?v=6G550DfY75Q https://www.youtube.com/watch?v=026rzTXb1zw 電顕でタンパク質を見ようと思い立ち、15年(1975-1990)頑張って筋道をつけたのがイギリスのProf. Richard Hendersonで、タンパク質を低温にすれば電子線で破壊されないことを示しました。 急速に水溶液を冷やすことによって氷の結晶が邪魔しないようにする(アモルファスにする)方法を開発した(液体窒素で冷やしたエタンに突っ込む)のが昨日…

世界の研究所 European Molecular Biology Laboratory

先週末は、結晶学の学会に行ってきました。立場上そういう役回りなのだと思いますが、最近は招待されると仕事が一緒についてくるので気力と体力を消耗します。 結晶学というのは物質中の原子位置を決定する体系で「空間群」「位相問題とその解決法」など基本的概念は50年以上前に確立していますが、最近は電子顕微鏡や放射光の発展と情報科学(いわゆるAIやデータサイエンス)の進歩で、結晶を作らなくても原子の位置がわかるようになっています。装置面での著しい進展に驚きました。 今週の世界の研究所は、装置が市販されるようになり急速に普及しているcryo electron microscope(クライオ電子顕微鏡)を用いた…

2023年ノーベル医学生理学賞

2023年のノーベル医学生理学賞は、mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンの発明者に与えられました。これはコロナワクチンに使われたのでよく知られていますね。細胞内にmRNAがうまく入ると、対応したタンパク質が作られます。そのタンパク質が例えばコロナウィルスの表面突起のものだとすると、生体の免疫反応が誘起され、ウィルスの感染を初期に抑え込むことができるようになります。仕組みの詳細の解説は下記です(今回受賞の Weissman教授が著者)。 https://www.nature.com/articles/nrd.2017.243 mRNAワクチンの利点として、(1)安全性(病原性がなく、体内の半…

ピルトダウン人

古い人類の化石は一般の関心が高いため、骨のごく一部でも従来にない年代のものが発見されたら注目を集めます。が、骨のごく一部からヒト科であることを証明するのは現在でも難しいようです。したがって、研究のごく初期から捏造の問題がありました。1909年の「ピルトダウン人」は科学における捏造の話では必ず出てくる有名な逸話です。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%80%E3%82%A6%E3%83%B3%E4%BA%BA 数十万年前にさかのぼり、人類と類人猿のミッシングリンクとされた骨は、頭蓋は5万年前のクロマニヨ…

化石人類

今週紹介している論文は、現代人の遺伝子解析から人類集団の数を推測し、90万年前~70万年前にわずか1200人まで減っていたという主張で、人類化石の空白期を説明できるというものです。人類化石の年代表がwikipedia英語版にあります。 https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_human_evolution_fossils 表の最初が700万年前のドイツ・ギリシャ(グレコピテクス)、というのは、現生人類の起源がアフリカであることを考えると不思議な気がします(本当にヒト科かどうか論争もあるようです)。あちこちでヒト科への進化が同時多発したがアフリカのものだけが生…

集団遺伝学の新計算法

昨日紹介した論文の本文は購読していないと読めませんが、Supplement Materialsは無料で読めます。 https://www.science.org/doi/10.1126/science.abq7487 最近の論文にありがちですが、解析過程の詳しいことはSupplement Materialsのほうに書いてあり、125ページもあります。人類の祖先の人口が90万年前に1200人まで減っていた、という大胆な推論は、色々な人の遺伝子解析の結果から、その多様性をモデル化することにより導かれました。時間については以前説明したとおり、集団遺伝学で使われるやり方で、突然変異の入る確率が一世代あ…

世界の研究所: 上海のCAS-MPG Partner Institute of Cumputational Biology

古いSFですが、小松左京の「復活の日」(1964)というのがありました。似たような小説(SFというよりホラー)にStephen KingのThe Standというのがあります(1978)。どちらも映画・テレビシリーズになっていますが、設定は似ており、突然現れた病原体で人類がごく少数まで減り、滅亡の縁にたたされるという話です(小説としては全く違う、それぞれの作家らしい話になっています)。先週のScience誌に、人類の祖先が90万年前に1200人まで減少して絶滅の縁にいたという論文が出ました。これは現代人の遺伝子解析から家系図のモデルを立てるというデータサイエンスの手法を駆使して導いたようです。…

雑種強勢とハイブリッド作物

今週とりあげたメキシコの研究所は「トウモロコシ・小麦」という名前がついていました。トウモロコシはどうなっているでしょうか?実は、トウモロコシについては1930年代という早い段階で品種改良が完了していました。ここで使われたのが「一代雑種」です。米で言う「ハイブリッド米」に対応するものです。遺伝的に均一な「純系」を2つ掛け合わせた第一世代が「一代雑種 F1」で、概念はメンデルにさかのぼります。F1の生活力が強いという「雑種強勢」という現象があり、両親を上手く選べばよい作物が得られます。 https://kotobank.jp/word/%E4%B8%80%E4%BB%A3%E9%9B%91%E7%…

高収量小麦品種「奇跡の種」と農林10号

高収量小麦の「奇跡の種」はメキシコで開発された品種ですが、その一代前は日本産の農林10号です。この開発者(稲塚権次郎氏)の話は2015年に映画になりました。あまり知られていない偉人(unsung hero)の一人だと思います。こういう先人がたくさんいることを考えると、襟を正して精一杯働かなければならないと思います。 https://www.norinten.com/ https://www.mx.emb-japan.go.jp/files/000255144.pdf https://blog.goo.ne.jp/bbsuesanga/e/044fa5db5003520823078449052b…

緑の革命

「緑の革命」は私が子供のときにはよく知られた話でしたが、今は忘れられているように思います。品種改良と化学肥料(特に窒素)の大量投入を中心とする事業でした。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B7%91%E3%81%AE%E9%9D%A9%E5%91%BD 上記のグラフによるとメキシコの小麦生産量は1950年から1980年の間に4倍になっていますね。 現在アフリカで進行中とのことで、難航していますが2000年代から少しずつ成果がでているそうです。 品種改良により、 ・背丈が低い(矮性、茎に行く栄養が少なくて済む、倒れにくい)、 ・大量の肥料に耐えられる、 ・受光…