硫黄酸化還元酵素(SOR)は中空の球体

硫黄を酸化還元する酵素 SOR(sulfur oxygenase reductase)は面白い形をしています。 https://www.rcsb.org/structure/7X9W 中空の球体です。こんなのが指先の操作で見えるのですから、いい時代です。4回対称性と3回対称性があって、出口のようなものがいくつか開いています。きれいです。 https://www.rcsb.org/3d-view/7X9W/1 使っている金属イオンは Fe3+のようです。 https://www.rcsb.org/3d-view/7X9W?preset=ligandInteraction&label_as…

硫黄細菌は80℃希硫酸中で生育する

硫黄細菌が使う重要な酵素にSOR (Sulfur oxigenaze reductase)というのがあります。その構造は明日見ることにして、それを使っているという古細菌(Archaeon)が面白かったので紹介します。 https://bacdive.dsmz.de/strain/16643 これは火山性の温泉泥から採取されたもので、生育条件は80℃、pH1~3というものすごい環境です。上記リンクをたどると最適培地が出ていますが、Fe,Mg,Caなどの金属硫酸塩、アンモニア、リン酸+酵母抽出物という面白いものです。 https://www.readcube.com/articles/10.338…

硫黄細菌のエネルギー源

硫黄細菌は、硫黄や硫化水素を酸化して硫酸などにする際にエネルギーを得る細菌で、土壌中、海水中、下水溝などにいるそうです。 H2O +1/2O2 -> H2O + S ΔH= -176kJ/mol 4つの属があり、一部はCO2の還元にそのエネルギーを使っているそうです。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A1%AB%E9%BB%84%E7%B4%B0%E8%8F%8C 逆に、有機物を酸化しつつ硫酸を還元するsulfur-reducing bacteriaもいるようです。 https://en.wikipedia.org/wiki/Sulfur-reduci…

世界の研究所:東北大学・加齢科学研究所とスーパスルフィド

今週は、予告通り硫黄細菌を調べていこうと思います。検索で引っかかって面白かったのは人間を含む生体内に存在する、硫黄が数珠つなぎになった「スーパスルフィド」で、2021年に学会誌の特集号が組まれていてタダで読めます。 https://seikagaku.jbsoc.or.jp/index.html?vol=93&no=5 この特集号は読みごたえがあります。 -S-..-S-S-を含むタンパク質や小分子は2014年に生体内で広範に使われていることがわかったそうで、大発見ですね。この発見は東北大学・加齢科学研究所その他日本国内で行われたようです。先週東北大に出張していたこともあり、今週の研究…

白血球と警官の割合の比較

年頭にあたり、2024年が皆様にとって素晴らしい年になるようにお祈りいたします。 昨年末は病原体に対する免疫応答の話で終わっていました。今日はその続きで、免疫に関与する細胞たちが頑張っているという話をしましょう。 下記動画は先週出た論文の紹介で、T細胞(リンパ球の一種)が組織をパトロールしている画像です。 https://twitter.com/i/status/1742055657774162315 この論文は、従来は感染された細胞が出す低分子を探して動いていると考えられていましたが、それだけではなく細胞の変形による力を感じて動いていることがわかったとのこと。感染細胞は変形したり硬さが変わっ…

風邪の症状は上気道の感染に対する免疫の反応だからウィルスが違っても似ている

白血球の仲間のマクロファージが病原体を見つけると免疫反応が始まり、その最初が炎症を起こすサイトカインの放出でした。だるくなったり痛くなったり熱が出たりすのは病原体の直接の影響ではなく、免疫反応なので、200種類ものウィルスがほぼ同じ風邪の症状を起こすのが納得できます。 くしゃみと咳は異物を外に出すための動作ですが、病原体をまき散らす効果もあり、人間側と病原体側のどちらに役に立っているかは疑問ですね。最近は寄生体が宿主を操作する例が見つかっているので、その一種かもしれません。 他の応答は、頭痛、だるさ、関節痛など、人間の行動を抑制して安静にする方向です。休めないで動き回っていると風邪が治りにくい…

風邪のウィルスは200種類、その中も多くの株に分かれているので抗ウィルス薬は絶望的

風邪に関する論文を検索すると下記が出てきました。The Lancetは臨床医学で一番権威ある雑誌と聞いています。この著者は同じ題材で、より新しいいろいろな医学事典に書いているようなので、第一人者なのでしょう。 https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(05)70270-X/fulltext この論文によると、 ・風邪の症状を起こすウィルスは200種類以上ある ・ライノウィルスは風邪の30-50%を占める。ライノウィルスには100種類以上の株があるので抗ウィルス薬を開発するのは絶望的。 ・インフルエンザのみ早期…

世界の研究所: European Virus Archive

久しぶりに風邪をひいてしまいました。熱はないのですが声が出ません。今週は、風邪についてどこまでわかっているか調べてみたいと思います。まずは、ウィルスのアーカイブの紹介からです。 https://www.european-virus-archive.com/ は、欧州のウィルス研究のネットワークのようですが、https://www.european-virus-archive.com/evag-portal には500Euro、3500Euroなど値段がついています。これはお金を払えば本物を郵送してくれるということでしょうか。もちろんヒトに病原性がないものと思いますが、ちょっと嫌な感じですね。ウ…

クライオ電顕像に原子を当てはめるアルゴリズム

クライオ電顕では、初期では10Å、現在は2Å以下の分解能で3次元の像が得られますが、原子よりは大きいので、そこに何の原子があるかということはコンピュータと人間による推測になります。 生体分子で重要な炭素、窒素、酸素は原子番号が近いので、クライオ電顕で区別するのはたいへんです。一方、単結晶X線回折では分解能が原子よりも小さいので(回折像の位相問題があるのでまた別種の問題がありますが)原子種の区別はほぼ自動でできるので、クライオ電顕よりは信頼性があります。 そこで、クライオ電顕では分子の一次構造(アミノ酸や核酸塩基の配列)の情報も使ってコンピュータに推測させる方法が開発されています。 その結果、き…

多数の画像から3次元像を再構成するには1つの軸に関して傾ける

クライオ電顕で、タンパク質分子のいろいろな方向からの2次元画像をたくさん集めて3次元構造を復元するFrankのソフトウェアの本人による解説は下記で読めます。 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2844734/pdf/nihms180050.pdf 透過電子顕微鏡は少し色がついた透明な物体に上から平行光をあてて、その半透明の影を2次元画像として撮影するようなものなので、2次元投影図がたくさんできます。 粒子がどっちを向いているかを決めるには、同じ物体に対して照射方向を傾けた画像をいくつか測定すればいいというのがミソです。傾けることで照射方向…