クライオ電顕像に原子を当てはめるアルゴリズム

クライオ電顕では、初期では10Å、現在は2Å以下の分解能で3次元の像が得られますが、原子よりは大きいので、そこに何の原子があるかということはコンピュータと人間による推測になります。
生体分子で重要な炭素、窒素、酸素は原子番号が近いので、クライオ電顕で区別するのはたいへんです。一方、単結晶X線回折では分解能が原子よりも小さいので(回折像の位相問題があるのでまた別種の問題がありますが)原子種の区別はほぼ自動でできるので、クライオ電顕よりは信頼性があります。
そこで、クライオ電顕では分子の一次構造(アミノ酸や核酸塩基の配列)の情報も使ってコンピュータに推測させる方法が開発されています。
その結果、きれいな原子像が報告されています。例えば「今月のタンパク質」に選ばれた下記は、植物の免疫にかかわるものだそうですが、右側の”style”を”licorice”にすると原子を見ることができます。
https://www.rcsb.org/3d-view/ngl/6j5t
これも一種のAIとも言えますね。高度な技術です。クライオ電顕は1台数億円(おそらく後半)とのことですが、入札情報を見ると2020年ころからたくさん売れているようです。ソフトウェアの価値も高そうです。無機物にも同様の方法が使える装置ができていますが(分解能はずっと低くて良い)、値段は数億円(前半)です。
アルゴリズムは下記に詳しいです。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2409374/
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0079610720300699
しかし、間違いもあるみたいで、下記に複数の3次元電顕像を比較して信頼性の高い原子構造を得る方法が解説されています。
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jcim.9b01103

英語は https://pdb101.rcsb.org/motm/287 から。
“Like humans and all other organisms, plants can become infected by pathogens and stricken with disease.”
plants 植物
become infected by pathogens 「パ」そジェン 病原体に感染する
become stricken ストリッケン < strike ストライク 襲われる
“However, unlike humans which have both adaptive and innate immunities, plants only have innate immunity.”
獲得(適応)免疫と自然免疫の両方がある人類と違って植物は自然免疫しかない。
immunity 免疫
immune イ「ミュ」ーン 免疫の ~に免疫がある(be immune to)
“When this detection event occurs, it will trigger a cascade of events that ultimately lead to an immune response to fend off the pathogen and maintain survival. ”
fend off 払いのける
maintain survival すごい言葉ですが、 「生存を維持する」と訳すべきでしょうか。
“Once inside the plant cell, AvrAC starts its attack by adding uridyl groups to regulatory kinase enzymes, which inhibits immune signaling pathways and thereby leads to increased virulence. Cleverly, however, the plant cell fights back by baiting it with a decoy protein called PBL2. When PBL2 is uridylylated, instead of shutting down the immune response, it begins the process of building the resistosome”
※AvrACは病原体で、制御酵素を改変(ウリジル化)することで免疫信号を停止させるのですが、植物側はおとり(decoy)のPBL2というタンパク質を用意していて、それが改変されると、resistosomeという図に示されているヒトデみたいなタンパク質が作られ、自らの細胞膜に中央部の突起で穴をあけて自爆することで感染を防ぎます。
uridyl group ウリジル基
bait 餌を与える
virulence 病毒性
decoy 「デ」コイ おとり

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