Hoffmann — Epilogue and Notes

今週でHoffmann & Schimidt “Old Wine New Flasks - Reflections on Science and Jewish Tradition” は終わりです。あとがきには、この本ができた経緯が書いてありました。 Hoffmann教授がイスラエルのBenGrion University の名誉博士号を授与されて記念講演をしたときに世話をした学長の秘書がもう一人の著者(Schimidt女史)で、第1章(Is nature natural?) の骨子(記念講演の内容紹介と考察)を新聞に書いたのがきっかけだそうです。ユダヤ人の歴史、…

分子進化の「ほぼ」中立説

分子進化の「ほぼ中立説 nearly neutral theory」というのも遺伝研から提出されて定説となりました(太田朋子博士 1973)。これは、弱い自然選択が起こる変異の蓄積率は、集団の大きさによるということを数式で示しています。これにより、孤島などの小集団で進化が加速されることが説明できます。素人目には、簡単に言えることはこれくらいで、後は歴史学に近いものになると思います(偶然の出来事を扱う必要がでてくる)。日本人の起源などもDNAの変異の解析を使って議論されています。 https://www.nig.ac.jp/museum/evolution01.html https://en.w…

分子進化時計と「中立説」

DNAの変化を調べることにより、いつ種が分化したかを推測する手法があります。電気陰性度で有名なL.Pauling とE.Zuckerkandlが1962年に発見した「分子進化時計」を使っています。彼らはヘモグロビンのアミノ酸の変化の種による違いに系統性を見出しました。1980年代以降にDNAを直接調べることが可能になり、DNAのうち機能を持たない部分の変化速度が年あたりほぼ一定であることがわかりました。これを説明するのが1968年に遺伝研の木村資生博士から提出された「分子進化の中立説」です。 https://en.wikipedia.org/wiki/Neutral_theory_of_mol…

人間の遺伝的個性とSNPs

人間の持つ遺伝情報(human genome ヒトゲノム)は30億塩基対、750MBだそうです。USBメモリに余裕で入る量なので意外と少ないように思いますが、一つ一つ見ていくと気が遠くなりそうです。そのうち、タンパク質をコードしている部分は約30000種類と言われており、そのほかに、発現の制御プログラムの条件文(どのような条件のときどのくらいそのタンパク質を作るか,典型的な動作速度は20分と聞きました)なども書き込まれているというのが私の理解です。これを調べれば製薬に役立つのは間違いないので、多くの人が研究に従事しています。バイオインフォマティィックスは、最近のデータサイエンスの先駆けとなった…

世界の研究所 国立遺伝学研究所(日本)

今週の世界の研究所は、静岡県三島市の国立遺伝学研究所(National Institute of Genetics; NIG)です。 https://www.nig.ac.jp/nig/ja/ データーベースの整備や、遺伝資源の保存など地道な仕事の他に、遺伝学に関する研究を行っています。所員は500人。 人間の遺伝情報の概略はすでに得られており、個人による違い、その機能や病気(がんなど)のときにどこが変化するかが研究されています。 人間のゲノムの情報量は750MBと言われています。 https://en.wikipedia.org/wiki/Human_genome#Information_c…

Charles Darwinの仕事ぶり

進化論のダーウィン(Charles Darwin 1809-1882)の経歴と仕事ぶりは興味深いです。上流の医者の子供で食べるには困らなかったようですが、大学を2つ卒業していて、1831-1836(22才~27才)の間ビーグル号(HMS Beagle)の第二回の世界一周の探査に参加しています。(このころの?)イギリスの裕福な人は若い時に冒険をする文化のように見えます(いずれ取り上げます)。1859年に種の起源(On the Origin of Species)を出版しています。最晩年まで研究を続け、ミミズの研究(詳しい生態と土を作る役割の定量的研究、研究レポートの模範としてよく取り上げられます…

iPS細胞による人工血小板

献血の話の続きです。赤血球や血小板は核を持たないので人工物で代替できそうに思います。私が子供のころから人工血液の研究は行われてきましたが、最近はiPS細胞から血球を大量生産することを目指したベンチャーが立ち上がっています。 http://www.megakaryon.com/technology/ iPS細胞は、がん化しそうなものを取り除く必要がありますが、分化して核を持たなくなったものはその心配がないと素人目にも思えます。放射線を当ててから使う予定だそうです。献血が過去のものになる日も来そうですが、いつごろでしょうか。 細胞 cell 核 nucleus 「ニュー」クれウス 複数はnucle…

成分献血と連続流遠心分離

最近は献血をしようとすると成分献血を勧められることが多いです。血小板以外を体に戻すのでドナーへの負担が小さく、献血不可能な時間が短くなります(全血400mLで12週間(男性)のところ血小板成分献血だと2週間)。当然遠心分離を使っているはずなので、どういう仕組みなのか調べてみました。 https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p0000 で、公開番号・公表番号のところに 2004-290354 と入れて出てくるもの(テルモ)が分かりやすいです(出願だけして、特許にはしていないようです。不思議です)。 毎分数千回転の遠心分離機に、連続的に血液を供給して取り出さないといけな…

心が折れた犬の話

就職未定の博士課程学生のころ、落ち込みが激しかった時期がありました。そのとき流行っていた本(いまもいろいろ派生品が出ていますが)に、使う言葉の種類を解析すると人の心理状態が分かり、言葉に気を付けると心理状態を変えられるというのがあり、やってみたらある程度改善しました(また、時間がいちばんの薬でした)。 そのやり方は、言葉を数珠繋ぎ(じゅずつなぎ)に連想して100個並べてみてpositiveかnegativeかの点数をつけて統計解析するというものです。演説や書物から単語を拾って解析すると、昔の人の気質や心理状態を調べることもできるということでした。その時の単語の分け方はpositiveとnega…

functional MRI

脳の働きを実時間で見るfMRI(functional MRI)は、Bell研で日本人研究者(小川誠二博士、現・東北福祉大)によって発明されました。脳の活動が活発になった箇所で赤血球が脱炭酸する様子を画像化します。1~3秒の時間遅れがあり、空間分解能は1mm程度。水分子のプロトンが赤血球のヘモグロビンのFeのスピンを感じて横緩和時間T2が変化することを使ったBOLDという画像を使うようです。 http://www.scholarpedia.org/article/Functional_magnetic_resonance_imaging fMRIの応用は医学、心理学以外にも、広告の効果をfMRI…