重粒子線治療

加速器で炭素等の重粒子の多価イオンを加速して生体に照射すると、一定の深さの領域のDNAにダメージを与えることができます。これは、粒子が高速で運動しているときは物質との相互作用が小さいが、物質中で減速されると急に相互作用が大きくなることを利用します。X線やγ線に比べて他の組織への障害を少なくして体の内部にある腫瘍を破壊することができるため、病気によっては有効性が高いとされています。wikipedia に日本語版、ドイツ語版、中国語版しかないことからわかるように、日本が先行している方法で、日本には7か所施設があります。私はたまたま通りかかってQST病院の施設の建設現場を見たことがありますが、地下に…

世界の研究所 量子医科学研究所 & QST病院(旧:放射線医学総合研究所)

今週の世界の研究所は、千葉にある量子医科学研究所を取り上げます。少し前までは、放射線医学総合研究所とよばれていましたが、最近、国立研究開発法人・量子科学技術研究開発機構(QST)の傘下に入りました。ここは付属病院(QST病院)があり、加速器で作った粒子線によるガンの治療法を開発しています。他にも、PETやfMRIを用いた脳研究もやっているようです。放射線の生物への影響や応用および被ばく治療を担当する放射線医学研究所と、基礎から農業応用まで含む量子生命科学研究所が併設されています。 https://www.nirs.qst.go.jp/index.shtml 今週はこの研究所関連の技術を見ていき…

PET診断で使われるフッ素同位体 18F

今日の放射性核種はフッ素同位体の18Fです(安定同位体は19F)。これは半減期110分で陽電子を放出します。陽電子放出断層写真法(positron emission tomography, PET)で使います。18Fを含むfluorodeoxyglucose を加速器→自動合成で作って注射します。 http://www.seirei.or.jp/hamamatsu/patients-info/examination/pet_Inspection/pet/index.html 合成装置や化合物、合成法の開発などは東京都の研究所の下記のページが見つかりました。楽しそうですね。他にも11C,13N,…

膵島β細胞の増殖法

月曜日に紹介した、膵島β細胞の増殖法は、MYCL(L-Mycとも)という遺伝子の発現誘導を行うことでした。 MYCLや「発現誘導」は知らなかったので調べてみました。MYCLは下記サイトにあるように、DNAの転写を制御するタンパク質をコードしている「がん原遺伝子」だそうで、エラーが起こるとがんにつながるようです。下記サイトは静岡県の機関のものですが、勉強になりますね。 https://www.jcga-scc.jp/ja/gene/MYCL iPS細胞にも当初Myc遺伝子の仲間が使われていましたが、がん化の危険があるので使わない方法が開発されたそうです。「発現誘導」の方は猛烈に複雑で、今でも新事…

インシュリンの機能

インシュリンは51個のアミノ酸からなるペプチドです。大きさは2nmくらいでしょうか。塊のような形をしているので、液体中や細胞膜表面を移動しやすいのではないでしょうか。下記の真ん中あたりExploring Structureの”JSmol”タブを押すと3次元構造を動かせます(ちょっと時間がかかります)。 https://pdb101.rcsb.org/motm/14 インシュリンは細胞膜にある受容体と結合すると、細胞内シグナルタンパク質を変化させます(アミノ酸の-OHにリン酸PO4をくっつける)。その酵素チロシンキナーゼを活性化させるところからスタートするようです。 ht…

インシュリン

ランゲルハンスが彼の名前がついた膵島(isles of pancreas)を発見してから、その機能が分かるまでには52年かかっています。膵臓の主な機能は消化酵素を作ることですが、なぜかグルカゴンGlucagonとインシュリンInsulinという2つの血糖値調節ホルモンも出します。 https://www.terumo.co.jp/challengers/challengers/13.html ランゲルハンスの晩年の言葉「私には、これを解明する能力が欠けている」。フェルマーの「証明はできたが書く余白がない」に匹敵するドラマだと思います。 インシュリン Insulin は、「島 insula」を語…

世界の研究所 独・ランゲルハンス研究所 Paul Langerhans Institute Dresden

今週の世界の研究所は、Paul Langerhans Institute Dresden (独 ドレスデン工科大学付属の研究所)をとりあげます。 https://tu-dresden.de/med/mf/plid?set_language=en ランゲルハンス(1847-1888)は、解剖学に様々な細胞染色試薬が使われるようになった時期に活躍した学者で、結核で若くして亡くなりましたが、皮膚の免疫システムにかかわるランゲルハンス細胞と、糖尿病にかかわるすい臓のランゲルハンス島の発見に名前を残しています。 先週、東大医科研等のグループからランゲルハンス島のβ細胞の増殖に成功したというプレスリリース…

ATP合成酵素

生物系の分子動画で外せないのが ATP synthase でしょう。WEHI.tvとHarvard Univ.の動画がありました。 https://www.youtube.com/watch?v=OT5AXGS1aL8 https://www.youtube.com/watch?v=_GPDsQnnvrA この仕組みを推測した人とX線回折で証明した人は1997年のノーベル化学賞です。 https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/1997/press-release/ ATP synthase が働くミトコンドリアは、独自の遺伝子を持っていて共生細菌由…

アポトーシスの分子機構

WEHI.tvの動画の続き、今日はアポトーシス apoptosisです(つづり注意)。 https://www.youtube.com/watch?v=DR80Huxp4y8 https://www.youtube.com/watch?v=tzwaPWElklo ここに出てくる抗がん剤 venetoclax はスイスの製薬会社ロシュ(Roche)傘下のGenetech社の製品のようです。 https://en.wikipedia.org/wiki/Venetoclax 英語は昨日のassume の解説です。これは「仮定する」だけではわからない文章が出てきます。 LDOCEから 1 to thi…

ミトコンドリア中の電子輸送系、「まねする、ふりをする」の英語

WEHI.tvというyoutube チャンネルは昨日のオーストラリアの研究所が作っています。いろいろありますが、今日はミトコンドリアの中の電子輸送系を見ましょう。酵素の動きは分子動力学計算でしょうね。動きが硬いのと柔らかいのがあって面白いです。 https://www.youtube.com/watch?v=nmoLoiFakxY 日本語の図が http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/oxidphos.htm にあります。 最初の方にでてくるquinone はubiquinone = 最近のサプリにある Coenzyme Q10 でしょうか。昔々ユ…