プリオン研究における事故

タンパク質の折り畳みが異常になってそれが感染するというプリオン病は不思議なことが多く、盛んに研究されています。例えば、多次元NMRでタンパク質の各部分の距離を測定することができるので形状が分かります。その実験とコンピュータシミュレーションを組み合わせた昨年発表の研究などは面白いです。まれな過程の効率的なシミュレーションの例(metadynamics、いずれ解説しましょう)として勉強になります。 https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2019631118 この論文ではプリオンの断片を扱っていますが、断片ならば病原性はないのでしょうか。黄熱病の研究などでも野口…

スーパーおたくと今後の創薬の方向性

近代創薬の祖は、Paul Ehrlich と言われています。病原体のみを狙い撃つ「魔法の弾丸 magic bullet」を有機化学で絨毯爆撃で見つけようという、狂人と言われても仕方がない目論見に606番目の化合物で成功してノーベル賞をもらっています。私の宗教観では、正しいことは天が味方することもあるという例の一つです。スーパーおたくを許容するドイツの国民性恐るべしです。日本の文化も歴史的に自分の道を突き進む人に優しいです。頑張りましょう!(一緒にされると怒る人もいるかもしれません。失礼しました) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%82%A6%…

アルツハイマーの免疫療法

アルツハイマー、レビー小体型認知症、ALS(筋無力性側索硬化症)等のいわゆる神経難病のうち少なくともいくつかはタンパク質の異常な折り畳み(folding)の変化とそれに伴う異常な集合体形成が神経細胞を壊すためではないかという説があり(先週と今週紹介した研究所)、アルツハイマーについては、関与するタンパク質は説が分かれていますが、定説となっているように見えます。神経細胞は壊れると再生が困難なため(最近、不可能ではないことが発見されています)、重大な機能障害を招いてしまいます。 それなら問題となっているタンパク質の異常な集合体を除去するように免疫を使えばいいのではないか、という発想で、ワクチンそし…

世界の研究所 東京都医学総合研究所

今週の世界の研究所は、東京都医学総合研究所(Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science)を取り上げます。ここは、東京都が所管する公益財団法人という形式で運営されています。東京都の保健医療、都立病院等との連携の他、先週から続きのタンパク質凝集に伴う疾病や、免疫等についての基礎研究が行われています。 https://www.igakuken.or.jp/labo/laboratory.html 下記インタビューはこの分野を概観するのに参考になります。 https://www.terumozaidan.or.jp/labo/class/s2_05/…

製薬会社はロードマップを公開している

タンパク質の異常凝集がかかわっている(原因か結果かは別として)疾病(しっぺい)の話は来週も続けるとして、最近の会議で聞いた情報として「製薬会社は創薬のロードマップを公開しているが、他の製造業は公開していない」というのがあり興味をもちました。ロードマップ(road map)というのは、課題を複数設定して「いついつまでにこれをやる。そのために必要なこの課題をいついつまでにやる」という工程表のことで、いろいろな学会でも作りますが、学会のものは面白そうな思いつきをいろいろ取り込むので、ぐちゃぐちゃに枝分かれすることが多いです。創薬の場合は、病気を治すという目標があって、その病態の分子レベルの理解、問題…

アルツハイマー型認知症とアミロイドβ

アルツハイマー型認知症の原因については「アミロイドカスケード仮説」というのが定説になっているようです。 https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%84%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%BC%E7%97%85 これは、アミノ酸40~43個からなる「アミロイドβ」というペプチドが凝集(繊維状のゆるい結晶秩序をもつ)・不溶化し、それと平衡にあるアミロイドβオリゴマー(分子数個の可溶な凝集体)がシナプスに対して毒性を持ち神経細胞を破壊していくようです。健康な神経細胞も未知の物質を作るときの副産物としてア…

ローヤルゼリーが女王バチを作る仕組みには論争がある

昨日のミツバチの巣で女王バチの部屋をほかの巣から持ってきて女王バチを再生する話が興味深いです。働きバチから分泌されるローヤルゼリーは3日目まで全幼虫に共通に与えられていますが、それ以降にも与えた幼虫が女王バチになるそうです。女王の部屋(王台というそうです)にいる幼虫にはローヤルゼリーを与える習性があって(未確認)、王台を移植したのでしょう。 https://www.akitayahonten.co.jp/aki0303-09.shtml https://en.wikipedia.org/wiki/Royal_jelly 女王バチにする因子はローヤルゼリーの中のMRJP1というタンパク質であると…

世界の研究所 MRC Laboratory of Molecular Biology(英国)

今週の世界の研究所は英国のMRC Laboratory of Molecular Biologyを取り上げます。ここはケンブリッジ大学医学部に離接していてDNA構造解明のワトソンとクリックの流れをくみ、ノーベル賞19人を出しているすごい研究所です。MRCはMedical Research Council(英国政府の医学研究局)の略だそうです。 https://ja.wikipedia.org/wiki/MRC%E5%88%86%E5%AD%90%E7%94%9F%E7%89%A9%E5%AD%A6%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%89%80 https://www2.mrc-lmb.…

稲妻とUrey-Millerの実験

雷といえば雷鳴と稲妻です。雷鳴は、放電に伴って発生する高温による空気の膨張速度が音速を超えて衝撃波が生じ、それが音に変わるときにゴロゴロいう音になります。稲妻は放電経路から出る光ですが、例えば北斎の「山下白雨」にみられるように折れ曲がりと分岐があります。 https://www.adachi-hanga.com/ukiyo-e/items/hokusai049/ 動画はたくさんありますが例えば下記がスローモーションもあって見やすいです。 https://www.youtube.com/watch?v=UNEZnK6V2QE それほど直線部があるわけではないことがわかります。 その仕組みについて…

FOXP2遺伝子は言語・学習能力に関係する

月曜日に紹介したドイツのマックスプランク進化人類学研究所は、今回のノーベル賞のネアンデルタール人研究以外にも、FOXP2遺伝子というヒットを飛ばしています。変異させるとネズミが賢くなったというのは「アルジャーノン」みたいで衝撃的です。 https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v9/n1/%E3%80%8C%E8%A8%80%E8%AA%9E%E9%81%BA%E4%BC%9D%E5%AD%90%E3%80%8D%E3%81%8C%E5%AD%A6%E7%BF%92%E9%80%9F%E5%BA%A6%E3%82%92%E9%80%9F%E3%82%81…