二フッ化キセノン XeF2

MEMSを作るときには、シリコンの狙った場所を深彫りしたり、空洞を作りたいときがあります。フッ素系のプラズマも使いますが、XeF2は独特の長所がありよく使われます。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E3%83%95%E3%83%83%E5%8C%96%E3%82%AD%E3%82%BB%E3%83%8E%E3%83%B3 XeF2は有機化学のフッ素化試薬としても使いますが、下記の文献にあるようにXeF2はSi犠牲層エッチングにより中空構造や歯車などを作ることができます。ウェットエッチングでは表面張力による貼り着きが問題になりますが、XeF2はドラ…

スマホ表示型 超音波撮像装置

Butterfly Network社のスマホ表示型 超音波撮像装置(20万円、通常診断装置は2013年に200万円という広告がありました)について調べました。驚いたことに、Butterfly Network社の創業者 J. Rothberg(技術者兼起業家で、DNA配列解読装置で有名)を筆頭著者として今年の5月にPNASに論文が公開されています(open access、タダで読めます)。 https://www.pnas.org/content/118/27/e2019339118 この論文は分野外でも一読に値します。従来、圧電素子で造られていた多数の超音波発生装置をシリコンチップ上のMEMS…

企業会計 番外編2 アフリカで売れる人工毛髪

金曜日はここしばらく企業会計を解説したいと思っていますが、今週も準備が間に合わないので、最近通勤中に読んだ(聴いた)本から。「超加速経済アフリカ: LEAPFROGで変わる未来のビジネス地図  椿 進 (著)」 キャッシュレス経済やインフルエンサーによる広告が進んでいるのが印象的です。銀行がないため、スマホの通信会社が銀行の代わりになっているようで、たくさんのキャッシュカード・ポイントカード等持ち歩かなくて済むので確かに合理的です。また、マイナンバー一つですべてが処理できるのも便利そうです。アフリカでの数少ない日本の会社の成功例としてカネカロン(1957年開発、アクリロニトリルと塩化ビニルの共…

永久磁石を使わないモーター

日産工場の動画の続きです。 https://www.youtube.com/watch?v=djcWCrFXQFs で、9分0秒くらい13分までモーターの説明です。永久磁石を使わないモーターにはびっくりしました。続いて出てくる自動コイル巻き付けロボットがすごいです。これも設計と作りこみが大変でしょうね。一時間に36~72台分が作れるとのことです。1日24時間稼働させると864~1728台、月産2.5~5万台、まあ最初は十分ではないでしょうか。 永久磁石は希土類(特に、高温での減磁をさけるためディスプロシウム添加)が不可欠なので、国際情勢と希土類市場価格に依存します。これがいやなのでしょうね。そ…

世界の研究所 Bremer Institut für Produktion und Logistik GmbH

今週の世界の研究所は、University of BremenのBremer Institut für Produktion und Logistik GmbHを取り上げます。 http://www.biba.uni-bremen.de/industrie/industrie-40.html GmbHはドイツの「株式会社(下記参照)」なので、大学付属の会社があるということですね。設立40周年、Industry 4.0の研究は20年(当初はそう呼ばれていなかった)だそうです。Industry 4.0の研究所を調べていて一番上に出てきました。EU内でチェコなどと国際共同研究をしているようです。EU…

企業会計 番外編1 マグネシウム高騰 カンバン方式

金曜日は企業会計を解説していますが、今週はいろいろあって準備が間に合わないので、経済ニュースから。土日の遠隔集中講義(あす3週目,全4回)で時間と体力が不足ぎみです。 マグネシウムの価格が上がっているそうです。一瞬半年前の3.5倍になって、いま2.5倍くらいですね。 https://www.investing.com/commodities/magnesium-99.9-min-china-futures ジュラルミン他、各種合金に使われているので、自動車産業がまず困るだろうと言われています。 https://www.scmp.com/economy/china-economy/article…

ノーベル化学賞2021 不斉有機分子触媒

今年のノーベル化学賞は、みんないつか受賞すると思っていたプロリン誘導体の不斉触媒でした。有機分子触媒(中心金属がない均一系触媒)の端緒となったもので、有機化学の授業でちょっと習っているのではないでしょうか? https://en.wikipedia.org/wiki/Proline_organocatalysis 20年くらい前から発展した分野ですが、受賞すると思われていた三人のうち一人が6年前に亡くなっていたとのこと。ケムステ ( https://www.chem-station.com ) 等で専門家により詳しく紹介されるでしょうから、私が下手な解説をしなくてもいいと思います。他の分野にな…

ノーベル物理学賞2021 ガラスの粘度の温度変化の説明にも使える理論

今年のノーベル物理学賞のうち、Parisi教授の業績は、わかりやすく言うと「液体と同じように乱れた構造のガラスがなぜ固まっているかを理解し、ある温度でどのくらい硬いかを理論的に計算する方法を開発した」ではないかと思います。ガラスの硬さ(この場合は粘度)と温度の関係には一般的な法則があることが実験でわかっていました。ガラス細工をやったことがある人はガラス軟化温度付近での硬さの変化は実感しているのではないでしょうか。ガラスの種類で温度は変わりますが、一般性がありそうに思いませんか? 下記はしばらく前の「世界の研究所」で紹介したトリエステの理論物理学研究所での講演です。 https://www.yo…

Haldane ギャップの最近の進展

今週は難しい話ばかりで申し訳ありませんが、続けます。昨日のSSHモデルはポリアセチレンの二重結合と単結合の切り替わりに隠れている数学(2×2の複素行列)の話でしたが、今日は一次元スピン系の話です。有名なのは「Haldaneギャップ」で、Haldeneはこの業績とは別の論文で2016年にノーベル賞を受賞しています。 スピン1を持った金属原子が一次元的に並んだ物質(例Y2BaNiO5)の磁化率が0Kでどうなるか「基底状態から励起状態へgapがあるかどうかは、0Kでの帯磁率が0になるか(gapあり)有限値になるか(gap無し)という明確な違いとなって現れる」。また、欠陥を入れて端の挙動をみる、という…

Su-Schriefer-Heegerモデルの直接観察

トポロジカル物質について解説を考えていますが、とっかかりはポリアセチレンのSu-Schriefer-Heeger(SSH)モデルがいいのではないかと思っています。 twitterで簡単な説明をしている人がいました。 https://mobile.twitter.com/q9ac/status/1293366479346233345 最近は分子を表面で重合させて作ってSTMで見ることができます。下記はニュースですが、元論文のデータは感動的です。一番下のリンクから論文に飛んで、右パネルのFiguresタブで縮小版が見えます(あまりよく見えませんが、角のリボン状につくったグラファイトの原子が1個1個…