世界の研究所 独 Merck Electronics部門

今週は半導体微細加工の講義をもう1回やらないといけないので、フォトレジスト(光のパターンを物質に転写するために使う塗料)に関する資料を集めています。この分野は東京応化工業、JSRなど日本の会社が強いですが、 生々しすぎるので、世界の研究所は初期のフォトレジストの定番であったAZシリーズを現在作っている ドイツのMerck KGaA のElectronics部門を取り上げます。 https://www.merckgroup.com/en/expertise/our-businesses/electronics.html Merck(メルク)という化学メーカーはドイツのダルムシュタットに本拠がある…

分岐点は10年前

半導体を作るための微細加工(リソグラフィ)は、シリコンウェファの上に感光樹脂(フォトレジスト)を塗って、設計した回路図を写しこむのですが、小さい構造には、波長の短い光源が必要です。ArFレーザー(波長193nm)などの紫外光源が作られましたが、その先は一足飛びにレーザープラズマ光源になりました。これは、物質に強いレーザーを当てて価電子を揺さぶることで高い励起状態を作るものです。その際、化学結合が切れ、電子も原子から切り離されるのでプラスのイオンと電子に分かれたプラズマが発生します。さらにそれらが光を吸収するので、非常に高温になり、高速電子の衝突等で内殻電子も励起されます。これがもとに戻る時に軟…

X線回折の直接法、自由電子レーザーによる撮像

単結晶X線回折の「直接法」を完成させたKarleとHauptmannは1985年のノーベル化学賞をもらっています。 https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/1985/summary/ 多数の回折スポットの強度を組み合わせて漸化式的に位相(原子位置)を改良していく「Σ2関係式」を見つけたのが決め手のようです。わかりやすい解説は下記。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcrsj1959/38/5/38_5_313/_pdf https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcrsj1…

クライオ電顕像に原子を当てはめるアルゴリズム

クライオ電顕では、初期では10Å、現在は2Å以下の分解能で3次元の像が得られますが、原子よりは大きいので、そこに何の原子があるかということはコンピュータと人間による推測になります。 生体分子で重要な炭素、窒素、酸素は原子番号が近いので、クライオ電顕で区別するのはたいへんです。一方、単結晶X線回折では分解能が原子よりも小さいので(回折像の位相問題があるのでまた別種の問題がありますが)原子種の区別はほぼ自動でできるので、クライオ電顕よりは信頼性があります。 そこで、クライオ電顕では分子の一次構造(アミノ酸や核酸塩基の配列)の情報も使ってコンピュータに推測させる方法が開発されています。 その結果、き…

金属ナノ粒子の光物性と触媒作用

半導体の量子ドット以外にも、物質を微粒子化するとユニークな性質が現れます。たとえば、金をガラスに混ぜると赤いきれいなガラスができることは初期の錬金術師(遅くとも900年ころ)が見つけていますが、金はナノメートルサイズの微粒子としてガラスに混じっています。 下記はガラスメーカーのダウコーニングの博物館のサイトです。 https://www.cmog.org/article/gold-ruby-glass この色は、金属中の自由電子が光によって揺さぶられて動くときにできる「プラズモン」による光吸収です。吸収波長は自由電子密度と形状で決まります。通常の金属では光の波長とプラズモンの波長が合わないため…

量子ドットの高密度励起

量子ドットの性質として、光励起が高密度に行われた場合に特異な現象が起こることがあります。 一つは励起子分子や励起子液滴と呼ばれる励起状態の集合体です。半導体では光励起状態は、価電子帯にできた正孔と伝導帯にできた電子がクーロン力(静電気力)で緩く結合してエネルギーが少し下がった状態「励起子exciton エキシトン、エクサイトン」を作りますが、高密度に生成すると集合体を作って特異な性質を示します。半導体量子ドットでは作られた励起子が拡散していくことができずに無理やり密集します。これによって光の屈折率などの光学的性質が変わるので、光で光を制御する光演算機などが作れると考えられています。量子コンピュ…

半導体量子ドット

半導体量子ドットは1桁ナノメートルから数十ナノメートルの大きさをもつ、GaAs,InP,ZnSなどのコロイド粒子です。量子ドットのディスプレイへの応用については下記がよくまとまっています。 wikipediaには、同じ物質なのに大きさを変えると色が変わっているきれいな写真が載っています。 https://en.wikipedia.org/wiki/Quantum_dot_display 上記はちょっと情報が古いですが、市場に出ているディスプレイの現状は下記です。まだ量子ドットを電流で発光させる技術は量産になっていませんね。 https://softdesigny.com/qled-oled#i…

世界の研究所 英国ベンチャー Nanoco Technologies plc.

今週の世界の研究所は、英国のUniv. Manchester 発ベンチャー Nanoco Technologies plc.をとりあげます。2001年設立です。 https://www.nanocotechnologies.com/about/history/ ここは、今年のノーベル化学賞になった量子ドットの工業生産法を開発してビジネスにしています。特にカドミウムが入っていないものを作っています。 ここの人もノーベル賞候補かな、と思っていましたが2018年に亡くなっていました。 https://news.liverpool.ac.uk/2018/10/22/obituary-professor…

固体多孔質CO2吸脱着剤

一昨日はアミン溶液を中心としたCO2吸着剤の応用例でしたが、固体吸着剤も使われています。ゼオライトなど多孔質固体や、多孔質固体の孔の内部ににアミン等のCO2を吸着・脱着できる分子・高分子を吸着させたものです。利点は、温度の変化でCO2の溶解度を変える液体を作ることは可能ですが、溶液、特に水の温度を変えるのはエネルギー消費が大きいので、潜熱の小さい固体にしよう、という発想です。ムーンショットなど国家プロジェクトも複数走っています。諸外国の大型プロジェクトも多数あります。 下記は現状がよくわかります(pdf) https://www.rite.or.jp/news/events/%E6%B4%BB…

混合のエントロピー変化

一昨日にノーベル経済学賞が発表されました。解説を、と思ったのですが、所得の性差に関する統計的な研究を最初にまとめたHarvardの教授で、男女格差解消のきっかけになったという業績のようです。数理的な要素が無いので、このくらいにしましょう。 さて、昨日は1kgのCO2を4%から90%に濃縮するのに3MJのエネルギー(電気ストーブを1時間焚くエネルギー)が必要という話でした。これが理論的な最大効率とどのくらい離れているかを検討したいと思います。 こういう時は化学工学の文脈では「エクセルギー」というのが出てきます。 https://www.kobelco.co.jp/technology-revie…