ノーベル化学賞2021 不斉有機分子触媒

今年のノーベル化学賞は、みんないつか受賞すると思っていたプロリン誘導体の不斉触媒でした。有機分子触媒(中心金属がない均一系触媒)の端緒となったもので、有機化学の授業でちょっと習っているのではないでしょうか? https://en.wikipedia.org/wiki/Proline_organocatalysis 20年くらい前から発展した分野ですが、受賞すると思われていた三人のうち一人が6年前に亡くなっていたとのこと。ケムステ ( https://www.chem-station.com ) 等で専門家により詳しく紹介されるでしょうから、私が下手な解説をしなくてもいいと思います。他の分野にな…

ノーベル物理学賞2021 ガラスの粘度の温度変化の説明にも使える理論

今年のノーベル物理学賞のうち、Parisi教授の業績は、わかりやすく言うと「液体と同じように乱れた構造のガラスがなぜ固まっているかを理解し、ある温度でどのくらい硬いかを理論的に計算する方法を開発した」ではないかと思います。ガラスの硬さ(この場合は粘度)と温度の関係には一般的な法則があることが実験でわかっていました。ガラス細工をやったことがある人はガラス軟化温度付近での硬さの変化は実感しているのではないでしょうか。ガラスの種類で温度は変わりますが、一般性がありそうに思いませんか? 下記はしばらく前の「世界の研究所」で紹介したトリエステの理論物理学研究所での講演です。 https://www.yo…

フラム号

フラム(Fram 前進)号は、ナンセンが考案し、ノルウェー一番の船大工(Colin Archer)が設計・建造した木製の極地探検用帆船(全長39m幅11m)で、通常より丸い船底が特徴です。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%A0%E5%8F%B7 ナンセンは極地探検で船が氷につぶされる危険を認識し、氷に押されたときに浮き上がるように、丸い底を持つ硬い木でできた船を国の援助で作りました。フラム号は、14人が3年間氷の流れに乗って北極海の海流を研究しさらに北極点を目指したFram Expedition(1893-1896)…

初代難民高等弁務官

ナンセン(Fritjof Nansen 1861-1930)は時々現れるスーパーマンの一人で、海洋生物学者、探検家、政治家として活躍しました。技術的にはフラム号の発明(明日)が光ります。深海水を採集するナンセン瓶も発明しています。 https://en.wikipedia.org/wiki/Fridtjof_Nansen https://en.wikipedia.org/wiki/Nansen_bottle 特に国連(国際連盟)の初代難民高等弁務官を務め、ノーベル平和賞受賞、「難民の父」と呼ばれています。私が驚いたのは絵が上手なことです。若い時画家も志したが、趣味にとどめることにしたとのこと。…

Haldane ギャップの最近の進展

今週は難しい話ばかりで申し訳ありませんが、続けます。昨日のSSHモデルはポリアセチレンの二重結合と単結合の切り替わりに隠れている数学(2×2の複素行列)の話でしたが、今日は一次元スピン系の話です。有名なのは「Haldaneギャップ」で、Haldeneはこの業績とは別の論文で2016年にノーベル賞を受賞しています。 スピン1を持った金属原子が一次元的に並んだ物質(例Y2BaNiO5)の磁化率が0Kでどうなるか「基底状態から励起状態へgapがあるかどうかは、0Kでの帯磁率が0になるか(gapあり)有限値になるか(gap無し)という明確な違いとなって現れる」。また、欠陥を入れて端の挙動をみる、という…

Su-Schriefer-Heegerモデルの直接観察

トポロジカル物質について解説を考えていますが、とっかかりはポリアセチレンのSu-Schriefer-Heeger(SSH)モデルがいいのではないかと思っています。 twitterで簡単な説明をしている人がいました。 https://mobile.twitter.com/q9ac/status/1293366479346233345 最近は分子を表面で重合させて作ってSTMで見ることができます。下記はニュースですが、元論文のデータは感動的です。一番下のリンクから論文に飛んで、右パネルのFiguresタブで縮小版が見えます(あまりよく見えませんが、角のリボン状につくったグラファイトの原子が1個1個…

結び目を記述する Jones 多項式

今週は数学と物理の間にある面白そうな話を紹介したいです。まず、結び目を記述するJones 多項式(1984)から。これは感動します。下記はまだ再生回数が少ないですが、早送りでスライドを見ていくと何となくわかると思います。 https://www.youtube.com/watch?v=T4gaa191hpY 量子論、統計力学、素粒子論と関係がつけられています。 日本語pdfでの解説は下記ですが、参考文献はリンク切れが多いです。なんでそうなるかの証明はちゃんと数学の本を読まないといけないようです。 https://www.mathsoc.jp/publication/tushin/1303/13…

世界の研究所 Abdus Salam International Center for Theoretical Physics 国際理論物理学研究センター

今週の世界の研究所は、イタリアのトリエステにあるAbdus Salam International Center for Theoretical Physicsを紹介します。ここは、素粒子理論でノーベル賞を取ったパキスタン出身のSalamの提案で設立されました。物理や数学の研究や賞の選考の他に高等教育が充実していない国の学生を選んで(年数人です、どうやって選ぶのでしょうか)他国の博士課程入学のための証明書を出す活動も行っています。 https://youtu.be/_9dPsxEE6Pk https://www.ictp.it/about-ictp/media-centr1e/news/202…

ネオントランスの知恵

トランスは、電流を一度磁場に変えることで、ファラデーの電磁誘導の法則を使って2つのコイルの間で交流のエネルギーを伝達します。 その時に2つのコイルの巻き数を変えると電圧を変換することができます(電圧比は巻き数比に比例)。磁束を磁性体に集中させて伝達効率を増やしますが、磁性体に強い磁場をかけると磁気飽和が起こります。これは、磁性体の発熱による破壊や駆動する(交流をコイルに流す)半導体の破壊をもたらしますが、その兆候が「コイル鳴き」です。昔は耳と鼻で電子回路の不良を見つける修行をしましたが、ACアダプターに高負荷をかけると音がするのに気付いている人はいるでしょうか。 https://youtu.b…

危なそうな「放電おもちゃ」と規制

大気圧プラズマを使ったおもちゃを見つけました。 https://www.youtube.com/watch?v=b8NmY5PCYvk 電圧は10000V以上出ているはずです。繰り返しの短いパルスとして高電圧を発生させて放電を起こしています。電流の総計が弱いので大丈夫なのだと思います。また、短いパルスは導体の内部には侵入しないことも寄与しているかもしれません(表皮効果)。人間に流して痛みを感じるのは1mA程度なので、それよりもずっと低いことが保証されれば使ってもいいかもしれません。溶接の講座で習ったのは、25mA流れると生命に重大な危険があるという話でした。下記の記述もおおむね一致しています。…