Archimedes Palimpsest はインクが鉄を含んでいたので解読できた

Archimedes Palimpsest の詳しい解説がなかなか見つからなかったですが、静岡大学のものが分かりやすいです(下記pdf)。 https://www.sci.shizuoka.ac.jp/sci/wp-content/uploads/2021/06/20101203.pdf それによるとArchimedesの写本のインクには鉄が含まれていて、上書きしたインクは鉄がないため、紫外線と可視光の差をとるとArchimedesの方は赤く字が浮かび上がるのだそうです。絵を上書きされたページはそれができなくて、蛍光X線イメージングで鉄の像を撮影することで読めたそうです。時代によりインクの成分…

世界の研究所 Archimedes Palimpsest Project と米国 SLAC (Stanford Linear Accelerator Center)

今週の世界の研究所は、Archimedes Palimpsest Project とスタンフォード大学にある国立加速器施設SLACです。Archimedes…は研究所ではなく、先週金曜日にとりあげたアルキメデスの、1907年に見つかった著作をデジタル化して解読するプロジェクト(1998年に落札した正体不明のIT長者による。1999-2008、すでに終了)です。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%AD%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%91%E3%83%AA…

micro LED のレーザースクレイピング

microLEDはサファイヤ基板上にドーピングをしながらGaN系半導体を成長させて作るのだと思います。GaNそのものは紫外線の領域に発光がありますが、Inを少し混ぜると青、Inをたくさん混ぜると緑(GaNと超格子を作って発光効率を上げる必要あり)、Euをドープすると赤(microLED応用で最近論文多数)となっています。作った後切り離してmicroLEDにしますが、通常の半導体用の回転ノコ(ダイサーdicer)では刃の厚みと素子の大きさがそう変わらないので無駄が多いです。ダイサーは日本のDiscoが高い世界シェアを持っています。 https://www.disco.co.jp/eg/solut…

micro LED の移送用高分子基板

micro LEDのチップ移送・ミクロン単位で狙って貼り付ける技術について、レーザーの会社COHERENTがyoutubeで装置を紹介しています。 https://www.youtube.com/watch?v=f7oe-BEhCzI 信越化学の装置は下記の図から見ると大きそうです(2階建ての家くらい?)。 https://www.shinetsu-microled.jp/product_multi_laser_lift_off_equipment.html 部材の特許を見つけました。 https://ipforce.jp/patent-jp-B9-6842404 微小な凹凸のある表面に粘着剤…

micro LED を色別に並べてディスプレイを作る技術

発光色の違うmicroLEDは異なる半導体でできています。半導体の結晶成長(化学気相成長、CVD)を使って作るので、色ごとに別々のウェファで作らないと事実上製造不可能です。そうなると異なるウェファ上の数十μmのLEDをディスプレイの画素として並べ替えなければならないのですが、これは難問です。最近東レと信越化学が製造装置を発表しました。信越化学はyoutubeに仕組みを載せています(とぎれとぎれで見にくいですが…) https://www.youtube.com/watch?v=m6aV9Bo–Mw レーザーでウエファ上の素子をバラバラに切り出すこと、高分子多層板に張り付けること、レ…

世界の研究所 micro LED 関係 (eLux 社ほか)

今週の世界の研究所は、アメリカのベンチャー企業 eLuxを取り上げます。 https://www.eluxdisplay.com/about ここはシャープアメリカのスピンアウトで、米国と台湾に研究設備を持っているマイクロLEDディスプレイの開発拠点です。設立は2016年で、シャープの経営が日本から台湾の鴻海(ホンハイ)に移ったタイミングですね。マイクロLEDは、50μm以下の赤青緑のLEDを並べて作るディスプレイです。液晶ディスプレイは白色光を液晶シャッターと色フィルターを使って要らない波長の光をさえぎって色を出しているため、各画素の映していない色に対応する発光の電力が無駄になってしまいます…

共鳴ラマン効果と表面増強ラマン効果

ラマン分光は反射配置で振動スペクトルが得られ、物質の同定に役立つ優れた分析法ですが、欠点はラマン散乱が極めて弱く、入射光の10万分の1~100万分の1の強度しかないことです。回避する方法は2つあります。一つは、入射光(レーザー)の波長を調節して試料が電子励起される(吸収する)波長にすることです。これを共鳴ラマン散乱と呼びます。ラマン効果は、物質の光に対する応答(分極率)が分子振動によって変調される効果で、量子力学的には仮想的な励起準位を使う3次の過程です。その仮想的な準位が実際に存在していると、効果が飛躍的に大きくなります。 https://en.wikipedia.org/wiki/Reso…

海の青は水分子の振動のオーバートーンによる吸収が作っている

空の青はレイリー散乱で説明できましたが、海の青はどうか、と考えたのがラマンです。レイリーは「空の青が映っているからだ」と説明し定説になっていました。ラマンはイギリスからの帰国の船の中で偏光子(Nicol prism)を入れて空からの反射光を遮断したところ色が濃くなったため、海の色は海水自身から来ていることがわかったという論文を書きました(Nature 108,36(1921) 101年前です)。実験の結果、水分子のOHの伸縮振動のオーバートーン(非調和ポテンシャルによる多重振動量子吸収)が赤色領域(例えば693nm, OH対称伸縮+3×反対称伸縮)にあり、その吸収のため深い水が青く見えることを…

空の青は偏光している

空が青い理由の理論的な説明に成功したのはRayleigh(レイリー)卿です。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%88_(%E7%AC%AC3%E4%BB%A3%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%AA%E3%83%BC%E7%94%B7%E7%88%B5) 化学ではRamseyと共同でアルゴンを…

世界の研究所 インド Raman Research Institute

今週の世界の研究所はインドのバンガロールにある Raman Research Instituteです。 バンガロールはインド南部の標高920mの高原にあり、IT産業の中心地になっています。 夏の最高気温の記録は38.9℃で、通常34-5℃、冬は最低記録が7.8℃、通常15℃で、日本のほうが過酷です。 ラマン(1888-1970)は、彼の名前で呼ばれる分光法の原理を発見して1930年にノーベル物理学賞を受賞しました。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%BB%E3%82…