スペックルパターンと位相問題

自由電子レーザー自身も技術的に面白そうですが(特にキャビティを作るための半透鏡をどうしているか?)、それはまたの機会に調べることにして、1分子からの干渉パターンによる構造決定法を見てみましょう。 レーザーは可干渉性(コヒーレンシー)が高いので、散乱体が複数あるとその周りに干渉パターンができます。可視光のレーザーを壁などに当ててスポットを見るとギラギラした明暗の模様が見えませんか?これをスペックルパターンと言い、壁の細かい凸凹からの反射光が干渉したものです。 スペックルパターンはは波長程度の動きを拡大して反映するので、いろいろなセンシングに使われます。 https://en.wikipedia.…

世界の研究所 The Lineac Coherent Light Source (米国)

38年ぶりの阪神優勝だそうで、ファンの皆様はおめでとうございます。カーネルサンダース人形は今回は無事でしょうか。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%81%AE%E5%91%AA%E3%81%84 今週は先週の続き、原子像を見る新しい手法の解説で、X線自由電子レーザーを使う方法です。世界の研究所は、日本のSACLA(Spring8に併設, 2011年にレーザー成功)でもいいのですが、そ…

クライオ電顕像に原子を当てはめるアルゴリズム

クライオ電顕では、初期では10Å、現在は2Å以下の分解能で3次元の像が得られますが、原子よりは大きいので、そこに何の原子があるかということはコンピュータと人間による推測になります。 生体分子で重要な炭素、窒素、酸素は原子番号が近いので、クライオ電顕で区別するのはたいへんです。一方、単結晶X線回折では分解能が原子よりも小さいので(回折像の位相問題があるのでまた別種の問題がありますが)原子種の区別はほぼ自動でできるので、クライオ電顕よりは信頼性があります。 そこで、クライオ電顕では分子の一次構造(アミノ酸や核酸塩基の配列)の情報も使ってコンピュータに推測させる方法が開発されています。 その結果、き…

多数の画像から3次元像を再構成するには1つの軸に関して傾ける

クライオ電顕で、タンパク質分子のいろいろな方向からの2次元画像をたくさん集めて3次元構造を復元するFrankのソフトウェアの本人による解説は下記で読めます。 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2844734/pdf/nihms180050.pdf 透過電子顕微鏡は少し色がついた透明な物体に上から平行光をあてて、その半透明の影を2次元画像として撮影するようなものなので、2次元投影図がたくさんできます。 粒子がどっちを向いているかを決めるには、同じ物体に対して照射方向を傾けた画像をいくつか測定すればいいというのがミソです。傾けることで照射方向…

クライオ電顕のノーベル賞受賞者の寄与

クライオ電顕(Cryo-EM)の解説動画は下記がわかりやすいです。 https://www.youtube.com/watch?v=6G550DfY75Q https://www.youtube.com/watch?v=026rzTXb1zw 電顕でタンパク質を見ようと思い立ち、15年(1975-1990)頑張って筋道をつけたのがイギリスのProf. Richard Hendersonで、タンパク質を低温にすれば電子線で破壊されないことを示しました。 急速に水溶液を冷やすことによって氷の結晶が邪魔しないようにする(アモルファスにする)方法を開発した(液体窒素で冷やしたエタンに突っ込む)のが昨日…

世界の研究所 European Molecular Biology Laboratory

先週末は、結晶学の学会に行ってきました。立場上そういう役回りなのだと思いますが、最近は招待されると仕事が一緒についてくるので気力と体力を消耗します。 結晶学というのは物質中の原子位置を決定する体系で「空間群」「位相問題とその解決法」など基本的概念は50年以上前に確立していますが、最近は電子顕微鏡や放射光の発展と情報科学(いわゆるAIやデータサイエンス)の進歩で、結晶を作らなくても原子の位置がわかるようになっています。装置面での著しい進展に驚きました。 今週の世界の研究所は、装置が市販されるようになり急速に普及しているcryo electron microscope(クライオ電子顕微鏡)を用いた…

金属ナノ粒子の光物性と触媒作用

半導体の量子ドット以外にも、物質を微粒子化するとユニークな性質が現れます。たとえば、金をガラスに混ぜると赤いきれいなガラスができることは初期の錬金術師(遅くとも900年ころ)が見つけていますが、金はナノメートルサイズの微粒子としてガラスに混じっています。 下記はガラスメーカーのダウコーニングの博物館のサイトです。 https://www.cmog.org/article/gold-ruby-glass この色は、金属中の自由電子が光によって揺さぶられて動くときにできる「プラズモン」による光吸収です。吸収波長は自由電子密度と形状で決まります。通常の金属では光の波長とプラズモンの波長が合わないため…

量子ドットの高密度励起

量子ドットの性質として、光励起が高密度に行われた場合に特異な現象が起こることがあります。 一つは励起子分子や励起子液滴と呼ばれる励起状態の集合体です。半導体では光励起状態は、価電子帯にできた正孔と伝導帯にできた電子がクーロン力(静電気力)で緩く結合してエネルギーが少し下がった状態「励起子exciton エキシトン、エクサイトン」を作りますが、高密度に生成すると集合体を作って特異な性質を示します。半導体量子ドットでは作られた励起子が拡散していくことができずに無理やり密集します。これによって光の屈折率などの光学的性質が変わるので、光で光を制御する光演算機などが作れると考えられています。量子コンピュ…

半導体量子ドット

半導体量子ドットは1桁ナノメートルから数十ナノメートルの大きさをもつ、GaAs,InP,ZnSなどのコロイド粒子です。量子ドットのディスプレイへの応用については下記がよくまとまっています。 wikipediaには、同じ物質なのに大きさを変えると色が変わっているきれいな写真が載っています。 https://en.wikipedia.org/wiki/Quantum_dot_display 上記はちょっと情報が古いですが、市場に出ているディスプレイの現状は下記です。まだ量子ドットを電流で発光させる技術は量産になっていませんね。 https://softdesigny.com/qled-oled#i…

世界の研究所 英国ベンチャー Nanoco Technologies plc.

今週の世界の研究所は、英国のUniv. Manchester 発ベンチャー Nanoco Technologies plc.をとりあげます。2001年設立です。 https://www.nanocotechnologies.com/about/history/ ここは、今年のノーベル化学賞になった量子ドットの工業生産法を開発してビジネスにしています。特にカドミウムが入っていないものを作っています。 ここの人もノーベル賞候補かな、と思っていましたが2018年に亡くなっていました。 https://news.liverpool.ac.uk/2018/10/22/obituary-professor…