世界の研究所 Ovshinskyの「自宅研究所」

今週の世界の研究所は、今は存在していないUnited Solar Ovonic社を取り上げます。この会社は、発明家Stanford R. Ovshinsky(1922-2012)が作った会社です。この人は大学に行っていませんが、固体素子分野で既存の常識にとらわれない重要な発明をいくつもしています。 https://www.smithsonianmag.com/innovation/stanford-ovshinsky-might-be-the-most-prolific-inventor-youve-never-heard-of-180970276/ https://en.wikipedia.…

マキャベリ 人に頼るな

今週来週の集中講義でバタバタしていたら、もう金曜日です。今週のマキャベリは13~15章から抜粋します。 ・(戦争で加勢を受けることを戒めて)他人の武具は背中からずり落ちるか、重荷になるか、体を締め付けらえるか、そのいずれかになる。 ・君主が自分の都市国家の地形を熟知するように努力すると、より防備に工夫を凝らすことができ、さらに新しい土地を調べるときにもコツをつかんでいるので手軽に応用が利くようになる。 ・心の鍛錬については、歴史書に親しみ、偉人の所業に思いを致し、その勝敗の理を究明して勝つ方法に従うようにするべきである。さらに、優れた人が模範とした事柄を自ら実行しなければならない。 ・鍛錬を積…

マキャベリ イタリアの分裂と傭兵

今週のマキャベリ「君主論」は、第8章~12章です。いくつか抜粋します。 (8章) 一つの国をかすめ取るにあたって、その征服者は一気呵成にぜひとも必要な荒療治をことごとくやってのける、つまりひと思いにすべてを断行し日ごとにそれを蒸し返したりしないように、また蒸し返しをやらずに人心を収攬し、恩恵を施してこれをつなぎとめておけるようにすることである。 (9章)人間は今まで悪人と思い込んでいた人にも良いところがあるとわかると、余計にその慈悲がありがたくなるもの。 (10章)人間の性質として、自分が恩恵を施しても、またそれを施されても、同じように義理を感じるものなのである。…賢明な君主にとって、籠城にあ…

海に鉄塩を撒くと本当に植物プランクトンが増えた

マーチンの鉄仮説の実験結果は下記に良くまとまっています。 https://ippjapan.org/archives/1265 まとめると下記です。 ・鉄散布の有効性は認められ、1990年代当時のCO2排出量の25%を吸収するポテンシャルがあることが分かった ・2週間で植物プランクトン数に顕著な効果があるという即効性 ・CO2吸収効果のためには、最終的に炭素が沈降して出てこなくなる必要があるが、動物プランクトンの数などに左右されるので不安定 ・植物プランクトンは増えすぎると「赤潮」「アオコ」なので、制御できない場合は危険。特に漁業への影響。 ・関連実験は、海洋への廃棄物投棄に関するロンドン条約…

マーチンの鉄仮説

マーチンの鉄仮説の話の流れはこうです。(J. H. Martin, Paleoceanography 5 (1990) 1-13) ・氷床試料中のCO2分析により、氷河期はCO2濃度が低いことが知られている。(氷河期は200ppm以下、産業革命前は280ppm、ちなみに2020年は420ppm) https://ds.data.jma.go.jp/ghg/kanshi/ghgp/co2_trend.html ・海は植物プランクトンがCO2を吸収するため、大気の60倍のCO2貯蔵能力があることが知られている。 ・Martin博士らが、いろいろな海域・深さのFe,N,P,C濃度と植物プランクトン密…

世界の研究所 Moss Landing Marine Laboratories

今週の世界の研究所は、米国カリフォルニア州の Moss Landing Marine Laboratories を取り上げます。ここは、カリフォルニア州立のSan Jose State University(1857設立)が運営し、23校のカリフォルニア州立大学機構が共同参画している海洋学の研究所です。Moss Landingは地名のようです。 https://mlml.sjsu.edu/ 博士審査の公聴会(thesis defenses)が写真入りで世界中にアナウンスされているのが面白いです。 https://mlml.sjsu.edu/defenses/ California州には、Cal…

マキャベリ(4) チェザーレ・ボルジア

今週の「君主論」は、第7章と8章をとりあげます。他人の力と幸運でで権力を得たケースと、犯罪的所業で権力を得たケースです。他人の力の方は、チェーザレ・ボルジア(Cesare Borgia, 1475-1597)が登場します。この人は「君主論」で繰り返し出てきて、マキャベリズムを体現した人物とされています。法王の息子で、政敵をつぎつぎに謀殺したりして強引にイタリア諸都市(教会領)を支配下に置きましたが、マラリアがローマに蔓延したとき父・法王の死と同時に自分も発病したため政敵が法王に選出されてしまいました。賛成の条件として協力関係の協定を結んでいましたが法王に破棄され、逮捕→虜囚→脱出→戦死という経…

Archimedes Palimpsest はインクが鉄を含んでいたので解読できた

Archimedes Palimpsest の詳しい解説がなかなか見つからなかったですが、静岡大学のものが分かりやすいです(下記pdf)。 https://www.sci.shizuoka.ac.jp/sci/wp-content/uploads/2021/06/20101203.pdf それによるとArchimedesの写本のインクには鉄が含まれていて、上書きしたインクは鉄がないため、紫外線と可視光の差をとるとArchimedesの方は赤く字が浮かび上がるのだそうです。絵を上書きされたページはそれができなくて、蛍光X線イメージングで鉄の像を撮影することで読めたそうです。時代によりインクの成分…

世界の研究所 Archimedes Palimpsest Project と米国 SLAC (Stanford Linear Accelerator Center)

今週の世界の研究所は、Archimedes Palimpsest Project とスタンフォード大学にある国立加速器施設SLACです。Archimedes…は研究所ではなく、先週金曜日にとりあげたアルキメデスの、1907年に見つかった著作をデジタル化して解読するプロジェクト(1998年に落札した正体不明のIT長者による。1999-2008、すでに終了)です。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%AD%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%91%E3%83%AA…

マキャベリ(3) サヴォナローラとヒエローン2世

今週の「君主論」は、第6章「自分の手勢で勇敢に獲得した支配権」です。いろいろな例が出てきます。歴史上の例を挙げて「自力がないと国の支配権を新しく得たり維持したりすることはできない」ことを論証していますが、名前だけあがっている例がどれも「濃い」のでこの本が「難解」との評はわかります。また、例をつなぐ一つ一つの文がそのまま警句としても成立します。おもしろかったのは 「賢人は過去の優れた人たちを見習うべきである。その理由は、弓の達人が、遠くて届かない的を射るときに的の高さよりもはるかに上を狙うのと同じである」 「人間はなにか的確な実験によって納得しないと新しい制度を信用しない」 武力を持たなかったた…