世界の研究所:慶応義塾大学・斯道文庫

今週の世界の研究所は、慶応義塾大学附属研究所・財団法人斯道文庫を取り上げます。 http://www.sido.keio.ac.jp/index.php 教授5人、専任講師1人のこじんまりした組織で、炭鉱・セメント王の麻生太賀吉氏の寄贈がもとになっていて、日本および東洋の古典を研究しているようです。確かに、古文書は改築などに伴ってまだまだ出てくるでしょうから、寄贈先が必要ですね。国公立大学は経費の管理が面倒なので、私立大学はよい受け皿になると思います。西行について色々調べていたらここで行われた面白い展覧会を見つけました。近くなら行きたかったです。 https://bijutsutecho.co…

高収量小麦品種「奇跡の種」と農林10号

高収量小麦の「奇跡の種」はメキシコで開発された品種ですが、その一代前は日本産の農林10号です。この開発者(稲塚権次郎氏)の話は2015年に映画になりました。あまり知られていない偉人(unsung hero)の一人だと思います。こういう先人がたくさんいることを考えると、襟を正して精一杯働かなければならないと思います。 https://www.norinten.com/ https://www.mx.emb-japan.go.jp/files/000255144.pdf https://blog.goo.ne.jp/bbsuesanga/e/044fa5db5003520823078449052b…

核分裂と三人の女性科学者

レニウムの発見者とされているドイツのグループを調べていたら、Prof. Ida Noddack(Tacke)という女性研究者の貢献があることを知りました。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%BB%E3%83%8E%E3%83%80%E3%83%83%E3%82%AF この人は原子核への中性子照射実験の生成物の議論で核分裂の可能性を初めて指摘したことでも知られています。レニウムは故郷のライン川からとっているそうです。 核分裂といえば、Prof. Lise MeitnerとProf. Otto Hahnが…

幻のニッポニウム

レニウムといえば、幻のニッポニウムの話を避けて通れません。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%83%E3%83%9D%E3%83%8B%E3%82%A6%E3%83%A0 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%83%8B%E3%82%A6%E3%83%A0 明治40年(1908)小川正孝博士は英国のW. Ramsayの下に留学してスリランカの鉱物から化学的にレニウムの単離に成功しました。昔ですから、新スペクトルを示す塩を単離、沈殿の質量を測定し、金属の価数を仮定して原子量を算出するという地…

世界の研究所:炭素繊維複合材料発祥の地 通産省大阪工業試験所(現 産総研関西センター)

先週はいろいろなニュースがありました。ロシアの反乱(未遂?)と潜水艇の話が印象的でしたが、今週は潜水艇のほうにしましょう。関係の方々の魂が安らかであることを祈ります。遭難した潜水艇はカーボンファイバー強化プラスチック(carbon fiber reinforced plastics=CFRP)で作られていたという情報があります。今週の世界の研究所は、カーボン複合材の発祥の地(特許1959年)といえる旧・通産省・大阪工業試験所(現:産業技術総合研究所関西センター)を取り上げます。進藤昭男博士の活躍は国立研究所と産業界の連携がうまくいった成功例として知られています。 https://www.ais…

The Door into Summer(4) 時間の矢とエントロピー

金曜日のThe door into summer は第3章です。本文は後にして、時間についての考察を続けましょう。大学1年生に熱力学を教えています。今週はエントロピーの説明をしたら、強い興味を示してくれました。説明がうまくなったから、と言いたいところですが、年によって反応が変わっているだけでしょう(揺らぎの範囲)。私の知らない最近のテレビドラマかマンガでエントロピーが出てきたのかもしれません。さて、熱力学第二法則は「孤立系のエントロピーは増大する」と表現されることがあり、これは「エントロピー」という言葉を作ったClausiusの本に書いてあるそうです。また、エントロピー増大と時間が一方向に流れ…

撮像管とコピー機の感光ドラムの類似性

HARP管のもととなった撮像管は真空管の一種です。1927年にP.T. Farnsworth(ファーンズワース)が低感度の実験に成功、実用化に成功したのはV. K. Zworykin(ツヴォルキン)です。今はほとんど使われませんが、天才的な発明の一つだと思います。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%92%AE%E5%83%8F%E7%AE%A1 今のデジタルカメラは画素ごとに電線がつながっていて一つ一つの画素に当たる光の強度を直接電気的に測定できますが、微細加工技術がないときにどうしていたかわかりますか? コピー機の感光ドラムは、帯電させておいて光が当たったと…

世界の研究所:NHK放送技術研究所とHARP撮像管

今週の世界の研究所は、東京世田谷区にあるNHK放送技術研究所をとりあげます。 https://www.nhk.or.jp/strl/ 職員250名(うち研究者200名余)、地上14階建てとのことで、大規模ですね。 ここの有名な発明の一つは、高感度カメラに使われるHARP撮像管で、アモルファス半導体応用の一つの到達点です。この発明者の文章(下記pdfリンク)は一読の価値があります。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/bplus/11/2/11_138/_pdf 工業高校卒からNHKの地方局の技師として採用され、社内留学制度で放送技術研究所で撮像管の研究に短…

発明家教授 ブリッジマン

Percy W. Bridgman(ブリッジマン)は、ハーバード大学の実験物理学の教授でした。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%B8%E3%83%9E%E3%83%B3 結晶成長のBridman-Stockbarger法の開発や、 https://en.wikipedia.org/wiki/Bridgman%E2%80%93Stockbarger_method 硬い物質と柔らかい物質を組み合わせて漏れを無くし高…

産業界の理想的研究者 ボッシュ

高圧技術の初期に大きく貢献した人は私見では2人いると思います。一人は、ハーバード大学の実験物理学者Percy W. Bridgman, もう一人はドイツBASF社の技術者→経営者のCarl Boschです。2人ともノーベル賞をもらっていますが、それを離れてもいろいろな点で偉人です。 Boschからいきましょうか。下記はよくまとまっています。産業界の研究者として理想的な仕事ぶりではないでしょうか。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%…