世界の研究所 Max Plank Institute for Intelligent Systems, Haptic Intelligence Center

今週の世界の研究所は、Max Plank Institute for Intelligent Systems のHaptic Intelligence Center です。 https://hi.is.mpg.de/ Haptics(「ハ」プティックス)は「触覚」を人工的に生み出す技術を指します。超音波波面制御の応用の一つです。大学など日本を含む世界中で研究されていますが、センターという名前になっているのは少ないです。ベンチャーもいくつか立ち上がっています。今週はhapticsを解説しますが、超音波を使わない方法もあり、今日はそちらを扱います。 We leverage scientific k…

企業会計 privatization と Management BuyOut (MBO)

今週の企業会計は、privatization (株式公開廃止)について紹介します。public company(公開会社)は、株主に経営の状況や計画をinvestor relations (IR アイアールという)で知らせる義務があり、競合他社に真似される危険があるため、management buyout (MBO、経営陣が株式を全部買ってしまって非上場にすること。市場価格よりも高い額を提示して買い集める)が行われます。株式上場は大きな設備投資などに必要なお金を株主から集めるのが目的なので、ソフトウェアなどのデジタル技術、ファブレス製造業、サービス産業などは必ずしも株式を公開する必要はないこと…

MEMSの最近の動向とbio-MEMS

超音波については来週に回すことにして、MEMSの最近の動向について。加速度センサー、気圧センサー、マイクなどはスマホやゲーム機、時計などに搭載されて日常に使われています。光学部品としては、MEMSで動く微小な鏡を使って超小型プロジェクターなどが実現されています。 https://www.youtube.com/watch?v=_8zq1JoI_eY 人体、特に神経系と機械のインターフェースの研究が盛んになっています。下記が2017年のレビューです。 https://www.nature.com/articles/micronano201666 ・視神経とのインターフェースで人工網膜(実用にはま…

希ガス化合物の発見者

たまには化学を扱いましょう。Xeは、RamseyとMorrisが大気を液化・分離して発見しました(1898年)。大気中には0.05ppmしか含まれていないので、高価です。麻酔作用があるそうです。18族元素は長らく化合物は作らないと思われていましたが、Neil BartlettがPtF6がO2を酸化できることを発見し、さらにO2とXeがほぼ同じ第一イオン化エネルギーを持つこと(1165と1170kJ/mol)に気づいて、XeとPtF6(赤い気体のようです)を混合することによりXeの化合物(オレンジ色をした結晶)を初めて合成しました(1962年)。これは教科書:シュライバー無機化学にも載っている話…

二フッ化キセノン XeF2

MEMSを作るときには、シリコンの狙った場所を深彫りしたり、空洞を作りたいときがあります。フッ素系のプラズマも使いますが、XeF2は独特の長所がありよく使われます。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E3%83%95%E3%83%83%E5%8C%96%E3%82%AD%E3%82%BB%E3%83%8E%E3%83%B3 XeF2は有機化学のフッ素化試薬としても使いますが、下記の文献にあるようにXeF2はSi犠牲層エッチングにより中空構造や歯車などを作ることができます。ウェットエッチングでは表面張力による貼り着きが問題になりますが、XeF2はドラ…

世界の研究所 東北大学マイクロシステム融合研究センター 他

今週の世界の研究所は、MEMSの研究設備をとりあげます。東北大学のマイクロシステム融合研究開発センターです。 http://www.mu-sic.tohoku.ac.jp/memsintsukuba10.html 日本の大学でMEMS技術を研究しているセンターと言えばここでしょう。設備は試作コインランドリという名前を付けています。2000m2のクリーンルーム内にあります。年間経費4億円のうち、半分以上を委託費収入で賄っているようです。 http://www.mu-sic.tohoku.ac.jp/coin/ 価格表も載っていますが、一時間2000円~25000円くらいです。例えば、電子ビーム蒸…

企業会計 start upで重要な調整後売上原価(reconciled cost of revenue)

しばらくお茶を濁していましたが、今週は金曜日の企業会計をまじめに?やりましょう。今週扱ったButterfly Network社の情報が下記です。 https://finance.yahoo.com/quote/BFLY/ によると、Market Cap 時価総額 1.8B$(2030億円)なので、Unicorn企業の条件≧1B$は満たしています。Unicornのリストから外れたのは、創業2011年なので、10年を超えたからのようです。このweb siteのFinantials>Income Statement (損益計算書PLとほぼ同義)を見ると、Gross Profit (売上総利益)…

MEMSスピーカー、マイク、ジャイロ

MEMSはシリコンウェファ(他の物質もある)に立体的な構造を作って機械として動かすもので、歯車なども作れますが、よく見るのは中空の平行平板構造で、電圧をかけて静電気力で変形させたり(MEMSスピーカー、圧電材料が入っていることもある)、逆に変形を容量変化や抵抗変化(ピエゾ抵抗効果といい、半導体結晶が曲げられたときに抵抗がわずかに変わる効果)として測定する(MEMSマイクロフォン、気圧計)用途があります。ゲーム機の操作部分に入っている加速度センサーもおもりの動きによるMEMSの変形を見ています。MEMSジャイロもあります。これは通常のジャイロは回転する部分がありますが、振り子のように振動する物体…

超音波撮像装置の仕組み

超音波撮像装置は、魚群探知機のソナーと基本原理は同じですが、もっと波長の短い超音波を使っていろいろなビームを出して3次元画像も得られます。送信側の波面を制御することにより解析が容易になります。 生体の大部分を占める水の中の音速は5km/sです。0.5mmの分解能が欲しければその程度の波長が必要なので、v=fλでλ=0.5mm, v=5km/sを入れると、f=10MHzになりますね。今の電子回路なら波面制御(100MHzくらいでの制御が必要)も余裕ですが、それなりの技術力は必要になります。MEMS式を自分で作れと言われたら、ちょっと躊躇します。下記、従来型のスキャナヘッドだと、超音波発生源が30…

スマホ表示型 超音波撮像装置

Butterfly Network社のスマホ表示型 超音波撮像装置(20万円、通常診断装置は2013年に200万円という広告がありました)について調べました。驚いたことに、Butterfly Network社の創業者 J. Rothberg(技術者兼起業家で、DNA配列解読装置で有名)を筆頭著者として今年の5月にPNASに論文が公開されています(open access、タダで読めます)。 https://www.pnas.org/content/118/27/e2019339118 この論文は分野外でも一読に値します。従来、圧電素子で造られていた多数の超音波発生装置をシリコンチップ上のMEMS…