世界の研究所 中国科学院重慶緑色智能技術研究院

今週の世界の研究所は、中国科学院重慶緑色智能技術研究院を取り上げます。 http://www.cigit.cas.cn/yjycg/kyjz/ ここは、Green & Intelligence を標榜(ひょうぼう)していろいろな加工・計測技術を研究しているようです。中国科学院傘下の研究所は多数ありますが、ここはwebがちゃんと更新されています。重慶は揚子江の上流の都市圏人口3000万人の大都市ですが、夏は猛暑日が続いてかなり暑いようです。80年前の戦争では臨時首都となり、日本の攻撃を受けました。 https://en.wikipedia.org/wiki/Bombing_of_Chon…

Justice 第六章 ロールズによる格差主義

今週のJusticeは、第6章”The case for equality / John Rawls”です。20世紀の哲学者ジョン・ロールズ(1921-2002)による正義論を解説しています。不勉強でこの人については知らなかったのですが、ずばり “A Theory of Justice”が主著で、この本の著者Sandelと同じハーバード大学の哲学の教授でした。前任者かもしれません。同意できるところが多い説だと思いました。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83…

樹木の種類と病気の遠隔観測とAI

UAV(unmanned aerial vehicle,無人航空機)を使って森林を見ると、地上を歩きまわって観察する方法に比べて圧倒的に省力化できることはわかると思います。少子高齢化により林業従事者が減っていますので、省力化は重要です。カメラ画像から木の種類を見分けること、木が健康かどうか(枯れているかどうか)を判別することは、伝染病を防除する上で重要です。病原体(カビや線虫)は昆虫などを媒介として周囲の木に移ります。 http://www2.kobe-u.ac.jp/~kurodak/health2007.html http://www.ffpri-skk.affrc.go.jp/matu/…

LiDARと鏡のスキャン

LiDARはいま旬の技術で、日進月歩です。ドローンによる地表探査以外にも、自動車の自動運転に必要な周囲の3次元マッピングに使うことになっています(除 Tesla Motors)。 光の速度は3x10^8m/s=3x10^10cmなので、光が3cm進む時間は10^-10秒=100psです。これは周波数にして10GHzに相当します。この時間差を検出しなければならないので、高精度の時計と速い電子回路が必要になります。跳ね返ってくる光の信号は弱いので、増幅する必要がありますが、10GHzの信号を取り扱えるトランジスタは通常のものではありません。GaAs等の移動度の高い半導体を小さく(電子の走行距離を短…

ドローンによる森林モニター

森林をドローンから見てその健康状態(日本語としては変ですが、英語はhealth)を調べるためには、カメラの他にLiDAR(ライダー)が使われます。LiDAR (light detection and ranging) は、レーザーをパルスで照射して、反射光の時間遅れを測ります。精度を上げるのは技術的にたいへんですが、それは明日にして、何が分かるかの動画が下記です。 GPSと組み合わせて森林の3次元像が見えます。 https://www.youtube.com/watch?v=EYbhNSUnIdU 葉っぱの隙間から見える地表を描画することでジャングルに埋もれた遺跡が分かります。 https:/…

世界の研究所 ニュージーランド政府系研究機関 Scion

今週の世界の研究所は、ニュージーランドの政府系の研究所 Scion を取り上げます。 https://en.wikipedia.org/wiki/Scion_(Crown_Research_Institute) ニュージーランドの政府系研究機関はCrown Research Instituteとして統合され会社組織で運営されていて、Scionはその一部で第一次産業や気候変動、生物工学の科学研究を行う組織のようです。ニュージーランドは人口は500万人弱、北海道くらいですね。面積は27万平方キロで、日本の3/4。林業が盛んなので、Scionはドローンを使った森林管理の研究もしています。 http:…

Justice 第五章 カントの主張

今週のJusticeは、第5章”What matters is the motive / Immanuel Kant”です。功利主義を徹底的に嫌ったカントの主張を解説しています。カントは、ケーニヒスベルグ(現:ロシアの飛び地カリーニングラード)で活動した哲学者(1724-1804)で、功利主義のベンサムと同時代です。大学に入ったころ、背伸びしてカントを読もうとしましたが難しくて挫折しました。この章の解説はわかりやすいです。私なりに単純化すると、(1)自分と他者の区別なく、理性的存在を無条件に尊重する姿勢から正しい道徳が生まれる、(2)結果consequenceではなく、…

重粒子線の方向転換には超伝導磁石を使う

800MeVの運動エネルギーを持つ重粒子線は加速器で作ります。加速器の詳細は別の機会にします。それだけの運動エネルギーを持つ粒子の方向を変えないとピンポイント照射できませんが、どうするのでしょうか。磁場を使っているようです。荷電粒子は電場でも磁場でも曲げられますが、高速粒子を電場で曲げるには高い電圧が必要で、放電が起こってしまいます。800MeVなら、全部でざっと100MV = 一億V は必要でしょう。ベクトルの計算をすればわかりますね。一億Vは、雷雲と地表の電位差の桁で、放電を防ぐのは極めて難しいです。その点で、磁場は使えますが非常に強い磁場が要るので、大きな超伝導磁石が使われています。動画…

高エネルギー粒子線はターゲットの内部深くで働く

800MeVに加速した炭素イオンの速度は光速の84%だそうです。生体深さ30cmまで侵入して破壊するそうですが、重粒子線の速度と散乱断面積の関係が気になりますね。 下記論文が最近のレビューで、Figure 1 に深さと与えるエネルギーの模式図が書いてあります。表層が0というわけではないですが、確かに深いところにピークがあります。陽子線に比べてピークが鋭いので、有効性は高そうです。このピークをブラッグピークというそうです。 https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fonc.2020.00082/full その理由は、おそらく高速イオンによる標的(…

重粒子線治療

加速器で炭素等の重粒子の多価イオンを加速して生体に照射すると、一定の深さの領域のDNAにダメージを与えることができます。これは、粒子が高速で運動しているときは物質との相互作用が小さいが、物質中で減速されると急に相互作用が大きくなることを利用します。X線やγ線に比べて他の組織への障害を少なくして体の内部にある腫瘍を破壊することができるため、病気によっては有効性が高いとされています。wikipedia に日本語版、ドイツ語版、中国語版しかないことからわかるように、日本が先行している方法で、日本には7か所施設があります。私はたまたま通りかかってQST病院の施設の建設現場を見たことがありますが、地下に…