核燃料と臨界、ウランの同位体濃縮法

昨日のTRISO-X核燃料(私が「たどん」と呼んでいるもの)は空気冷却でメルトダウンはしないとのことなので、核分裂するウラン235の濃度が低いのでしょう。ウラン235の核分裂はちょっと変わっていて、低速中性子(熱中性子)が原子核にぶつかることによって起こります。その際に、高速の中性子が飛び出しそれは反応を引き起こさないので、ウランだけでは核分裂はゆっくりとしか起こりませんが、減速材と呼ばれる中性子の速度を落とす物質を突き抜けるように配置しておくと高速中性子が低速中性子に変わり核分裂がつぎつぎに起ります。これが核分裂連鎖反応(nuclear fission chain reaction)で、連鎖…

世界の研究所: X-energy社

トランプ関税で経済指標が乱高下していますが、原油価格もその一つです。中期的には関税で不景気がくること、脱炭素の動きが逆回転することからエネルギー価格は下がるのではないかと予想されていますが、短期的にはガソリンの価格が上がったりしています。先週は米国のDow Chemicalの工場敷地内に小型原子力発電所を建設するための認可を米政府に申請したというニュースが入ってきました。以前紹介したヘリウムを700℃に加熱する高温ガス炉で、「たどん」型の燃料を使って空冷で動かせるような原子炉です。作っているのはベンチャー企業のX-energy社です。”X”とつくのでElon Musk氏が絡んでいるのではないか…

The Consciousness Instinct(11):第10章(完) 意識という本能

金曜日の読書”The Consciousness Instinct:…”は第10章=最終章です。これまでの議論のまとめを踏まえ、本の題名でもある「意識という本能」について語られます。 Kendall, Polanyiなど著者が若い時に影響を受けた20世紀の哲学者の考察を紹介(面白いですが長くなるので割愛します)、脳科学者たちの説の変遷を説明し、125年前の Willam Jamesの本”What is instinct?”からの引用から「本能」の定義を述べて「意識」が「本能」の一種であることを論証しています。ちょっと論理に飛躍があるように思いま…

硫酸ストロンチウムの殻を持つ放散虫については何もわかっていない

珪藻(diatom)は藻類(algae)の一種で植物でしたが、同様に微小な海洋プランクトンでシリカの殻をもつものがあります。放散虫(radiolaria)です。これは単細胞の動物プランクトンです。大きさは10μm~1mmで800種類が知られているそうです。 https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/bb0019.html 寿命も餌もわかっていないが海にはたくさんいる、というのが面白いですね。 放散虫が海洋底に降り積もってできた岩がチャート (chert)です。チャートは石英質の硬い堆積岩(sedimentary rock)ですが、この中からフッ酸処理や水酸化…

珪藻は通常の植物と違う代謝系をもつ:高効率の光合成、シリコンの輸送

珪藻は20万種類いて、海洋中のCO2固定の半分を行っているそうです。地上の植物と比較して光合成の効率がよいためその仕組みは活発な研究対象です。地上植物の葉緑体とは別の構造をもっていること、海水中の低濃度のCO2をHCO3-として濃縮しイオンポンプで輸送してから炭酸固定酵素Rubiscoの直前でCO2に戻すなど、いろいろヒントになりそうな仕組みを備えています。 https://sci-tech.ksc.kwansei.ac.jp/~matsuda/Research.html Rubisco(ルビスコ)はMgを活性中心に含んでおり、光合成に必須なタンパク質で、高等植物も含め、種の間でほとんど変異が…

珪藻のきれいな殻はアモルファスSiO2

珪藻はSiO2の殻を持っていて、有機物を除去するときれいな顕微鏡用の標本ができます。販売している人がいます。 https://oshihaku.jp/article/14553857 ショップがありました。安いのは1000円弱から、高いのは10万円超ですね。10~100μmの珪藻や放散虫を手で並べているのだと思います。すごく器用な人ですね。 私の性格だと買っても1年後には行方不明になりそうですが、ゆっくり観察したら気晴らしになりそうです。 https://micro.sakura.ne.jp/mws/J_2023.htm 珪藻は単細胞生物だそうです。殻の複雑な構造の理由が知りたいですね。 通常…

世界の研究所:国際珪藻学会

先週、エイプリルフールのネタがいくつか流れてきてそこから手繰って下記の驚きの実験を見つけました。 https://www.youtube.com/watch?v=y9lwkhSs5VA 対称的な形できれいですね。パイプユニッシュ処理で残ったものは珪藻と放散虫のように見えます。 過去の記事で珪藻はケイ素やCO2の関係で言葉だけ2回登場していますが、詳細な解説はまだでした。 https://www.sekaiken.com/?p=1277 https://www.sekaiken.com/?p=1506 調べてみたら、国際珪藻学会というのがありました。 https://isdr.org/dom/ …

The Consciousness Instinct(10):第9章 右脳と左脳と意識

金曜日の読書”The Consciousness Instinct:…”は第9章です。第8章で量子力学が巨視的な大きさをもつ生命に影響を与えているのが酵素の活性中心であり、その量子的揺らぎが遺伝子の突然変異につながっているという説が紹介されました。続く9章では、筆者が連続した泡に例えている意識の本質についていろいろな例を用いて説明しています。箇条書きしましょう。 ・昔行われたてんかん(epilepsy)の治療で脳梁を切断した患者を調べたところ、左脳と右脳に分離した意識が2つあることがわかった。左脳の意識は話すことができて、完全に正常だと言っている。右脳の意識は、目で見…

羊皮紙の作り方と最新型iPadの書き味

今日は羊皮紙の作り方です。昨日のサイトに詳しい情報がありました。 https://youhishi.com/manufacture 動物の皮を石灰水に漬け込んで脂肪や溶けやすいタンパク質を除去します。これはアルカリ性であることを使っているのでしょう。 それから物理的に引き延ばしてから特殊な刃物で不要物(毛や油など)をそぎ落とします。さらに石灰水処理を繰り返すので3週間かかるそうです。羊1頭からとれる量はA4で4~6枚とのことで、高価なのがわかります。上記サイトのショップではA4の大きさ1枚で3000~5000円です。 文化財の紙と羊皮紙を比較した電子顕微鏡写真が載っている論文(?)がありました…

パピルスの製法とCFRP(炭素繊維強化樹脂)

結局のところ月曜日に紹介した15世紀の文献は、歴史ファンタジー小説が書いてあったものと言ってよいでしょう。昔の手紙、絵巻や歴史的遺物を見るのは、本当に歴史で習った人物がいたのだ、という感動を生みます。が、現代の漫画や小説の莫大な生産量、さらにAIが人間の心を揺すぶるお話をいくらでも作れるようになると考えると、15世紀のマーリンの物語の失われた章を調べる意義というのはかすんでしまうかも(?)・・・と言うと絶対に怒られるでしょうね。 さて、この文献は羊皮紙に書いてあったものですが、まず羊皮紙屋さんが解説しているパピルスの作り方を見ましょう。実際に作っていて素晴らしいです。 https://youh…