核燃料と臨界、ウランの同位体濃縮法

昨日のTRISO-X核燃料(私が「たどん」と呼んでいるもの)は空気冷却でメルトダウンはしないとのことなので、核分裂するウラン235の濃度が低いのでしょう。ウラン235の核分裂はちょっと変わっていて、低速中性子(熱中性子)が原子核にぶつかることによって起こります。その際に、高速の中性子が飛び出しそれは反応を引き起こさないので、ウランだけでは核分裂はゆっくりとしか起こりませんが、減速材と呼ばれる中性子の速度を落とす物質を突き抜けるように配置しておくと高速中性子が低速中性子に変わり核分裂がつぎつぎに起ります。これが核分裂連鎖反応(nuclear fission chain reaction)で、連鎖反応が起こるか起こらないかのギリギリのところを「臨界」(criticality)と呼んでいます。臨界をわずかに超えたところで減速材や反射材といわれる水や黒鉛をウランの棒状の塊(燃料棒 fuel rod)の間に出し入れする(制御棒 control rod)ことにより原子力発電の出力を制御します。制御に失敗するとチェルノブイリのように爆発的な反応が起こったり、冷却に失敗するとスリーマイル島や福島のようにメルトダウンしてしまいます。その時の被害も悲劇的ですが、致死的な放射能がむき出しになるため後始末がたいへんになってしまいます。第4世代の原子炉は温度がメルトダウンまで上がらないように核燃料の密度を低くしているのが鍵だと思います。TRISO-Xを作る時はおそらく、穴の開いた球状の容器に芥子粒くらいの核燃料を入れてから蓋を溶接していると思いますが、保管時には臨界が起らないように細いパイプに入れておいて、球状容器にいれたら素早く蓋をしてしまうのではないかと思います(時間がなく、資料を探せていません)。容器が平べったいか細長いかずんどうかによって、中性子が他の原子核にぶつかる率が変わるので臨界になったりならなかったりします。東海村JCOの臨界事故が重要な教訓です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E6%B5%B7%E6%9D%91JCO%E8%87%A8%E7%95%8C%E4%BA%8B%E6%95%85
ウランの同位体は238:235:234が存在比 99.28%:0.71%:0.0054%だそうです。原子炉に使えるのは235だけなので、同位体を濃縮する必要があります。マンハッタン計画で開発された方法が今もつかわれています。六フッ化ウランUF6を合成してから高速遠心分離で重い238と軽い235を分けます。UF6として分子量352と348で1.1%しか違わないので、遠心分離機(centrifuge)を多数直列(cascade)につないで少しずつ濃縮する必要があります。詳細は下記に詳しいです。この遠心分離機は核拡散防止の観点から厳しく輸出規制されています。機械精度が要求されるので、工作機械からちゃんと作らないといけません。
https://www.jnfl.co.jp/ja/business/about/uran/summary/centrifuge-cascade.html

英語は関連用語。
nuclear fission 核分裂
nuclear fusion 核融合
supercritical condition 超臨界状態
criticality 臨界
critical condition 危篤
Treaty on the non-nuclear proliferation of nuclear weapons (NPT) 核(兵器)拡散防止条約
thermal neutron 熱中性子
radiation exposure 被ばく
lethal level of radioactivity 致死的放射能
tragic 悲劇的
comical 喜劇的
ultracentrifuge 超遠心機
ずんどう(寸胴) a cylindrical container
export control / export restrictions 輸出規制
sanctions 制裁
embargoes 特定の品目の禁輸措置  An embargo on arms sales 武器販売の禁輸措置

Leave a Comment

Comments

No comments yet. Why don’t you start the discussion?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA