世界の研究所:Univ. Bonn, Hausdorff Research Institute for Mathematics

「今日の英語」のネタ探しのために登録しているニュースの複数から「掛谷の針の問題」に進展があった、という通知が来ました。元ネタは下記、先週の米国物理学会のニュースでしょうか。 https://phys.org/news/2025-03-mathematicians-needle-kakeya-conjecture-decades.html わかりやすい解説が下記です。 https://www.quantamagazine.org/new-proof-threads-the-needle-on-a-sticky-geometry-problem-20230711/ 掛谷宗一博士は東北大→東大教授→…

The Consciousness Instinct(7):第6章 意識の強靭さが意味すること

金曜日の読書”The Consciousness Instinct:…”は今週は第6章です。意識という存在は強靭で、脳がダメージを受けてもなかなか無くならない、という事実から意識とは何かに迫ろうとしています。著者(現在85才)は動物学→心理学の教育を受けているphDで、医者ではないですが、大学付属?病院で患者の診療にもかかわっていたようです。脳幹が壊れると意識がなくなりますが、これはバッテリーがはずれた車のようなもので本質ではなく、先週のモジュールと階層構造が重複して情報を受け渡しているので、少しでも情報の経路が残っていればそこが主体的な経験の感覚=意識となると言って…

トランズモンの実装

超伝導量子ビット「トランズモン」は、超伝導体のコイルとコンデンサがループ状につながったもの、昔の名前で「タンク共振回路」です。いまはLC共振回路というそうです。昔の名前は、液体の入れ物(tank)にホースをつないだものからの連想で、その方が味があると思うのですが・・・。 https://ja.wikipedia.org/wiki/LC%E5%9B%9E%E8%B7%AF googleの量子コンピュータのqubitの共振周波数は5GHz程度だそうです。超伝導は抵抗ゼロで電流を運べるので、一度励振すると損失無く振動するはずですが、いろいろな損失があり、振動は100μs程度で減衰するそうです(縦緩和…

トランズモン

超伝導量子ビットのうちGoogle、IBM、理研などが注力しているのは「トランズモン」方式です。解説のweb siteがあります。誤植やリンク切れがありますが、わかりやすい良いサイトだと思います。 https://qualsimu.com/textbook/notebooks/section2/0_1_representation/Transmon.html 超伝導のコイルとコンデンサでLC共振器を作ると、超伝導のクーパー対の波動関数は長時間維持されるので共振器の電気的振動を量子ビットとして使うことができます。 ジョセフソン素子を使っていますが、それは共振器に非線形性を与えてエネルギー準位(共…

超伝導量子ビットの方式

超伝導量子ビットの方式は2つに収斂しています。「トランズモン(transmon)」と「磁束量子ビット(fluxonium)」です。説明は基礎知識が必要なので難しいですが、やってみましょう。わかりやすくする努力をした専門家による解説記事がいくつかあります。 Googleや理研が手掛けているトランズモンは https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe/85/12/85_1048/_pdf https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu/90/4/90_209/_pdf Dwave社が手掛けている磁束量子ビットにつなが…

世界の研究所:理化学研究所(理研)量子コンピューター研究センター

今週は量子コンピュータの話をしましょう。研究機関はたくさんありますが、理化学研究所(理研)に量子コンピューター研究センターというのがあり、色々な方式の研究をしています。今回は主に超伝導を使った方式を解説します。 https://www.riken.jp/research/labs/rqc/ 理研には私が学生のころ(3-40年前)には超伝導パラメトロンの研究室があり、超伝導量子コンピュータにつながる技術がありました。 https://www.riken.jp/press/2014/20140725_1/index.html https://www.riken.jp/pr/historia/com…

The Consciousness Instinct(6):第5章 脳は階層構造を持っているはず

金曜日は英語の話題の(話題になりそうな)本を読むことにしています。今読んでいる”The Consciousness Instinct: Unraveling the Mystery of How the Brain Makes the Mind”の著者の講演がありました。この本の出版(紙版が2018、絶版で昨年電子版になっています)を機に行われた学会の基調講演のようです。 https://www.youtube.com/watch?v=GLIol6viKkI jokeを飛ばして受けていますね。話の組み立てもうまいです。 今週は第5章です。第4章で、脳はモジュールでできている、という…

CAR-T細胞療法が効かない場合

T細胞の攻撃対象である抗原対応性を外から編集したCAR-T細胞療法は万能なわけではなく、効かない場合もあります。よくまとまった下記の論文を見つけました。 https://jhoonline.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13045-021-01209-9 一つは、CAR-T細胞が標的とするMHC-Iを隠している(抗原消失)がん細胞があると対応できません。これは胎児がごく小さいときに母親の免疫系に攻撃されないようにMHC-Iを隠す方法が遺伝子に組み込まれているためのようです。がん細胞はいろいろな変異をおこして免疫系をかいくぐったものが生き残るので、MHC…

キラーT細胞の武器(2):細胞の自爆スイッチ fasとその構造

キラーT細胞の2つ目の武器は細胞の自爆スイッチを押すタンパクfasL(fas ligand)です。fasはファスと読むみたいです。昨日説明したように、細胞があるレベル以上壊れると、DNAや部品を細分化してから細胞膜を破る過程であるアポトーシスが起りますが、それを外部刺激のみで起こす機能(=自爆スイッチ)が正常な細胞にはそなわっています。それが細胞膜にあるfasタンパク(fas receptor, fasRともいう)で、そこにキラーT細胞が放出するfasLがくっつくと動作します。 fasの構造は下記。 https://www.rcsb.org/3d-view/3THM/1 fasL(下記Deco…

キラーT細胞の武器(1) perforin + granzyme

キラーT細胞(細胞障害性T細胞、cytotoxic T cell)の武器は2種類あります。1つは2組のタンパク質で、perforin とgranzymeです。もう一つはfasというタンパク質です。今日は1つ目を説明します。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AA%E3%83%B3 perforinはT細胞の中では「顆粒」という小胞にしまわれていて、顆粒が細胞膜まで移動して(←ここは推測)外部に放出されます。おそらくこの段階では標的細胞はごく近くにいて、perforinは細胞膜にくっつ…