ベルリン医科大学はRobert Kochという細菌学の創始者がいたので感染症の記事が多いのかなと思っていましたが、脳科学や遺伝子治療のプレスリリースが多いのは、これらの分野に新しいことが多いためでしょう。今日は独特の実験による脳科学です。
(1) https://www.charite.de/en/service/press_reports/artikel/detail/why_deep_sleep_is_helpful_for_memory
(2) https://www.charite.de/en/service/press_reports/artikel/detail/when_thoughts_flow_in_one_direction/
(1)は、睡眠時にでる脳波(徐波、δ波とθ波)が短期記憶を長期記憶に移すのを助けているという発見です。研究方法が独特で、脳の手術の時にどうしても取り除く必要があった一部の大脳皮質を45人分集め、10個の極小パッチクランプ探針(上記に写真あり)をあてて各ニューロンと徐波を模した電気信号を外部から与えてシナプスの接続強度を測定しました。その結果、徐波を加えることによりシナプスの接続が強化されたそうです。覚醒時の短期記憶は海馬に蓄えられますが、それを大脳皮質のネットワークに保存するときにこのメカニズムが働いているのではないかと主張しています。徐波のもとで、海馬にある短期記憶を再生すると長期記憶になるのではないか、ということです。これは20年前から知られていた睡眠の重要な役割と言えます。長期記憶を効率的に行いたければ(例:受験勉強の時)には睡眠時間を削らないほうがよい、という現実的な処方箋を与えます。また、外部刺激を与える装置を工夫すれば記憶を強化できるかもしれません。
(2) は、同じ装置と同様の大脳皮質の試料(23人分)を用い、ニューロンのネットワーク構造をしらべたものです。その結果、マウスでは神経ネットワークは短いループが多いが、ヒトの脳では一方向にながれるように構成されていることが分かったとのことです。人工知能の研究に役立つ知見である、と主張しています。人工知能のニューラルネットワークは再帰的な構造をあえて入れることもありますが、一方向に並んだ層状構造が大部分になるので、この実際のヒトの脳の観察と一致しています。
これらの研究は大病院と専門性が極めて高い基礎研究機関が一緒になっていないとできないと思います。この病院ならではの成果と言えるでしょう。ちなみに患者の同意書はとってあるとのことですが、このような医学と関係ない論文に使うとは予想しなかったでしょうね。
英語は上記記事から
”Slow brain waves make neocortex especially receptive”
neocortex 新皮質
receptive 受容性、ここでは記憶を移すための書き込みモードという意味でしょう。
“How do permanent memories form?” 恒久的な記憶はどのように生じるのか?
”Experts believe that while we sleep, our brains replay the events of the day, moving information from the location of short-term memory, the hippocampus, to the long-term memory located in the neocortex.”
hippocampus ヒポゥ「キャ」ンパス 海馬
hippopotamus ヒポ「ポ」タマス かば(河馬)
long-term memory 長期記憶
”…45 patients who had undergone neurosurgery to treat epilepsy or a brain tumor at Charité…,” てんかんや脳腫瘍の治療のためにChariteで脳手術を受けた45人の患者
”This knowledge could be used to improve memory, for example in mild cognitive impairment in the elderly”
cognitive impairment コグニティヴ=認知の impairment イン「ペ」アメント=障害、で認知障害
the eldery 高齢者