Charité(ベルリン医科大学病院)は月に約1回、新しい治療法などのプレスリリースをしています。大規模な病院だからなのでしょうか、わりと多いほうではないかと思います。今日紹介するのは去年の7月の分で、昨日同様に免疫系が関係しますが、HIV(エイズウィルス)に関するものです。HIVは免疫で中心的な役割をするT細胞リンパ球に感染する厄介な病気ですが、”Berlin Patient”という完全にHIVを体から追い出して完治で来た患者の2人目を報告しています。一人目は2008年だそうなので、間がだいぶ空いていますね。よく効く薬ができていてウィルスを抑え込むことはできますが、完全に消す方法は条件がそろった場合の骨髄移植しかないようです。
https://www.charite.de/en/service/press_reports/artikel/detail/hiv_cured_at_charite_the_next_berlin_patient
HIVに感染したT細胞の電子顕微鏡写真が印象的です。ごつごつに見えますが、これが病気のせいなのか、電子顕微鏡観察のための前処理のせいなのか、気になります。
下記を見ると、違う種類のT細胞ですが、3μmくらいの球体に100nmくらいの突起が多数出ています。これが他の細胞の表面を触ることによって異物か正常かを認識するわけです。免疫は分子レベルの触覚だというのは面白いですね。
https://www.researchgate.net/figure/Representative-electron-microscope-images-of-CD4-T-cells-purified-from-fresh-normal_fig3_270962099
幹細胞(骨髄?)の移植で治ったとのことです。T細胞の個人による違いのうち、CCR5という受容体がΔ32というタイプの人はHIVが感染できないことがわかっています。そのような人は欧州では人口の1%いるそうです。そのうち、患者との免疫が適合する人が見つかれば、その幹細胞を移植すればHIVを完治させられるというわけですが、そのようなドナーを見つけるのが大変だとのことです。しかも今回は白血病を併発していたので、幹細胞移植が必要となり、Δ32タイプとそうでないタイプが混在したドナーが見つかった(CCR5レセプターは両親から別々に引き継いで混じっているとのこと)ため、試してみたら混じっていてもOKだったという成果です。HIVの完治はベルリン以外に4人(もう一人はまだ確定していない)いて、世界で6~7人目だそうです。現在、免疫をつかさどるT細胞を患者から取り出し、遺伝子を改変して増やして戻すガンの治療法の開発が急ピッチで進んでおり、安くなればHIVにも応用されるかもしれません。
HIV = human immunodeficiency virus ヒト免疫不全ウイルス
AIDS = Acquired immunodeficiency syndrome 後天的免疫不全症候群
bone marrow 骨髄
“Bone marrow is a semi-solid tissue found is the spongy (also known as cancellous) portions of bones.”
spongy ス「ポ」ンジー スポンジのような
stem cell 幹細胞
leukemia りュー「ケ」ミア 白血病
transplantation 移植
therapy 治療法
infect イン「フェ」クト 感染する
be completely cured 完治した
“The treatment team succeeded in not only treating the petient&s leukemia, but also fully eradicating HIV from his body”
eradicate イ「ラ」ディケイト 消去する