半導体でいま一番伸びているのが生成AIのための大規模並列計算チップです。米NVIDIA社(エヌヴィディア)が画像処理用の桁数の小さい超並列計算チップ(graphic processing unit; GPU)を作っていましたが、NVIDIAはそれを科学技術計算に使うためのCuda(クーダ)という言語を開発し、爆発的に人気が出ました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/CUDA
私もCudaの使い方は勉強したことがあります。並列計算はメモリの共有、同期の取り方など普通のプログラミングからもう一段複雑な(より電子回路に近いレベルの)ことを考えないといけません。GPUを一般用途につかうという意味でGPGPU (General Purpose GPU)という呼び方が一時期行われましたが、いまではまたGPUと呼ばれています。それからニューラルネットワークの性能が上がってGPUの応用先が増えました。さらに、ニューラルネットワークを超大規模にすると普通に質問に答えたり絵をかいたりする生成AIができることが確立され、GPUの高性能化と省電力化の方向に進んでいます。1つのチップが名刺くらいになって、それを積んだグラボサイズのボードが571万円で売られています。トランジスタ数は800億個で、それらがきちんと配線されているというのは気が狂いそうな話です。作るのもお金がかかると思いますが、儲けも大きいと思います。
https://www.gdep.co.jp/products/list/v/6268a7ed8f7b9/
並列計算を自在に行おうとすると、計算単位(プロセッサ)を縦横無尽につながないといけないので、配線の数が爆発します。これは昔のスーパーコンピュータの内部がかわいく見える状況です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/Cray-2#/media/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:EPFL_CRAY-II_2.jpg
猛烈な数の配線を小さいチップに納めるために配線の3次元化が進んでいて、シリコン貫通電極(trans silicon via)の高密度化が現在進展しています。
2次元のいろいろな配線パターンを多層で作ったとしても、縦方向を自在につなげなければ3次元になりません。
https://ja.wikipedia.org/wiki/Si%E8%B2%AB%E9%80%9A%E9%9B%BB%E6%A5%B5
作り方は下記のようです。言うのは簡単ですが、深い孔を掘ったり金属を埋めたりするのは条件出しが猛烈に難しそうで、研究室での自分の実験が簡単に見えてしまいます。
https://www.inrevium.com/pickup/tsv/
これは加工寸法が精密な先端的集積回路を組み合わせて大きなチップを作るいわゆる「後工程(あとこうてい)」の一つで、ラピダスは、この3次元配線をシリコンではなくガラスでやろうとしているようです。
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/09125/
最近の儲け頭と言われている広帯域メモリ high bandwidth memory (HBM)は韓国のSK社と米国のMicronだけがシェアを持っていますが、シリコン貫通電極を駆使して配線を短くすることで、高速動作と省電力を可能にしています。いまのAI半導体はこの高速メモリがカギを握っているようですが、並列計算チップの設計自体、まだまだ発明の余地はありそうに思います。この設計にもAIが使われているので、競争は激化する一方です。日本は学生や技術者を教育するところからやろうとしていて、私も下っ端として手伝っています。
英語 https://en.wikipedia.org/wiki/Through-silicon_via から。
via 半導体産業ではヴィアと読みます。中学校でならった「~を経由して」はヴァイア、ヴィア両方ありますが、これは米語がヴィア、英語がヴァイアのようです。
via hole 貫通電極の孔です。プリント基板では穴に円筒状の銅を差し込んで作っていましたが、いまは無電解メッキかもしれません。シリコンの場合は高アスペクト比の穴をあけて金属を拡散させているようです。
aspect ratio 長ぼそい孔(または物体)の直径と深さ(長さ)の比。アスペクト比。
“Compared to alternatives such as package-on-package, the interconnect and device density is substantially higher, and the length of the connections becomes shorter. ”
alternative オる「タ」ーナティヴ 代替品
interconnect 接続
substantially 相当、かなり
” An alternate type of 3D package can be found in IBM’s Silicon Carrier Packaging Technology, where ICs are not stacked but a carrier substrate containing TSVs is used to connect multiple ICs together in a package.”
ICs = integrated circuits 集積回路 アイシー
substrate 基板、基質 分野によって和訳が変わります。
”The origins of the TSV concept can be traced back to William Shockley’s patent “Semiconductive Wafer and Method of Making the Same” filed in 1958 and granted in 1962”
origin 「オ」リジン 起源
concept コンセプト、着想
William Shockley トランジスタの発明者、ノーベル賞。また太陽電池の効率の理論限界を与える Schockley – Queisserの式(ショックレー・クワイサー)を考えた。
https://en.wikipedia.org/wiki/Shockley%E2%80%93Queisser_limit
and method of making the same 変な言い回しですが、特許ではよく出てきます。日本語では「およびその製造方法」