室温超伝導ができたら、超伝導電磁石に使えるかもしれません。精密検査で体の中を見るMRI(磁気共鳴イメージング)や分子の構造を解析するNMR(核磁気共鳴)などで強力な電磁石(>10T、Tは磁場の単位テスラ)が必要です。超伝導でない電線で電磁石を作ると、鉄芯の磁化が約2Tで飽和してしまうために、鉄芯を使って磁力を稼ぐことができません。
すなわち、コイルだけの空芯電磁石になりますが、大電流が必要で、電気抵抗による発熱のため冷却が大掛かりになってしまいます。電流をパルス的に与えるか、超伝導線でコイルを作るかということになります。パルス磁場ではMRIは行えないので、液体ヘリウムで冷却した超伝導体が使われています。天然ガス井から産出されるヘリウムの供給に問題があるため(枯渇してはいない、と言われていますが…)、高温超電導体の利用が望まれています。
高温超電導のMRIがまだ実用化されていないのはなぜか、私もわかりません。臨界磁場の問題かもしれません。超伝導体の実用上重要な物質パラメータとして、超伝導転移温度のほかに臨界磁場があります。昨日説明した磁束のピン止めは磁束(磁力線の束)が超伝導体に侵入することが前提ですが、実用的な超伝導体はこれが起こり、第二種超伝導体と呼ばれます(第一種は磁束がが入らない。磁場が強くなると全体として超伝導体でなくなる)。
臨界磁場については、ギンツブルグ・ランダウ(GL)理論で理解されています(学部講義でやった、ランダウの現象論の応用の一つ)。
解説は下記がタダで読めるわかりやすいものです。大学院の講義で数回分やってもいいのですが、前提知識が多く、短時間での解説はたいへんかもしれません。
https://www.csj.or.jp/editorial/kisokoza/introduction_superconductivity.html
臨界温度Tcは超伝導状態(クーパー対)のエネルギー的な安定化の度合いを表し、温度Tにおける臨界磁場HcはGL理論からTcの近くではHc∝(1-(T/Tc)^2)で与えられます。Hcはよりミクロなパラメータである磁場侵入長とコヒーレント長と関連づけられます。これらはクーパー対の密度や、その動きやすさ(平均自由行程)に関連づけられますが、物質ごとの細かい話は非常に複雑です。原子レベルの量子力学(化学)的計算方法もまだ確立されていません。フォノン機構の単純な物質以外は、超伝導臨界温度も計算できません。
臨界磁場は、実用上は実験で決める必要があります。例えばMRIに使われている超伝導線NbTiについては
https://www.pasj.jp/kaishi/cgi-bin/kasokuki.cgi?articles%2F16%2Fp240-250.pdf
ではHc=Hc0(1-(T/Tc)^1.7)となっていて、GL理論とは少し違っています(Hc0はT=0における臨界磁場)。いずれにしても、この式から考えて超伝導電磁石はなるべく低温で使うほうがいいということになります。
今週は室温(高温)超伝導体は量子コンピュータの超伝導量子ビットに使えるか、という問題も調べようと思いました。その条件を考えた文献はありそうですが、時間がないのでまたの機会にします。
英語は「侵入」関連です。
penetrate 貫通 magnetic penetration depth 磁場侵入長
infiltrate イン「フィ」るとレイト 浸透する、潜入する The organization is infiltrated by a spy. その組織にはスパイが侵入している。
permeate 「パ」ーミエイト 浸透する
percolate 「パ」ーコレイト にじみ出る、浸透する、パーコレーターでコーヒーを淹れる percolation は物理学用語で、不純物がつながって電流経路ができるようなときに使います。
perforate 「パ」ーフォレイト 貫通する、ミシン目を入れる level 17
ream リーム リーマーで穴を広げる、絞り機で果物を絞る、一連の書き物 level 17
suffuse 覆う、いっぱいにする level 20
pervade パー「ヴェ」イド しみこむ、浸透する level 7
invade イン「ヴェ」イド 侵略する
trespass ト「レ」スパス 侵入、立ち入る、違反する、罪を犯す、つけこむ No Trespass(ing)! 立入禁止 level 7
encroach エンク「ロウ」チ 侵入する、侵略する、侵害する、侵食する level 11
gore 角や牙でつきさす、名詞は 「血のり」 語源は「槍」の古語 level 12