ノーベル経済学賞

2022年のノーベル経済学賞は経済危機における銀行の役割に関する業績で前米国連邦準備理事会議長の B.S.Bernanke,シカゴ大学のD.W.Diamond, Washington Univ. in St LouisのP.H.Dybvigの3氏に与えられました。1930年代の世界恐慌は金本位制の縛りで通貨供給量を増やせず、1990年代の日本のバブル崩壊時は世論もあり引締めをしすぎて苦労しました。2008年のリーマンショック後は、危機にあっては銀行を守れ、という認識で当局は行動しているようです。今回のコロナ危機では各国とも積極的にお金を配りました。副作用でインフレや為替不安定が起こっていますが…

ニューヨークとスリナムの交換

オランダの戦略の続きです。模範解答は次のような内容でした。「ニューヨーク」は第一次~第三次英蘭戦争でとったりとられたりしていましたが、1674年のウェストミンスター和約でイギリスに引き渡され、その代わりに英領スリナム(南米大陸の北部)とトバコ等カリブ海の島々がオランダ領になりました。そこでサトウキビのプランテーションが行われ、成功したので蘭領ジャワ(インドネシア)で「コーヒー」を作って三角貿易でさらに収益を上げました。「南アフリカ戦争」で鉱産資源に恵まれた南アフリカ植民地をイギリスに明け渡し、さらに「太平洋戦争」後に植民地をすべて失ったオランダは、国内市場が小さすぎるため、経済的生き残りをかけ…

したたかなオランダの戦略

今週はオランダの歴史です。現在は昨日のTUDelftも関係ある半導体ナノ露光装置のオランダASMLが市場13兆円/年の半導体装置産業を制覇しています(半導体全体は80兆円/年)。 https://newswitch.jp/p/32027 暇つぶしに大学入試の世界史の問題の解説本を読んでいたら、「オランダは中世末から存亡の危機を多く潜り抜け、生き残りをかけた決断を成功させてきた」という内容があったので興味を持ちました。この入試問題は単純化すると「「グロティウス、コーヒー、太平洋戦争、長崎、ニューヨーク、ハプスブルグ家、マーストリヒト条約、南アフリカ戦争」のキーワードを用いてオランダの戦略を600…

一人当たりGDPと社会実験

昨日は経常収支(外国からの収入)が年間20兆、その大部分が投資収益で、これを維持するには国際秩序の維持が必要、という話でした。が、年間20兆円は1億人の国民一人当たりにすると年間20万円で、生活を維持できる額ではありません。人口が少なければ、例えばルクセンブルクのように、それだけで食べていけるのだと思います。重要なのは一人当たりGDPで、日本は年間400万円です。この額が減って国別順位が落ちていることを嘆く人がいますが、高齢化で働き手やその労働強度が減っているので自然なことのように思います。GDPは給料の総和と言ってもよく、国内分の仕事も含みます。国内分だけでGDPを勝手に増やすことができるか…

ピケティの “r > g”と日本の国際収支

昨日解説したように、お金の総量は増える動機はあっても減る仕組みはないので、増え続けています。ちょっと前に流行ったThomas Piketty「21世紀の資本」には、古い記録からさかのぼって調べて導いた”r>g”という経験式が載っています。rは資本収益率、gは経済成長率で、資本を持っていると経済成長率以上に増える、ということです。 https://www.bank-daiwa.co.jp/column/articles/2018/2018_115.html 「富めるものはますます富む」が事実であることを言っていますね。私の素人考えでは、この背後のメカニズムはお金の総…

マネーの総量の膨張

今週はIMF(国際通貨基金)から始めたので、お金の話をしましょう。私なりの理解なので、間違っているかもしれません。技術の話と違って誤っても大きな危険はなく、皆さんが自分の経験から間違いを見つけるのも楽しみだと思うので、恐れず進めます。 現在のお金は紙幣や硬貨以外の、帳簿にしかない、いわゆる「マネー」が圧倒的に多いです。 https://data.imf.org/?sk=B83F71E8-61E3-4CF1-8CF3-6D7FE04D0930 に国別、年次別 monetary stock の詳細があります。 お金(金融)の大きな役割として、「信用創造」があります。 「発明をしたので工場を作りたい…

世界の研究所 International Monetary Fund (IMF,国際通貨基金)

今週の世界の研究所は、International Monetary Fund(IMF,国際通貨基金)です。ここは米国ワシントンDCにある国際的な行政機関ですが、研究者を約160人(名簿と経歴・業績がwebにあります。日本人も数人います)かかえており、各種レポートを無料で出版しています。日本語のページもありますが、一部最新情報は訳されていません。 https://www.imf.org/ja/Home https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E9%80%9A%E8%B2%A8%E5%9F%BA%E9%87%91 によると、各国中央銀行のと…

46番元素パラジウム

今週は元素の話をしています。今日は46番元素パラジウム Pd です。これも白金族の一員ですが、周期表で白金の上なのでこれは間違えないでしょう。 水素ガスが接すると水素原子になり溶け込んで透過して反対側から分子になって出てくる不思議な性質があります。このため、水素を使う燃料電池に重要です。銀歯はパラジウムを20%含みます。また触媒としても重要です。2010年のノーベル化学賞はパラジウムを使った反応に与えられました。 問題は、この元素も偏在が著しいことで、ロシアが40-60%という高いシェアをもちます。 2014年のクリミア侵攻の際も問題になっていました。 https://10mtv.jp/pc/…

リチウム,コバルト,ニッケル

金曜日は読書(今は M. Sandel 著 Justice)をすることにしていますが、今週はいろいろ立て込んで準備が間に合わないので、金属資源の話の続きにします。リチウムイオン電池の関係で、いろいろな元素が各国取りあいになっています。 ・リチウム 湖が干上がった場所が効率の良い鉱山になります。チリのウユニ塩湖が有名ですが、他にもあります。 https://www.his-j.com/tyo/zekkei/uyuni/ 価格はここ3年で10倍になっています。私も実験でリチウム(電池ではない)を使うので、頭が痛いです。 https://tradingeconomics.com/commodity/…

世界の研究所 JOGMEC(独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構)

今週の世界の研究所は、日本のJOGMEC(独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構)をとりあげます。wikipediaによると、所管は資源エネルギー庁、職員は637人、年間予算は1兆円余という巨大なものです。国家石油備蓄なども仕事なので、お金がかかるのではないでしょうか。webに各種鉱産資源(Li, Niなど)に関するリアルタイム情報が出ていて、面白いので私はちょくちょく見ています。 https://mric.jogmec.go.jp/ 生物選鉱や装置の特許も持っているようです。千葉市(石油・天然ガス関連)、秋田県小坂町(金属関連)、新潟県柏崎市(油田技術教育)など研究設備もあちこちにあり…