Mg/Ca比による古水温決定は難しい

地質試料から古気候を明らかにする研究で使われるものとして、昨日は酸素同位体比を紹介しました。その他にいくつかありますが、今日はMg/Ca比を見ましょう。
いろいろ読んだのですが、英語だとわかりにくくて頭が痛くなりました。下記日本語の解説(pdf)を読んで、留保条件がたくさんあってややこしいからだと納得できました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/116/2/116_2_63/_pdf/-char/ja
分析対象は、世界中の海にいる炭酸カルシウムの殻を持つ動物プランクトンである有孔虫の殻の微化石です。CaCO3の中にCaの代わりにMgが取り込まれるとエネルギーが高くなる(ΔH=21kJ/molの吸熱反応、置換すると不安定)ため、温度が高いほうがMgが取り込まれやすいという仕組みです。van’t Hoffの式を使って平衡定数の温度依存性を出すと、Mg/Ca比は水温1℃あたり3%の増加が予想されるということです。実際Mg2+を含む水溶液からCaCO3を沈殿させる実験をするとその通りになるそうですが、有孔虫を水槽で飼って実験すると無機水溶液からの結晶化と1桁違うとか、種によって温度依存性が違うとかいろいろ面倒です。また、海底に沈めた容器に堆積する有孔虫の死骸や海底中の近年の堆積物を調べるとばらつきもかなりあるとのことです。有孔虫は海の深さによって種が違うので、採掘試料の微化石の形から種を分けて分析すれば海の深さごとの水温がわかる、という期待も持てます。
有孔虫の生体内では普通の水溶液ではなく、Caを濃縮してから結晶化しているのが無機水溶液からの結晶化との差の原因であるとか、種によってCaCO3の結晶多型(カルサイト(方解石)かアラゴナイト(霰石あられいし)か)の比も違うとのことなので、それも関係しているとか、諸説あるようです。
化石表面についた有機物の残渣にMgとCaが含まれていてCaCO3中と比がちがうため、有機物は完全に除去しなければならない、とか、海水のpH等によって比が違ったり、堆積後にMgが選択的に溶けだしたりするとのことで、かなり面倒です。また、世界中の10数か所の研究室間でのばらつきもあるそうです。どこまで正確な話ができるか、かなりたいへんな研究だという印象をうけました。いくつかの指標を組み合わせて説得力を出す必要があります。タイムマシンがない以上、未来の気候を予想するために重要な研究です。

英語は https://en.wikipedia.org/wiki/Aragonite
”Aragonite is a carbonate mineral and one of the three most common naturally occurring crystal forms of calcium carbonate (CaCO3), the others being calcite and vaterite. It is formed by biological and physical processes, including precipitation from marine and freshwater environments. ”
a carbonate mineral 炭酸塩鉱物
calcite 方解石
vaterite バテライト
precipitation 沈殿
marine 海水の
freshwater  淡水の
“Aragonite is the high pressure polymorph of calcium carbonate. As such, it occurs in high pressure metamorphic rocks such as those formed at subduction zones….Aragonite nonetheless frequently forms in near-surface environments at ambient temperatures”
polymorph 結晶多型
metamorphic rocks変成岩
subduction zones プレートの沈降帯
nonetheless ノンざ「れ」ス それにもかかわらず
ambient temperatures 室温
“Aragonite forms naturally in almost all mollusk shells, and as the calcareous endoskeleton of warm- and cold-water corals. ”
mollusk 「モ」らスク 軟体動物
endoskeleton 内骨格
coral サンゴ
※日本語版で引用されていたヒザラガイの目がアラゴナイトであるという話
https://www.nationalgeographic.com/science/article/chitons-see-with-eyes-made-of-rock
”Chitons see with eyes made of rock”
chiton 「チ」トン ヒザラガイ
”Even though the rocky eyes seem primitive, they are actually the most recent animal eyes to evolve. There are plenty of chiton fossils, but only those that are younger than 10 million years have eyes. That is puzzling in itself.”
primitive 原始的

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