世界の研究所:上海交通大学・李政道研究所

企業の競争の話が続いたので、今週は浮世離れした明るい話題ということでレーザーを使った加速器の話をしましょう。いくつか研究所がありますが、大規模な装置を持っている上海交通大学の李政道研究所(Tsung-Dao Lee Institute, TDLI)を見てみましょう。 https://tdli.sjtu.edu.cn/EN/about/overview 李政道博士は今年の8月に97才でなくなりましたが、E.Fermiの弟子、同門の楊振寧博士(101才で存命)とともに素粒子反応における弱い相互作用のパリティ対称性の破れを発見してノーベル物理学賞を若くしてもらっています(1957)。 TDLIは上海…

世界の研究所 Intel vs AMD

先週は航空機の2大メーカーについて調べて自分では楽しかったので、今週はコンピュータのCPUのメーカーを見てみましょう。2大メーカーはIntelとAMDです。一部Arm関連やNVIDIAに言及することもあると思います。 Intelの株価は最近すごく下がっています(泣)。長期的にみると70ドル~20ドルの上下があり、最近は底値か、これからまだ下がるのか、といったところですね。 https://www.macrotrends.net/stocks/charts/INTC/intel/stock-price-history CPUのシェアはAMDに猛追されましたが、下げ止まっています。Intel:AM…

世界の研究所 Boeing社のストライキ

Boeing(ボーイング社)で大規模なストライキが行われているというニュースがあります。 https://www.bbc.com/news/articles/c8jlj3dnlw7o 大型のジェット機は1機500億円と言われています(ちなみに、波長10nmの最先端の半導体露光装置も同じくらいの値段なので驚きます)。 Boeing社は、コロナ禍に加え最近737MAXの設計ミスで墜落事故を何件か起こしてしまって経営状態が悪化し、それが従業員にしわ寄せされた結果だと推測します。20000人、30000人規模で立て続けにリストラやレイオフをしているようです。 調べてみると、航空機メーカーや運航をする航…

世界の研究所 Ancient Egypt Research Associates

先週、日経とNational Geographicのalertで紅海文書によりピラミッド建造の過程がわかったという話が流れてきました。 調べてみると、元ネタは2022年に出版された本のようです。これは金曜日の読書の種本にいいかもしれません。 https://www.amazon.com/dp/B09NMPMJZQ 著者の一人(Prof. Pierre Tallet)はソルボンヌ大学(University of Paris-Sorbonne (Paris IV))の教授で、紅海文書を発見し、ピラミッド建造の監督の一人の日記(Diary of Merer)を見つけました。 https://www.…

世界の研究所:横浜国立大学・台風科学技術研究センター

先週は台風10号がたいへんでした。被害にあわれた方にお見舞いを申し上げます。今週は台風や竜巻からエネルギーを取り出すという大胆な構想を紹介します。 研究所としては、横浜国立大学の台風科学技術研究センターです。 https://trc.ynu.ac.jp/ ここは内閣府のムーンショット計画に採択されています。台風から発電してエネルギーを取り出し、勢力も弱めることができれば素晴らしいですね。技術的困難はちょっと考えただけでもたくさんありますが… https://typhoonshot.ynu.ac.jp/ 小規模なものとしては、竜巻を使って発電しようとする個人のインタビューがyoutubeにありま…

世界の研究所:CERN BASE collaborationによるMaxwell’s daemon

涼しくなるように、今週は物質を冷却する話をしましょう。2週間前にCERNのBASE collaboration(barion-antibarion symmetry experiment)から出た下記論文がSNSのtime lineに上がっていました。 https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.133.053201 反陽子を加速器で作ると、そのままでは高速すぎて精密な実験ができないので、減速・冷却して真空中に浮かせて保存します。そのための新しい方法を開発したという論文で、数時間かかっていたものが500秒になったということ…

世界の研究所: University of Sidney, Heat and Health Research Centre

こちらは台風の後だいぶ過ごしやすい気温と湿度になってきましたが、世界的には高温対策が急務のようです。下記のような記事が出ていました。 https://www.nature.com/articles/d41586-024-02422-5 https://www.nature.com/articles/d41586-023-02482-z 人間の志願者を使った実験をする設備がオーストラリアのシドニー大学に2019年(設計開始)に作られたそうです。 https://www.sydney.edu.au/medicine-health/our-research/research-centres/heat…

世界の研究所:Stockholm University, Arrhenius Laboratory

今日が祝日でお盆休みに入っているのを忘れていました。明日から「今日の英語」はお休みをいただき、19日月曜日から再開します。 今週来週はCO2と気候変動についての研究の現状を解説します。CO2が温室効果を示すのではないか、と言い始めたのはアレニウス型プロットで有名なSvante Arrheniusで、1895年の論文のようです。 Arrheniusの名前を冠した機関はいくつかあり、Stockholm Universityのキャンパスの一領域がArrhenius LaboratoryやSwante Arrhenius通りと呼ばれているのが本家だと思います。銅像もありますね。まだこのキャンパスは入っ…

世界の研究所:世界一のセメント会社 スイスHolcim社

ここ数日気温差が激しいです。最高気温が10℃以上変化しています。体調管理に気を付けてください。 ふと、建物は気温差があっても大丈夫なのか気になったので調べてみました。セメントと鉄筋の熱膨張率はほぼ同じなので、熱膨張で壊れることはなさそうです。 セメントは 7-13×10^-6 /℃、鉄 11.7×10^6 /℃ です。私の経験では、固体に温度差をかけて膨張率が10^-4台に入ると破壊の危険があります。室温で硬化させているのでまず大丈夫でしょう。 https://www.jci-net.or.jp/j/concrete/kiso/VolumeChange.html セメントに似たものは古代からい…

世界の研究所:フランス Conservatoire national des arts et métiers 国立工芸院

暑いですね。個人用冷却具を調べていたところ、下記を見つけました。 https://www.sts-japan.com/products/catalog/pdf/vt-7k_series.pdf 35℃、5気圧の圧縮空気から5℃の冷風を作れるそうで、webの評判も上々です。圧縮空気は工場には機械の駆動力として常備されているので広く使えると思います。ただ、圧縮空気のホースをつないだまま動くのでちょっと不便ですね。また、効率も他の装置より悪いようです。 原理は1931年に特許申請されています。実際に作ってみないと存在すら気が付かない、実に素晴らしい発明です。Ranque効果、Ranque-Hilsh…