結び目を記述する Jones 多項式

今週は数学と物理の間にある面白そうな話を紹介したいです。まず、結び目を記述するJones 多項式(1984)から。これは感動します。下記はまだ再生回数が少ないですが、早送りでスライドを見ていくと何となくわかると思います。 https://www.youtube.com/watch?v=T4gaa191hpY 量子論、統計力学、素粒子論と関係がつけられています。 日本語pdfでの解説は下記ですが、参考文献はリンク切れが多いです。なんでそうなるかの証明はちゃんと数学の本を読まないといけないようです。 https://www.mathsoc.jp/publication/tushin/1303/13…

世界の研究所 Abdus Salam International Center for Theoretical Physics 国際理論物理学研究センター

今週の世界の研究所は、イタリアのトリエステにあるAbdus Salam International Center for Theoretical Physicsを紹介します。ここは、素粒子理論でノーベル賞を取ったパキスタン出身のSalamの提案で設立されました。物理や数学の研究や賞の選考の他に高等教育が充実していない国の学生を選んで(年数人です、どうやって選ぶのでしょうか)他国の博士課程入学のための証明書を出す活動も行っています。 https://youtu.be/_9dPsxEE6Pk https://www.ictp.it/about-ictp/media-centr1e/news/202…

ネオントランスの知恵

トランスは、電流を一度磁場に変えることで、ファラデーの電磁誘導の法則を使って2つのコイルの間で交流のエネルギーを伝達します。 その時に2つのコイルの巻き数を変えると電圧を変換することができます(電圧比は巻き数比に比例)。磁束を磁性体に集中させて伝達効率を増やしますが、磁性体に強い磁場をかけると磁気飽和が起こります。これは、磁性体の発熱による破壊や駆動する(交流をコイルに流す)半導体の破壊をもたらしますが、その兆候が「コイル鳴き」です。昔は耳と鼻で電子回路の不良を見つける修行をしましたが、ACアダプターに高負荷をかけると音がするのに気付いている人はいるでしょうか。 https://youtu.b…

乱数発生アルゴリズム、量子的乱数発生器の値段、ubuntuの由来

分子動力学(molecular dynamics, MD)計算では、しばしば乱数を使います。昨日の温度制御でも、Langevin dynamicsという方法では速度を乱数で変化させます。乱数の作り方は、通常は疑似乱数を作るサブプログラムを呼びます。疑似乱数は、初回のみ人間が数値(“random seed”)を与えて、呼び出すたびに一定規則で値を計算して返し、その値を次の呼び出しの計算に使うことにより、箱の中に手を突っ込んで数字の書いた紙を毎回取り出すような感じで使えます。 計算法が興味深いですが、4桁の数字を二乗してできる8桁の数字の真ん中4桁を取り出す、というのを繰り…

分子動力学シミュレーションの動画

昨日分に訂正があります。プログラムLAMMPSを製作管理しているのはLos Alamosではなくて、米国の Sandia 国立研究所とTemple大学でした。おわびします。Sandia国立研究所については来週紹介しましょう。 LAMMPSは、分子動力学と呼ばれる計算を行います。私が最近行った蒸着のシミュレーション例を示します。 700Kに設定 https://www.youtube.com/watch?v=F0Hi9NkacY8 100Kに設定 https://www.youtube.com/watch?v=-FVRxe3D5pM 実際と比較すると蒸着分子の速度はだいたいこれくらい、新たな分子…

CO2還元反応

CO2を電気で還元する方法は研究途上ですが、過電圧や反応速度、選択性の問題があります。個人的には高分子電解質(米国3M社、下記CRDSレポートを参照)が面白いと思います。 太陽光・太陽熱発電で得られた電力を貯めるために、水の電解で水素を作る方法が先行しているので、水素とCO2を反応させて還元する方法が有力視されています。既存のプロセスの改良でできることも利点です。各段階でいろいろな反応があるので覚えておくといいでしょう。 逆シフト反応 CO2+H2 → CO+H2O Fischer-Tropsh reaction (FT反応)nCO+(4n+2)H2 → C_n H_2n+2 + nH2O 触…

原子に立脚した圧力標準

単位系の改訂を受けて、いろいろな派生単位を原子や量子的な定数に直接結びつける仕事が始まっています。 例えば、真空度の単位は古くは水銀柱の高さmmHgでしたが、今は力÷面積であるPaです。 これを純粋気体(アルゴンを考えているようです)の屈折率から単位体積当たりの原子数を測定し、温度を 測って圧力の標準器にしようという話があります。これはNISTが中心になっています。 https://www.nist.gov/news-events/news/2019/06/no-longer-under-pressure-nist-dismantles-giant-mercury-manometer これは原…

ヘリウム生産設備と市況

鉱産資源に関する情報は、国の機関であるJOGMECのサイトに最新情報が記載されています。 例えば、カナダが国産critical mineral listを定めたニュース http://mric.jogmec.go.jp/news_flash/20210317/154454/ アルミニウム、アンチモン、ビスマス、セシウム、クロム、コバルト、銅、蛍石、ガリウム、ゲルマニウム、グラファイト、ヘリウム、インジウム、リチウム、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ニッケル、ニオブ、白金族、炭酸カリウム、レアアース、スカンジウム、タンタル、テルル、錫、チタン、タングステン、ウラン、バナジウム、亜鉛 ヘリウム…

世界の研究所 Mineral Resources Institute (Tanzania)

ヘリウムガスの価格が去年の約2倍に上がっていることに気づきました。ヘリウム循環型冷凍機が普及していますが、低温実験はヘリウムの消費をゼロにはできないのでたいへんです。また、今後、水素社会のための大規模な水素液化機(沸点20Kを作らないといけない)をどうするのかも気になります。今週は鉱産資源について検討します。 世界の研究所は、タンザニア・ダルエスサラーム大学のMineral Resources Instituteを取り上げます。webで検索するとここが最初に出てきますが、研究というよりも鉱工業に携わる技術者の教育機関のようです。 https://www.mri.ac.tz/ 名前を隠した成績表…

日本刀の焼刃土

日本刀の模様は「焼刃土」を塗る「土置き」によって人為的に作っていることを今回初めて知りました。 https://www.youtube.com/watch?v=NZ6gwcz_Flk 粘土、砥石の粉、墨の粉を混ぜたものを厚さを変えて塗る、調合や成分に秘伝がある、 乾燥後、加熱→急冷で焼き入れ。 塗が薄い部分には焼が入り、厚い部分には焼が入らない(成分によっては逆もありうる)。 詳しい解説は下記3つ目のように論文になっています。 焼き入れで水に入れたとき、水蒸気が発生すると冷却速度が遅くなる。薄く塗ったところは少し断熱して水蒸気発生を抑えつつ、粘土の隙間の毛管現象で水が少しずつ侵入して冷却速度が…