ハフニウム

金属資源の話に戻りましょう。原子番号72番のハフニウムは、酸化物がMOSFETのゲート絶縁膜に使われています。これは、素子の微細化に伴い、ゲート電場を半導体に均一にかけるために絶縁膜を薄くする必要がありますが、3nm以下ではトンネル効果によるリーク電流が無視できなくなるため、誘電率の高い絶縁物を使って実際は厚いが電気的には薄く見える絶縁膜を作るためです。HfO2は結晶構造によっては強誘電体になることも2011年に示されました。 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/semicon/741709.html あとは原子炉の制御棒(熱中性子の吸収断面積…

エキシマレーザーの用途

エキシマーレーザーの用途は、リソグラフィ以外にもいろいろあります。 視力矯正のレーシックは、角膜の皮をフェムト秒レーザーで剥がしてからその内側をlaser ablation で制御して削ります。かなり難しい技術だと思います。下記は模式動画 https://www.youtube.com/watch?v=6jeGG9ayZC0 検索すると実写も出てきますが、あまり気持ちのいい映像ではないです。 卓上の微細加工機もあります。これはよくできた装置ですね。有機半導体単結晶を整形するのにも使われていました。 https://www.youtube.com/watch?v=pePoOw-Rsl0 http…

ネオンの製法と用途

ネオンは、空気を分留して作るようです。沸点27.07K。空気中に含まれる量は18.2ppmでかなり少量です。常温から液化した時の体積減少が大きく、気体0.900g/L(0℃)、1.21g/cm3 (沸点)なので、1400倍ですね。他の気体は500~800倍なので、かなり違います。沸点が低いことが原因というわけでもなさそうで、ヘリウムは700倍、水素は800倍です。不思議ですね。 さて、精製ネオンはウクライナが世界シェア60%だそうです。最先端ではない(20~180nm)半導体露光装置のエキシマレーザーに使われています。エキシマレーザーは、 KrF 248nm パルスレーザー蒸着法によく使われる…

世界の研究所 JOGMEC(独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構)

今週の世界の研究所は、日本のJOGMEC(独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構)をとりあげます。wikipediaによると、所管は資源エネルギー庁、職員は637人、年間予算は1兆円余という巨大なものです。国家石油備蓄なども仕事なので、お金がかかるのではないでしょうか。webに各種鉱産資源(Li, Niなど)に関するリアルタイム情報が出ていて、面白いので私はちょくちょく見ています。 https://mric.jogmec.go.jp/ 生物選鉱や装置の特許も持っているようです。千葉市(石油・天然ガス関連)、秋田県小坂町(金属関連)、新潟県柏崎市(油田技術教育)など研究設備もあちこちにあり…

空飛ぶ自動車の電池容量

昨日計算した、飛行自動車が浮くためのパワー21kWに加えて、102km/h=28.3m/sの速度で水平飛行するためのパワーは、空気抵抗 1/2 x Cd x 空気密度 x 前方投影面積 x 速度^2 =1/2 x 0.25 x 1.28[kg/m3] x 1 [m2] x (28.3)^2 =128 N です。思ったほど大きくないですね。これを28.3m/sで移動するときの仕事率(←「パワー」の日本語はこれでしたね)は128 x 28.3 =3.6kWとなります。 浮くためのパワーと合わせて25kW, 効率70%として36kWが消費電力ですね。88kWの最大出力は加速時や方向転換などに使うので…

膵島β細胞の増殖法

月曜日に紹介した、膵島β細胞の増殖法は、MYCL(L-Mycとも)という遺伝子の発現誘導を行うことでした。 MYCLや「発現誘導」は知らなかったので調べてみました。MYCLは下記サイトにあるように、DNAの転写を制御するタンパク質をコードしている「がん原遺伝子」だそうで、エラーが起こるとがんにつながるようです。下記サイトは静岡県の機関のものですが、勉強になりますね。 https://www.jcga-scc.jp/ja/gene/MYCL iPS細胞にも当初Myc遺伝子の仲間が使われていましたが、がん化の危険があるので使わない方法が開発されたそうです。「発現誘導」の方は猛烈に複雑で、今でも新事…

インシュリンの機能

インシュリンは51個のアミノ酸からなるペプチドです。大きさは2nmくらいでしょうか。塊のような形をしているので、液体中や細胞膜表面を移動しやすいのではないでしょうか。下記の真ん中あたりExploring Structureの”JSmol”タブを押すと3次元構造を動かせます(ちょっと時間がかかります)。 https://pdb101.rcsb.org/motm/14 インシュリンは細胞膜にある受容体と結合すると、細胞内シグナルタンパク質を変化させます(アミノ酸の-OHにリン酸PO4をくっつける)。その酵素チロシンキナーゼを活性化させるところからスタートするようです。 ht…

インシュリン

ランゲルハンスが彼の名前がついた膵島(isles of pancreas)を発見してから、その機能が分かるまでには52年かかっています。膵臓の主な機能は消化酵素を作ることですが、なぜかグルカゴンGlucagonとインシュリンInsulinという2つの血糖値調節ホルモンも出します。 https://www.terumo.co.jp/challengers/challengers/13.html ランゲルハンスの晩年の言葉「私には、これを解明する能力が欠けている」。フェルマーの「証明はできたが書く余白がない」に匹敵するドラマだと思います。 インシュリン Insulin は、「島 insula」を語…

世界の研究所 独・ランゲルハンス研究所 Paul Langerhans Institute Dresden

今週の世界の研究所は、Paul Langerhans Institute Dresden (独 ドレスデン工科大学付属の研究所)をとりあげます。 https://tu-dresden.de/med/mf/plid?set_language=en ランゲルハンス(1847-1888)は、解剖学に様々な細胞染色試薬が使われるようになった時期に活躍した学者で、結核で若くして亡くなりましたが、皮膚の免疫システムにかかわるランゲルハンス細胞と、糖尿病にかかわるすい臓のランゲルハンス島の発見に名前を残しています。 先週、東大医科研等のグループからランゲルハンス島のβ細胞の増殖に成功したというプレスリリース…

ATP合成酵素

生物系の分子動画で外せないのが ATP synthase でしょう。WEHI.tvとHarvard Univ.の動画がありました。 https://www.youtube.com/watch?v=OT5AXGS1aL8 https://www.youtube.com/watch?v=_GPDsQnnvrA この仕組みを推測した人とX線回折で証明した人は1997年のノーベル化学賞です。 https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/1997/press-release/ ATP synthase が働くミトコンドリアは、独自の遺伝子を持っていて共生細菌由…