SiCの界面、宝石としてのSiC=モアッサナイト

4H-SiC (4Hは結晶多型の名前)のパワー半導体としての開発が進んでいます。高温で使えて放熱器が小さくてよい、高電圧を小型トランジスタでon/offできるなどの特徴があり、GaN, Ga2O3のどれが市場を制するかは、性能とコストで決まる段階になるでしょう。開発に成功しても使われなかったらその研究者は報われないか、というと、社会的には risk hedge としての役割があるので大切な役割だと思います。個人や会社の評価については、運ということになるでしょうが、後続の人がやる気を失わないように、開発成功の段階で報わないといけないと思います。 開発の歴史は下記pdf が面白いです(エラーが出る…

半導体としての炭化ケイ素(SiC)の難しさ

ワイドギャップ半導体は結晶を作るのが難しいものが多いです。GaNは突破口を開いた日本人がノーベル賞を受賞されました。SiCの結晶成長も難しいです。SiCはダイヤモンド構造が最安定のSiとグラファイト構造が最安定のCの化合物なので、その中間的な結晶構造が多数存在します。これを結晶多型(polytype)と言いますが、結晶多型が違うと当然結晶粒界が生じるので半導体としての性能が劣化します。 https://www.youtube.com/watch?v=hGHHaMJaCX8 にあるように、SiCは「カーボランダム」という研磨剤です。研磨剤の応用ならば結晶多型は問題ないですが、半導体の場合は大問題…

ワイドギャップ半導体

SiCはワイドギャップ半導体と呼ばれます。この「ギャップ」はバンドギャップ(band gap)の略で、電子の詰まった価電子帯(valence band)と電子が入っていない伝導帯(conduction band)のエネルギー差のことです。純粋な半導体は電気抵抗が高いのですが、異種元素を微量混ぜること(ドーピング)によって、価電子帯から電子を微量抜いたり(正孔が生成する)、伝導帯に微量の電子を入れたりすることができます。このドーピングで作られた正孔や電子は、外部からの電場や電流によって数(濃度)を簡単に変えることができるので、電気信号を制御するデバイス(半導体素子)を構成できます。これが一般論な…

世界の研究所 Wolfspeed 社 (旧Cree)

今週の世界の研究所は、米国のWolfspeed社(最近までCree社という名前でした)をとりあげます。ここは、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)を用いた電子デバイスで世界をけん引しています。本社と工場はNorth Carolina 州にあります。本社住所がSilicon Drive(ケイ素通り)4600番地、というのはしゃれています。 https://www.wolfspeed.com/ この会社はいろいろ宣伝のビデオを公開しているので、大まかなイメージをつかむのにはいいかもしれません。 https://www.youtube.com/watch?v=3n5a8IBhvVg http…

楽しそうな ゲッター型ポンプ

今日はため込み型の真空ポンプです。原型は、真空管時代に開発されました。下記動画は、何者たちでしょう。部屋はボロボロですが楽しそうです。 https://www.youtube.com/watch?v=HxhxD_HdGh0 https://www.youtube.com/watch?v=ybh1I8GIHmU 誘導加熱で電磁波で加熱しています。金属はマグネシウムではないかと思います。ガラス内面に蒸着されると非常に反応性が高いので酸素や水を分解して酸化物として取り込みます。これをゲッター(getter)と呼びます。真空管やブラウン管(細くなっているところ)の一部が黒~銀色になっているのはこのゲッ…

偉大な拡散ポンプの発明

真空ポンプ一般の解説がyoutubeにありました。 https://www.youtube.com/watch?v=LUlM0kl6Lp0 高速で斜めの羽根を回転させ、固定翼と回転翼を交互に配置するターボ分子ポンプは技術的難度は別として比較的思いつきやすいと思いますが、油拡散ポンプ(ディフュージョンポンプ)は発想が斬新で、どうやって思いついたか気になります。沸騰する油の蒸気が適切なノズルにより音速よりも速い高速のジェットを作り、それが音速で動いている気体分子を叩き落して排気します。動画がありました(なんでもありますね)。 https://www.youtube.com/watch?v=ubno…

切れないヒューズ

16族元素(特にテルル)を使ったphase change memoryは、究極的には原子の位置の変化に情報を蓄える素子です。少し似た、もっと大型のデバイスとしてresettable fuse というのがあります。fuse (ヒューズ)は、ガラス管中に細い導線が入っていて、電流を流しすぎると発熱して導線が融けて断線する安全のための素子ですが、一度切れると交換が必要です。resettable fuse は、電流を流しすぎると発熱して電気抵抗が高くなり、電流が流れにくくなります。過剰電流が流れる原因が取り除かれると、放熱が起こり温度が冷えて電気抵抗が低くなるという仕組みです。このような、温度が上がる…

相変化メモリのデバイス化プロセス

1968年にOvshinskyによって見出された相変化メモリ(phase change memory,PCM)についての研究は現在も活発に行われています。加熱して液体状態にして、急冷するとアモルファス、徐冷すると結晶になり、アモルファスと結晶で光の反射率が違うのを利用するのがDVD、電気抵抗が違うのを利用するのが狭い意味のPCMです(広い意味ではDVDも記憶素子なので、それも含む)。電気抵抗は、例えばアモルファスで30MΩ、結晶で700Ωなど、3桁以上の違いがあることもあります。加熱や冷却は電流による発熱(ジュール熱)で行います。物質の探索はおそらく終わっていて、GST(Ge-Sb-Te)とA…

相変化メモリ材料にはテルルが入っている

相変化メモリ材料は、書き換え可能なDVD(digital video disk)に使われているという話を昨日紹介しました。主な材料が2つありますが、52番元素 Te (テルル、16番元素 = カルコゲンchalcogen の一種)が入っているのは共通です。下記が実験結果の解説です。 http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2012/120319/?set_language=ja&cl=ja http://www.spring8.or.jp/en/news_publications/press_release…

世界の研究所 Ovshinskyの「自宅研究所」

今週の世界の研究所は、今は存在していないUnited Solar Ovonic社を取り上げます。この会社は、発明家Stanford R. Ovshinsky(1922-2012)が作った会社です。この人は大学に行っていませんが、固体素子分野で既存の常識にとらわれない重要な発明をいくつもしています。 https://www.smithsonianmag.com/innovation/stanford-ovshinsky-might-be-the-most-prolific-inventor-youve-never-heard-of-180970276/ https://en.wikipedia.…