レニウムの用途

レニウムの用途は主に合金です(単体は希少ゆえ高価)。単体の融点が3185℃と非常に高いので、高温材料に向いています。例えばNi基の単結晶タービンブレードに添加してナノレベルで規則構造を作り、疲労により粒界が成長するのを防ぎます。W-Re合金は酸化しない環境下で高温の熱電対に使われることもあります。各種電子源のフィラメントにも入っています。周期表の第6周期になると原子核の電荷が大きいので内殻電子の軌道が小さく押し込められるので速度が速くなり、特殊相対性理論の効果(質量が増える)が強く現れます。そのため、価電子のエネルギーも深くなって化学的な反応性が減少したり、逆に特殊な触媒活性が現れたりします。…

核分裂と三人の女性科学者

レニウムの発見者とされているドイツのグループを調べていたら、Prof. Ida Noddack(Tacke)という女性研究者の貢献があることを知りました。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%BB%E3%83%8E%E3%83%80%E3%83%83%E3%82%AF この人は原子核への中性子照射実験の生成物の議論で核分裂の可能性を初めて指摘したことでも知られています。レニウムは故郷のライン川からとっているそうです。 核分裂といえば、Prof. Lise MeitnerとProf. Otto Hahnが…

幻のニッポニウム

レニウムといえば、幻のニッポニウムの話を避けて通れません。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%83%E3%83%9D%E3%83%8B%E3%82%A6%E3%83%A0 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%83%8B%E3%82%A6%E3%83%A0 明治40年(1908)小川正孝博士は英国のW. Ramsayの下に留学してスリランカの鉱物から化学的にレニウムの単離に成功しました。昔ですから、新スペクトルを示す塩を単離、沈殿の質量を測定し、金属の価数を仮定して原子量を算出するという地…

The Door into Summer(7) エネルギー地形と観測の時間

ここのところ金曜日は「夏への扉」を読みながら「時間」について考えています。 “(free) energy landscape”という言葉があります。訳は「エネルギー地形」です。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC%E5%9C%B0%E5%BD%A2 物質が変化するときのいろいろな状態のエネルギーがどうなっているか、で、物質の構造変化の座標を空間中の位置(イメージしやすいのはxyの2方向)に、そのエネルギーを高さにとって、地形図のようなものを考えるものです。…

リンの同素体

リンは多数の同素体をもつことが知られています。wikipedia は最近は信頼しても大丈夫なので、詳しい情報は下記を見るといいと思います。 https://en.wikipedia.org/wiki/Allotropes_of_phosphorus 白リン(別名 黄リン) P4分子の結晶 発火点30℃、皮膚につくと猛毒 赤リン P4分子が頂点同士で1次元につながったもの。通常はアモルファス。摩擦で発火するのでマッチに使う。また、プラスチックの難燃化剤に使う(燃えたとき難燃性のポリリン酸がプラスチック表面を覆って酸素を遮断するため)。 http://www.rinka.co.jp/product…

元素リンの発見は錬金術師による

リンは錬金術師(Henning Brand, 独, 1669年ころ)が初めて単離しました。原料は大量の尿を煮詰めたもので、リン酸塩を得、最後に「ワイン」と強熱して還元することにより単体が得られました。下記の絵(Joseph Write, 1771, “The Alchymist, in Search of the Philosopher’s Stone, Discovers Phosphorus, and prays for the successful Conclusion of his operation, as was the custom of the Anci…

有機リンの毒性、特に硫黄とリンがつながるとヤバい

リンは生体に不可欠な元素で、エネルギー通貨として使われるATPがなくなると生きることができません。リンを扱う酵素は3種類あり、試験に出そうですね。 https://en.wikipedia.org/wiki/Phosphorylase phosphorylase A-B + H-OP <-/-> A-OP +h-B phosphatase P-B + H-OP <-/-> P-OH + H-B kinase 「カ」イネース 日本語はキナーゼ  P-B + H-A <-/-> P-A + H-B 植物にリンが不足すると、生育が悪くなりねじれたりするそうですが色…

巨大リン鉱床がノルウェー南部で発見されました

先週のビッグニュースは、ノルウェーで世界最大級のリン鉱床が見つかったというものです。 https://www.bbc.co.uk/newsround/66099273 リチウム二次電池の正極用にリン酸塩の需要が2050年に現在の20倍に膨らむと予想される中でナウルなど既存のリン鉱床が枯渇しました。わかっている人は気を揉んでいたと思いますが、これで今後50年以上心配なくなったとのことです。特にEUには朗報である、というニュースです。 今週の世界の研究所は、リンで鉱床を発見したNorge Mining社をとりあげます。 https://norgemining.com/ リン、バナジウム、チタン、金…

The Door into Summer(6) 絶対反応速度論と前指数因子

金曜日は「夏への扉」を読みながら「時間」について考えています。今日は化学反応における時間を支配するアレニウス式における”pre-exponential factor”(前指数因子)、別名 “attempt frequency” (試行周波数)について考えましょう。いわゆるEyring(アイリング)の絶対反応速度論では、化学反応が起こるときには反応する分子たちが作る活性複合体の遷移状態があり、活性複合体中の分子振動により反応障壁を超えると生成物が生じると考えます。その時に反応障壁を超えようと「試行」する分子振動の周波数が「試行周波数」で、試行1回に…

医療用同位体を作るサイクロトロンは500億円市場

同位体の放射壊変は医療用にも使われます、PET(positron emission tomography 陽電子放出断層写真法)は、放射壊変して陽電子を出す特定の原子核を含む化合物を人体に注射し、出てきた陽電子が周囲の電子と対消滅するときに180度逆の2方向にガンマ線が出ることを利用して、精度よく人体中の位置を特定できます。転移しているかもしれないガンの場所を探すとき等に威力を発揮します。その時に使う原子核は 18F, 12C, 13N, 15Oで、加速器で作った後迅速に有機合成して糖などの試薬に組み込み注射します。半減期2分のものもあるので、PETには加速器が付属していてその場で原子核を作り…