リンは錬金術師(Henning Brand, 独, 1669年ころ)が初めて単離しました。原料は大量の尿を煮詰めたもので、リン酸塩を得、最後に「ワイン」と強熱して還元することにより単体が得られました。下記の絵(Joseph Write, 1771, “The Alchymist, in Search of the Philosopher’s Stone, Discovers Phosphorus, and prays for the successful Conclusion of his operation, as was the custom of the Ancient Chymical Astrologers.”)は、大発見をしたらやってみたいポーズだと学生時代に思っていましたが、まだ機会がありません。
https://en.wikipedia.org/wiki/The_Alchemist_Discovering_Phosphorus
リン発見の解説は下記が面白いです。同じ内容を子供のころ「エピソード科学史」(絶版)で読みました。
燐光(りんこう phosphorescence)は元素のリン(phosphorus)と同じ語源からきていますが、リンが光るのは、燐光ではなく化学発光です。リンの同素体である黄リン(おうりん、別名 白リン)は正四面体の頂点にリン原子があるP4という分子の集合体で、お互いの角度が60°で3本もあるという不自然な化学結合が不安定で、空気中の酸素と反応してエネルギーを青白い光として放出します。励起状態のPO分子や[PO-PO]*エキシマーが光るようです。
https://www.pnas.org/doi/pdf/10.1073/pnas.77.12.6952
ChatGPTに尋ねたところ、phosphorusは”Yes, phosphorus shows phosphorescence.”で、elemental phosphorusは”Elemental phosphorus itself is not inherently phosphorescent.”だそうです。尋ね方が難しいですね。黄リンは猛毒で、皮膚から浸透してひどい薬傷を起こします。私は不明試薬処理中に急に反応が起こり少し浴びましたが、大事には至りませんでした。
技術用語としては蛍光と燐光(普通はリン光と書く)は区別されます。蛍光は光を当ている間だけより長い波長で光ります。リン光は光を切っても少しの間光っています。蛍光は、励起一重項から基底一重項への許容遷移、リン光は励起三重項から基底一重項への禁制遷移が関与するからです。リン光物質では励起状態が三重項に溜まり、わずかな確率で電子スピンが反転して励起三重項→励起一重項が起こり、発光します。リン光を示す物質のうち、励起光を切ったあと長く光るものは蓄光体と呼ばれます。長く光る蓄光体はメカニズムも違っていて、励起状態から電子と正孔が異なる場所にトラップされ、それがゆっくり再結合することによって光るものが多いです。蓄光体の設計は難しく、本当に蓄光時間が長いものを作りたければ、微小な太陽電池と蓄電池とマイクロLEDを組み合わせるほうが楽かもしれません。
alchemist 錬金術師
philosopher’s stone 賢者の石
astrologers 天文学者
fluorescence 蛍光
phosphorescence リン光
luminous materials 蓄光体 = light storage materials
chemical burn /chemical injury 薬傷
deadly poison 猛毒
不明試薬 unidentified reagents / chemicals
singlet 一重項
triplet 三重項
singlet excited state 一重項励起状態
recombination 再結合
excimer エク「サ」イマー エキシマー、 励起状態だけが安定な原子や分子の複合体