46番元素パラジウム

今週は元素の話をしています。今日は46番元素パラジウム Pd です。これも白金族の一員ですが、周期表で白金の上なのでこれは間違えないでしょう。 水素ガスが接すると水素原子になり溶け込んで透過して反対側から分子になって出てくる不思議な性質があります。このため、水素を使う燃料電池に重要です。銀歯はパラジウムを20%含みます。また触媒としても重要です。2010年のノーベル化学賞はパラジウムを使った反応に与えられました。 問題は、この元素も偏在が著しいことで、ロシアが40-60%という高いシェアをもちます。 2014年のクリミア侵攻の際も問題になっていました。 https://10mtv.jp/pc/…

44番元素ルテニウム

元素の話は尽きませんが、今日は44番元素ルテニウム(Ru)です。白金族元素はウラル山脈付近で産出し、白金がルーブル貨幣に使われていた関係で残渣がロシア周辺で研究されました。1827年にロシアのオサンによって単離され、ルテニウムと名付けられましたが、再現性がないため撤回されました。1844年にロシア・カザンのクラウスによって再調査され、新元素として確認されました。ウクライナ~西ロシアを表すラテン語から命名されています。王水に溶けないなど面白い性質がある貴金属で、有機金属錯体として触媒や光機能分子として研究が盛んにおこなわれています。8族で鉄の下ですが、化学的性質から「白金族」と呼ばれます。また、…

臭素の発見者

昨日の研究所の名前に入っていた Antoine Jerone Balard バ「ら」ール(1802-1876)は、貧乏な家庭に生まれて Univ. Montpellierを卒業後、薬剤師・教師をしながら実験を続け、臭素と塩素の化学を切り開きました。出世作は、海藻抽出物からヨウ素を除くことによる臭素の発見です。臭素は美しい液体ですが、近づくと呼吸器に悪く、男性の不妊の原因になるとのことなので要注意です。Balardはこの業績でUniv. Sorbonneの教授になり、ハロゲンの研究の他に、同僚の研究室を回って議論して研究を助けたといわれています。PasteurはBalardの学生で、助手として雇…

世界の研究所 Institute Carnort Chimie Balard Cirimat (フランス)

今週の「世界の研究所」は、フランスのInstitute Carnort Chimie Balard Cirimatを取り上げます。 http://www.carnot-chimie-balard-cirimat.fr/en/our-institute/who-are-we/ フランスやドイツの研究所は先人の名前を付けることが多く、しばしば名前が変わるのでややこしいです。今回の研究所の由来は見つけられませんでしたが、 Carnot = Nicolas Lernard Sadi Carnot, 1796-1832 熱力学第二法則 Chimie = Chemistry Balard = Antoin…

リチウム,コバルト,ニッケル

金曜日は読書(今は M. Sandel 著 Justice)をすることにしていますが、今週はいろいろ立て込んで準備が間に合わないので、金属資源の話の続きにします。リチウムイオン電池の関係で、いろいろな元素が各国取りあいになっています。 ・リチウム 湖が干上がった場所が効率の良い鉱山になります。チリのウユニ塩湖が有名ですが、他にもあります。 https://www.his-j.com/tyo/zekkei/uyuni/ 価格はここ3年で10倍になっています。私も実験でリチウム(電池ではない)を使うので、頭が痛いです。 https://tradingeconomics.com/commodity/…

ハフニウム

金属資源の話に戻りましょう。原子番号72番のハフニウムは、酸化物がMOSFETのゲート絶縁膜に使われています。これは、素子の微細化に伴い、ゲート電場を半導体に均一にかけるために絶縁膜を薄くする必要がありますが、3nm以下ではトンネル効果によるリーク電流が無視できなくなるため、誘電率の高い絶縁物を使って実際は厚いが電気的には薄く見える絶縁膜を作るためです。HfO2は結晶構造によっては強誘電体になることも2011年に示されました。 https://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/semicon/741709.html あとは原子炉の制御棒(熱中性子の吸収断面積…

エキシマレーザーの用途

エキシマーレーザーの用途は、リソグラフィ以外にもいろいろあります。 視力矯正のレーシックは、角膜の皮をフェムト秒レーザーで剥がしてからその内側をlaser ablation で制御して削ります。かなり難しい技術だと思います。下記は模式動画 https://www.youtube.com/watch?v=6jeGG9ayZC0 検索すると実写も出てきますが、あまり気持ちのいい映像ではないです。 卓上の微細加工機もあります。これはよくできた装置ですね。有機半導体単結晶を整形するのにも使われていました。 https://www.youtube.com/watch?v=pePoOw-Rsl0 http…

ネオンの製法と用途

ネオンは、空気を分留して作るようです。沸点27.07K。空気中に含まれる量は18.2ppmでかなり少量です。常温から液化した時の体積減少が大きく、気体0.900g/L(0℃)、1.21g/cm3 (沸点)なので、1400倍ですね。他の気体は500~800倍なので、かなり違います。沸点が低いことが原因というわけでもなさそうで、ヘリウムは700倍、水素は800倍です。不思議ですね。 さて、精製ネオンはウクライナが世界シェア60%だそうです。最先端ではない(20~180nm)半導体露光装置のエキシマレーザーに使われています。エキシマレーザーは、 KrF 248nm パルスレーザー蒸着法によく使われる…

空飛ぶ自動車の電池容量

昨日計算した、飛行自動車が浮くためのパワー21kWに加えて、102km/h=28.3m/sの速度で水平飛行するためのパワーは、空気抵抗 1/2 x Cd x 空気密度 x 前方投影面積 x 速度^2 =1/2 x 0.25 x 1.28[kg/m3] x 1 [m2] x (28.3)^2 =128 N です。思ったほど大きくないですね。これを28.3m/sで移動するときの仕事率(←「パワー」の日本語はこれでしたね)は128 x 28.3 =3.6kWとなります。 浮くためのパワーと合わせて25kW, 効率70%として36kWが消費電力ですね。88kWの最大出力は加速時や方向転換などに使うので…

空飛ぶ自動車の消費電力

飛行自動車(またはエアタクシー)は4m2の面積の空気を20m/sで下向きに噴き出して2000Nの力で浮かぶという計算でした。 消費電力(以下モーターの効率を入れない値を「パワー」と言いましょう、単位時間当たりの仕事)を計算したいですが、流体力学でプロペラの計算をするのは大変そうです。下記、軸流ファンの計算ですが、「ビオ・サバールの法則」が出てきて、羽根を10分割すると計算できるそうです。自動車関連の技術論文なのが面白いです(pdf)。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsaeronbun/48/2/48_20174227/_pdf/-char/ja も…