ドローンによる森林モニター

森林をドローンから見てその健康状態(日本語としては変ですが、英語はhealth)を調べるためには、カメラの他にLiDAR(ライダー)が使われます。LiDAR (light detection and ranging) は、レーザーをパルスで照射して、反射光の時間遅れを測ります。精度を上げるのは技術的にたいへんですが、それは明日にして、何が分かるかの動画が下記です。 GPSと組み合わせて森林の3次元像が見えます。 https://www.youtube.com/watch?v=EYbhNSUnIdU 葉っぱの隙間から見える地表を描画することでジャングルに埋もれた遺跡が分かります。 https:/…

世界の研究所 ニュージーランド政府系研究機関 Scion

今週の世界の研究所は、ニュージーランドの政府系の研究所 Scion を取り上げます。 https://en.wikipedia.org/wiki/Scion_(Crown_Research_Institute) ニュージーランドの政府系研究機関はCrown Research Instituteとして統合され会社組織で運営されていて、Scionはその一部で第一次産業や気候変動、生物工学の科学研究を行う組織のようです。ニュージーランドは人口は500万人弱、北海道くらいですね。面積は27万平方キロで、日本の3/4。林業が盛んなので、Scionはドローンを使った森林管理の研究もしています。 http:…

重粒子線の方向転換には超伝導磁石を使う

800MeVの運動エネルギーを持つ重粒子線は加速器で作ります。加速器の詳細は別の機会にします。それだけの運動エネルギーを持つ粒子の方向を変えないとピンポイント照射できませんが、どうするのでしょうか。磁場を使っているようです。荷電粒子は電場でも磁場でも曲げられますが、高速粒子を電場で曲げるには高い電圧が必要で、放電が起こってしまいます。800MeVなら、全部でざっと100MV = 一億V は必要でしょう。ベクトルの計算をすればわかりますね。一億Vは、雷雲と地表の電位差の桁で、放電を防ぐのは極めて難しいです。その点で、磁場は使えますが非常に強い磁場が要るので、大きな超伝導磁石が使われています。動画…

高エネルギー粒子線はターゲットの内部深くで働く

800MeVに加速した炭素イオンの速度は光速の84%だそうです。生体深さ30cmまで侵入して破壊するそうですが、重粒子線の速度と散乱断面積の関係が気になりますね。 下記論文が最近のレビューで、Figure 1 に深さと与えるエネルギーの模式図が書いてあります。表層が0というわけではないですが、確かに深いところにピークがあります。陽子線に比べてピークが鋭いので、有効性は高そうです。このピークをブラッグピークというそうです。 https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fonc.2020.00082/full その理由は、おそらく高速イオンによる標的(…

重粒子線治療

加速器で炭素等の重粒子の多価イオンを加速して生体に照射すると、一定の深さの領域のDNAにダメージを与えることができます。これは、粒子が高速で運動しているときは物質との相互作用が小さいが、物質中で減速されると急に相互作用が大きくなることを利用します。X線やγ線に比べて他の組織への障害を少なくして体の内部にある腫瘍を破壊することができるため、病気によっては有効性が高いとされています。wikipedia に日本語版、ドイツ語版、中国語版しかないことからわかるように、日本が先行している方法で、日本には7か所施設があります。私はたまたま通りかかってQST病院の施設の建設現場を見たことがありますが、地下に…

世界の研究所 量子医科学研究所 & QST病院(旧:放射線医学総合研究所)

今週の世界の研究所は、千葉にある量子医科学研究所を取り上げます。少し前までは、放射線医学総合研究所とよばれていましたが、最近、国立研究開発法人・量子科学技術研究開発機構(QST)の傘下に入りました。ここは付属病院(QST病院)があり、加速器で作った粒子線によるガンの治療法を開発しています。他にも、PETやfMRIを用いた脳研究もやっているようです。放射線の生物への影響や応用および被ばく治療を担当する放射線医学研究所と、基礎から農業応用まで含む量子生命科学研究所が併設されています。 https://www.nirs.qst.go.jp/index.shtml 今週はこの研究所関連の技術を見ていき…

放射性元素の応用 241Am, 63Ni, 60Co

放射性元素の応用として主なものは、トレーサーや線源です。トレーサーは、放射性同位体でC,N,O,Pなどを置き換えた化合物を用いて、その元素がどこに行ったかを追跡することで反応経路や生体分子の分離(クロマトグラフィ類似のゲル電気泳動など)に用いていましたが、やはり放射能は扱いが面倒なので、生体分子にくっつく蛍光試薬など非放射性の方法がいろいろ開発されています。安定同位体の質量分析による追跡もその一つです。今日とりあげる放射性元素は、線源として多用された241Amと63Niです。241Amは半減期432年のα線源で、煙感知器に用いられました。煙の粒子がくると散乱されて電流が減ることを利用します。6…

PET診断で使われるフッ素同位体 18F

今日の放射性核種はフッ素同位体の18Fです(安定同位体は19F)。これは半減期110分で陽電子を放出します。陽電子放出断層写真法(positron emission tomography, PET)で使います。18Fを含むfluorodeoxyglucose を加速器→自動合成で作って注射します。 http://www.seirei.or.jp/hamamatsu/patients-info/examination/pet_Inspection/pet/index.html 合成装置や化合物、合成法の開発などは東京都の研究所の下記のページが見つかりました。楽しそうですね。他にも11C,13N,…

43番元素のテクネチウム

今日は43番元素のテクネチウムです。原子番号が小さい(Mnの下、Reの上)にもかかわらず安定同位体が存在しません(98Tcが430万年の半減期)。これは原子核理論の難問で、すっきりとした説明は難しいようです。原子核の液滴モデルに基づく半経験式 von Weizaecker model で正しく説明できない2つのうちの1つだそうです。 https://physics.stackexchange.com/questions/40960/why-is-technetium-unstable https://en.wikipedia.org/wiki/Semi-empirical_mass_formu…

Kharkiv Institute of Physics and Technology (ウクライナ・ハリキーウ物理工学研究所)

今週の世界の研究所は、最近攻撃された Kharkiv Institute of Physics and Technology (ハリキーウ物理工学研究所)です。報道では無事とのことですが、同所のweb サイトはつながらなくなっています。調べてみるといろいろ歴史があります。 ・Shubnikov-de Haas 振動のシュブニコフが低温グループを率いていたが、1938年に粛清された。Shubnikovは優れた実験家で、第二種超伝導体という概念の発見もしています。教科書のLandauとLifshitzも在籍していて同時に逮捕された。 https://en.wikipedia.org/wiki/Le…