Boston Dynamics の歴史と市販品

MIT-CSAILから派生した(spin-off)会社として、Boston Dynamicsが有名です。 https://www.youtube.com/watch?v=SAj2_mIlbm0 1992年にCSAILの電子工学の教授(歩行研究leg-labを主宰するMarc Raibert教授)が設立したそうです。 https://history-computer.com/boston-dynamics-guide/ 映画 Terminator や Robocop の兵器になりそうなロボットが多いですが、 米軍からいろいろ受注して研究したためだと思います。 2013 Google傘下→2017…

コンピュータ科学の先駆者リスト、FFT

昨夜は月食でした。帰宅時は月が蝕から回復するところでしたが、地球の影の端が完全な黒ではなく、月面の広い範囲にわたって灰色に見えたのが不思議です。光の回り込みが起こっているようですが、どういう仕組みなのか、すぐにはわかりませんでした。考えてみます。 さて、「コンピュータ科学の先駆者リスト」というのがwikipediaにあります。「この人の業績はそれほど偉大か?」などと突っ込みが[ ]の中に入っていて、議論スペースへのリンクが貼られているのが面白いです。深層学習は入っていますが、量子コンピュータは入っていません。日本人は1934年のデジタル回路論(=0、1を扱うデジタルの基礎、NECの人)と、20…

世界の研究所 米国MIT CSAIL

医学系の話が続いたので、今週は目先を変えて、米国MITのCSAIL (Computer Science and Artificial Intelligence Laboratory)を取り上げます。兼任も含めて約100の研究室、構成員は学生を含めて900人越、年間$65M(150円換算で100億円?計算間違いではないですね?)の予算があるそうです。 https://www.csail.mit.edu/about/mission-history ここのスピンオフに、四足ロボットで有名なBoston Dynamicsがあります。 英語は https://www.csail.mit.edu/news…

スーパーおたくと今後の創薬の方向性

近代創薬の祖は、Paul Ehrlich と言われています。病原体のみを狙い撃つ「魔法の弾丸 magic bullet」を有機化学で絨毯爆撃で見つけようという、狂人と言われても仕方がない目論見に606番目の化合物で成功してノーベル賞をもらっています。私の宗教観では、正しいことは天が味方することもあるという例の一つです。スーパーおたくを許容するドイツの国民性恐るべしです。日本の文化も歴史的に自分の道を突き進む人に優しいです。頑張りましょう!(一緒にされると怒る人もいるかもしれません。失礼しました) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%82%A6%…

アルツハイマーの免疫療法

アルツハイマー、レビー小体型認知症、ALS(筋無力性側索硬化症)等のいわゆる神経難病のうち少なくともいくつかはタンパク質の異常な折り畳み(folding)の変化とそれに伴う異常な集合体形成が神経細胞を壊すためではないかという説があり(先週と今週紹介した研究所)、アルツハイマーについては、関与するタンパク質は説が分かれていますが、定説となっているように見えます。神経細胞は壊れると再生が困難なため(最近、不可能ではないことが発見されています)、重大な機能障害を招いてしまいます。 それなら問題となっているタンパク質の異常な集合体を除去するように免疫を使えばいいのではないか、という発想で、ワクチンそし…

高い電圧を作るしくみ

雷の電圧は1億ボルトに達することもあると言われています。この電圧がどうやって生じるか、については昨日のサイトにヒントがありましたが、クイズ形式にすると: Q. 雷の高い電圧が発生する機構は下記の装置のうちどれに最も似ているか? 選択肢 1.van de Graaff 2. Cockroft-Walton 3. 高周波加速空洞 答えは、1.ヴァンデグラフ発電機です。 静電気を連続的に発生させて一ヶ所に蓄積させるという、単純ですが偉大なアイデアです。素材を工夫すると2000万ボルトを出せるそうです。 https://www.youtube.com/watch?v=rNEY3Yv9kC8 https…

ノーベル物理学賞

2022年のノーベル物理学賞は、「ベルの不等式」が成り立たないことを実験的に検証した3人に与えられました。 ベルの不等式は、量子化学では習わないですが、本格的な量子力学の教科書には出ています。「雨男と晴女が出会う確率の上限」というわかりやすい解説は下記。 https://xseek-qm.net/Bells_inequality.html 実験は「量子もつれ」が実際に起こり、通信の秘匿に使えることの証明にもなっています(2015年、Zeilingerら)。量子もつれは、量子コンピュータの動作原理なので、タイムリーな受賞ともいえるでしょう。量子コンピュータを提唱した人たちもいますが、その受賞はあ…

SiCの界面、宝石としてのSiC=モアッサナイト

4H-SiC (4Hは結晶多型の名前)のパワー半導体としての開発が進んでいます。高温で使えて放熱器が小さくてよい、高電圧を小型トランジスタでon/offできるなどの特徴があり、GaN, Ga2O3のどれが市場を制するかは、性能とコストで決まる段階になるでしょう。開発に成功しても使われなかったらその研究者は報われないか、というと、社会的には risk hedge としての役割があるので大切な役割だと思います。個人や会社の評価については、運ということになるでしょうが、後続の人がやる気を失わないように、開発成功の段階で報わないといけないと思います。 開発の歴史は下記pdf が面白いです(エラーが出る…

半導体としての炭化ケイ素(SiC)の難しさ

ワイドギャップ半導体は結晶を作るのが難しいものが多いです。GaNは突破口を開いた日本人がノーベル賞を受賞されました。SiCの結晶成長も難しいです。SiCはダイヤモンド構造が最安定のSiとグラファイト構造が最安定のCの化合物なので、その中間的な結晶構造が多数存在します。これを結晶多型(polytype)と言いますが、結晶多型が違うと当然結晶粒界が生じるので半導体としての性能が劣化します。 https://www.youtube.com/watch?v=hGHHaMJaCX8 にあるように、SiCは「カーボランダム」という研磨剤です。研磨剤の応用ならば結晶多型は問題ないですが、半導体の場合は大問題…

ワイドギャップ半導体

SiCはワイドギャップ半導体と呼ばれます。この「ギャップ」はバンドギャップ(band gap)の略で、電子の詰まった価電子帯(valence band)と電子が入っていない伝導帯(conduction band)のエネルギー差のことです。純粋な半導体は電気抵抗が高いのですが、異種元素を微量混ぜること(ドーピング)によって、価電子帯から電子を微量抜いたり(正孔が生成する)、伝導帯に微量の電子を入れたりすることができます。このドーピングで作られた正孔や電子は、外部からの電場や電流によって数(濃度)を簡単に変えることができるので、電気信号を制御するデバイス(半導体素子)を構成できます。これが一般論な…