ヘリウムの同位体 3He

「今日の英語」は1週間お休みをいただきました。お休みの前はPlank探査機の検出器を冷やすための希釈冷凍機の話をしていました。希釈冷凍機は、3Heと4Heの混合と分留によるエントロピーの輸送を利用して冷やします。常圧では固体にならないので極低温で使えます。3Heは私が学生の時に使っていましたが、非常に高価(たしか1Lの気体が10万円)、かつ不純物としてトリチウム(3H)を含むため吸い込んではいけないという指導をうけました。今日は3Heの資源について調べてみましょう。地球上では重力が弱いので4Heと同様、失われるだけのようです。4Heは放射壊変のα線として生成もされますが、3Heはビッグバン以降…

リンの同素体

リンは多数の同素体をもつことが知られています。wikipedia は最近は信頼しても大丈夫なので、詳しい情報は下記を見るといいと思います。 https://en.wikipedia.org/wiki/Allotropes_of_phosphorus 白リン(別名 黄リン) P4分子の結晶 発火点30℃、皮膚につくと猛毒 赤リン P4分子が頂点同士で1次元につながったもの。通常はアモルファス。摩擦で発火するのでマッチに使う。また、プラスチックの難燃化剤に使う(燃えたとき難燃性のポリリン酸がプラスチック表面を覆って酸素を遮断するため)。 http://www.rinka.co.jp/product…

CFRPの非破壊検査法

CFRPの非破壊検査に使えそうな方法を調べました。 ●サーモカメラが使えそうです。例えば赤外線などで温めるか、高温の場所においてから室温の場所に持ってきて測ると、温度が高くなったところが見えます。傷があると温度の一様性が損なわれます。 https://www.electronicdesign.com/technologies/embedded/press-release/21211253/ids-imaging-development-systems-nondestructive-testing-of-composite-materials ●ラジオ波のコイルを近づけて電磁誘導を見る論文があり…

金属疲労の検査法

過酷な環境にさらされる構造物(例:飛行機、橋など)は金属疲労の検査が行われます。通常の金属製品は結晶粒の大きさが1~10ミクロン程度の多結晶の集合体で、変形を繰り返していくと、原子が動くことにより結晶粒が合体して大きくなりながら粒と粒の間に隙間ができて亀裂が成長します。これが金属疲労です。空気中の酸素と反応する金属(銅など)の場合は変形を繰り返すと硬くなってきます。添加物を加えたり、熱処理によって結晶粒の大きさを制御したりするのが冶金(やきん)の技術になります。ジェットエンジンのタービンの羽根(ブレード)など過酷な環境で耐久性が必要な部品は、ブレードの形の鋳型に入れてメートルサイズの単結晶を作…

鉄筋コンクリートの強度を高めるには鉄筋を引っ張りながら固める

砕けやすい物質に繊維を入れることによって、強度が増すのは鉄筋コンクリートを考えればわかると思います。引っ張る力が均一にかからないで一部に集中することが割れる原因なので、鉄筋を入れることにより力を均一化すれば壊れにくくなります。 コンクリートは引っ張ると割れてしまいますが、押しつぶす力には強いです。そのため、コンクリートが固まるときに鉄筋に引張る力(ひっぱり応力)をかけておいて、固まってから引張をやめると、コンクリートには鉄筋が縮むことにより押しつぶす力がかかります。このようにして作られたコンクリートををprestressed concrete / pre-tensioned concrete …

世界の研究所:炭素繊維複合材料発祥の地 通産省大阪工業試験所(現 産総研関西センター)

先週はいろいろなニュースがありました。ロシアの反乱(未遂?)と潜水艇の話が印象的でしたが、今週は潜水艇のほうにしましょう。関係の方々の魂が安らかであることを祈ります。遭難した潜水艇はカーボンファイバー強化プラスチック(carbon fiber reinforced plastics=CFRP)で作られていたという情報があります。今週の世界の研究所は、カーボン複合材の発祥の地(特許1959年)といえる旧・通産省・大阪工業試験所(現:産業技術総合研究所関西センター)を取り上げます。進藤昭男博士の活躍は国立研究所と産業界の連携がうまくいった成功例として知られています。 https://www.ais…

医療用同位体を作るサイクロトロンは500億円市場

同位体の放射壊変は医療用にも使われます、PET(positron emission tomography 陽電子放出断層写真法)は、放射壊変して陽電子を出す特定の原子核を含む化合物を人体に注射し、出てきた陽電子が周囲の電子と対消滅するときに180度逆の2方向にガンマ線が出ることを利用して、精度よく人体中の位置を特定できます。転移しているかもしれないガンの場所を探すとき等に威力を発揮します。その時に使う原子核は 18F, 12C, 13N, 15Oで、加速器で作った後迅速に有機合成して糖などの試薬に組み込み注射します。半減期2分のものもあるので、PETには加速器が付属していてその場で原子核を作り…

世界の研究所 Univ. Chicago, Enrico Fermi Institute

今週の世界の研究所は、Univ. Chicago, Enrico Fermi Institute をとりあげます。 FermiLabというのもありますが、別物です。それはまたの機会に。 シカゴ大フェルミ研究所は教授35人を擁する研究所で、名簿には院生や技術職員も載っています。院生に比べて先生が非常に多いです。 https://efi.uchicago.edu/people/ 下記が研究分野ですが、加速器、宇宙線、重力、高エネルギー物理、ニュートリノ物理などに加えて、Geophysics(地球物理)というのがあり、ちょっと毛色が違ってなぜだろうと思います。これはおそらくここが原子核の放射壊変を使…

最初のレーザーの写真

今週は米国HRL Laboratories のwebを見ています。ここは可視光レーザーの発祥の地です。 https://www.hrl.com/about/laser 発明者メイマンがルビーレーザーを持っている写真がたくさん載っています。中心にある棒はルビーと共振器だと思います。発光するのはルビー中のCr3+です(配位子場理論の良い練習問題になります)。渦巻状のガラスは、励起用のキセノンフラッシュランプです。 キセノンフラッシュランプは、1~40気圧のXe気体を封入し、2つの電極を内蔵した放電管で、電極に数百~数千ボルトをかけると放電します。持続的な放電を行うランプもありますが、この写真はコン…

シリコンを使った量子コンピュータと可逆計算

HRL Laboratoriesは量子コンピュータにも力を入れているようです。 https://quantum.hrl.com/ 今年の3月にNature誌に出版している結果が興味深いです。Siの量子細線中に閉じ込めた電子のスピンをqubitとして使っています。3つのスピンで1qubitを構成するようにすることで、雑音の少ない量子演算を行うことに成功しています。20年前に提案されていた方法だそうですが、ようやく実際の素子として実現したということです。下記論文で、無料で公開されています。 https://www.nature.com/articles/s41586-023-05777-3 29S…