暗号通貨取引所のための安全保障マニュアル

RUISのレポートで暗号通貨に関するものが面白かったので紹介します(pdf注意)。 https://ik.imagekit.io/po8th4g4eqj/prod/institutional-vasps-and-var-assessment-guide-2.pdf マネーロンダリング等や国家間の制裁逃れに使われるのを避けるにはどうするかという仮想通貨業者向けのマニュアルです。 ・住所、氏名、会社ならビジネスの内容、暗号通貨使用の目的、個人ならどうやって原資を手に入れたか(給料から貯めたのか、もらったのか、など)を届け出させる。 ・その人や会社に関する悪いニュースなど情報を精査する(有料サービス…

車のサイバーセキュリティ

今日はRUSIのサイバーセキュリティに関する論説を読みましょう。電気自動車はコンピュータ化されているのでサイバーセキュリティが重要になる、という論説です。緊急停止機能(a Big Red Button)がハッキングされるのも問題だが、むしろ大量のセンサー(カメラやマイクを含む)から知らない間に個人情報を抜かれるほうが怖くないか、と述べています。エネルギーインフラのハッキングは例があるようですね。そういえばイランの核物質濃縮設備もハッキング(というよりスパイが制御コンピュータに差し込んだUSBウィルス)で壊されたと聞いたことがあります。 https://ja.wikipedia.org/wiki…

固体多孔質CO2吸脱着剤

一昨日はアミン溶液を中心としたCO2吸着剤の応用例でしたが、固体吸着剤も使われています。ゼオライトなど多孔質固体や、多孔質固体の孔の内部ににアミン等のCO2を吸着・脱着できる分子・高分子を吸着させたものです。利点は、温度の変化でCO2の溶解度を変える液体を作ることは可能ですが、溶液、特に水の温度を変えるのはエネルギー消費が大きいので、潜熱の小さい固体にしよう、という発想です。ムーンショットなど国家プロジェクトも複数走っています。諸外国の大型プロジェクトも多数あります。 下記は現状がよくわかります(pdf) https://www.rite.or.jp/news/events/%E6%B4%BB…

混合のエントロピー変化

一昨日にノーベル経済学賞が発表されました。解説を、と思ったのですが、所得の性差に関する統計的な研究を最初にまとめたHarvardの教授で、男女格差解消のきっかけになったという業績のようです。数理的な要素が無いので、このくらいにしましょう。 さて、昨日は1kgのCO2を4%から90%に濃縮するのに3MJのエネルギー(電気ストーブを1時間焚くエネルギー)が必要という話でした。これが理論的な最大効率とどのくらい離れているかを検討したいと思います。 こういう時は化学工学の文脈では「エクセルギー」というのが出てきます。 https://www.kobelco.co.jp/technology-revie…

石炭火力発電所の二酸化炭素回収実用プラント

二酸化炭素分離プロジェクトで有名なものにBoundary Dam Carbon Capture Projectがあります。カナダのサスカチュワン州の電力会社SaskPowerが2014年から手掛けています。 https://www.saskpower.com/Our-Power-Future/Infrastructure-Projects/Carbon-Capture-and-Storage/Boundary-Dam-Carbon-Capture-Project これは、石炭火力発電所からのCO2を回収するプラントで、石油メジャーのShellが開発したCansolveという回収システムを使って…

世界の研究所 Global CCS Institute (メルボルン)

先週はノーベル賞の合間にCO2回収技術について解説を始めていました。今週はその続きで、世界の研究所はGlobal CCS Instituteを取り上げます。これはオーストラリアのメルボルンに本部があり、Washington DC(米国)、London(英国)、Brussels(ベルギー)、北京、東京に事務所がある40人の組織です。日本は環境省の幹部が入っているので、政府が関与しているようです。ここが出している二酸化炭素分離貯蔵(carbon dioxide capture and storage, CCS)に関する下記レポート(pdf注意)はあちこちで引用されています。 https://www…

2023年ノーベル化学賞

2023年のノーベル化学賞は、量子ドット=化学的に合成した半導体ナノ粒子の先駆者に対して与えられました。現在、一部のテレビ(パソコンのモニタ)には量子ドットが蛍光色素として使われています。有機分子と違って壊れにくく、発色もナノ粒子の大きさを変えることによって量子サイズ効果で調節できるという利点があります。Bawendi教授が量子ドットを発表したころ、私は大学院生で長期インターンで米国にいました。たしかBawendi教授はこの仕事でMITの助教授に抜擢され、すぐ教授になったと記憶しています。そのころ開発された半導体レーザーをつくるためのMOCVD(metal organic chemical v…

2023年ノーベル物理学賞

2023年のノーベル物理学賞は attochemistry と呼ばれる分野の先駆的な実験に対して与えられました。やや専門的な、分かりやすい解説は下記です。atto秒(10の-18秒)の桁のパルスを作り計測する技術の開発に焦点があてられたようです。 https://www.optica-opn.org/home/newsroom/2023/october/attosecond_physics_pioneers_take_2023_nobel_prize/ atto は10^-18で、その上はfemtoですが、femtochemistryは1991年の化学賞です。attoだと物理学賞になるのは面白…

2023年ノーベル医学生理学賞

2023年のノーベル医学生理学賞は、mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンの発明者に与えられました。これはコロナワクチンに使われたのでよく知られていますね。細胞内にmRNAがうまく入ると、対応したタンパク質が作られます。そのタンパク質が例えばコロナウィルスの表面突起のものだとすると、生体の免疫反応が誘起され、ウィルスの感染を初期に抑え込むことができるようになります。仕組みの詳細の解説は下記です(今回受賞の Weissman教授が著者)。 https://www.nature.com/articles/nrd.2017.243 mRNAワクチンの利点として、(1)安全性(病原性がなく、体内の半…

世界の研究所 大気CO2直接回収プラントの 1PointFive社

今週はノーベル賞の解説をするので題材が不規則になります。とりあえず、発表がない日と来週を混ぜて二酸化炭素の直接大気回収(Direct Air Capture: DAC)技術の現状について解説したいと思います。今週の世界の研究所は、最近日本の全日本空輸(ANA)と提携を結んだ米国の1PointFive社を取り上げます。ここは独立系石油会社 Occidental Petroleum社の子会社で、カナダのCarbon Engineering社と提携してDACプラントを建設しています。 https://www.1pointfive.com/ https://ja.wikipedia.org/wiki/…