マネーの総量の膨張

今週はIMF(国際通貨基金)から始めたので、お金の話をしましょう。私なりの理解なので、間違っているかもしれません。技術の話と違って誤っても大きな危険はなく、皆さんが自分の経験から間違いを見つけるのも楽しみだと思うので、恐れず進めます。 現在のお金は紙幣や硬貨以外の、帳簿にしかない、いわゆる「マネー」が圧倒的に多いです。 https://data.imf.org/?sk=B83F71E8-61E3-4CF1-8CF3-6D7FE04D0930 に国別、年次別 monetary stock の詳細があります。 お金(金融)の大きな役割として、「信用創造」があります。 「発明をしたので工場を作りたい…

墨子(2) 雲梯の発明者との駆け引き

今週の墨子は、巻13公輸 を紹介します。原文は下記です。 https://ctext.org/mozi/gong-shu/zh あらすじは https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AC%E8%BC%B8%E7%9B%A4#%E3%80%8E%E5%A2%A8%E5%AD%90%E3%80%8F%E5%85%AC%E8%BC%B8%E7%AF%87 落ちもあって、面白いと思います。 公輸盤(別名 魯班 BC507-444) は伝説化・神格化した技術者で、鉋(かんな)・錐(きり)・鋸(のこぎり)の発明、3日間飛び続けた飛行機(凧とも)(下記銅像)を作った伝説があり…

墨子(1) 科学技術の先駆者

金曜日の読書はマキャベリも検討したのですが、「墨子」を先にやることにします。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A2%A8%E5%AD%90 によれば、BC470-BC390ころの戦国時代の人物で、日本語にも「墨守」など入っています。博愛と非攻(専守防衛)を唱えた思想家で、都市防衛の技術を各国に伝えて生業を立てた集団のリーダーのようです。現在では科学技術の先駆者(科祖)とされているそうです。下記wikipedia中国語版には、日本語版で「難解」と片付けられている部分が詳しく書いてあります(てこの原理、原子論、はじめてピンホールカメラを作った 等)。 https…

佐賀藩精錬方

佐賀藩は肥前藩とも言い、長崎の警護を担当していたことから外国の情報が入手しやすく、国防に危機感を持った10代藩主鍋島直正侯の命により研究所である「精錬方」が設立されました。日本赤十字を設立することとなる佐野常民を中心に、からくり儀右衛門こと田中久重(東芝の創業者の一人)ら、技術者を全国から招聘しました。佐賀藩は35.7万石で、全国の石高が3237万石(明治の最終統計なので直接比較は良くないですが)ですから、当時の日本のGDPの約100分の1です。俗に、藩の数は300諸侯といわれています。江戸時代は財政が独立で、地方分権色が強かったことがわかります(将軍家は全国の石高の半分を持った巨大な藩とみな…

世界の研究所「韮山反射炉」と「佐賀藩精錬方」

今週の世界の研究所は、世界遺産の一部でもある「韮山反射炉」と「佐賀藩精錬方」をとりあげます。 https://www.city.izunokuni.shizuoka.jp/bunka_bunkazai/manabi/bunkazai/hansyaro/ 戦国時代の1543年にポルトガルの脱走船(タイから)の漂着により種子島に鉄砲(火縄銃)が伝来してから、刀鍛冶による国産化(<1年)と武士による使用法研究で鉄砲は全国に普及しましたが、江戸幕府では実戦の必要がなくなり、4家(すぐ2家に減少)の世襲による鉄砲方が鉄砲術を武術の一種として維持しました。ところが、幕末に欧米諸国が来航するようになり、対抗…

Justice 第六章 ロールズによる格差主義

今週のJusticeは、第6章”The case for equality / John Rawls”です。20世紀の哲学者ジョン・ロールズ(1921-2002)による正義論を解説しています。不勉強でこの人については知らなかったのですが、ずばり “A Theory of Justice”が主著で、この本の著者Sandelと同じハーバード大学の哲学の教授でした。前任者かもしれません。同意できるところが多い説だと思いました。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83…

Justice 第五章 カントの主張

今週のJusticeは、第5章”What matters is the motive / Immanuel Kant”です。功利主義を徹底的に嫌ったカントの主張を解説しています。カントは、ケーニヒスベルグ(現:ロシアの飛び地カリーニングラード)で活動した哲学者(1724-1804)で、功利主義のベンサムと同時代です。大学に入ったころ、背伸びしてカントを読もうとしましたが難しくて挫折しました。この章の解説はわかりやすいです。私なりに単純化すると、(1)自分と他者の区別なく、理性的存在を無条件に尊重する姿勢から正しい道徳が生まれる、(2)結果consequenceではなく、…

Kharkiv Institute of Physics and Technology (ウクライナ・ハリキーウ物理工学研究所)

今週の世界の研究所は、最近攻撃された Kharkiv Institute of Physics and Technology (ハリキーウ物理工学研究所)です。報道では無事とのことですが、同所のweb サイトはつながらなくなっています。調べてみるといろいろ歴史があります。 ・Shubnikov-de Haas 振動のシュブニコフが低温グループを率いていたが、1938年に粛清された。Shubnikovは優れた実験家で、第二種超伝導体という概念の発見もしています。教科書のLandauとLifshitzも在籍していて同時に逮捕された。 https://en.wikipedia.org/wiki/Le…

44番元素ルテニウム

元素の話は尽きませんが、今日は44番元素ルテニウム(Ru)です。白金族元素はウラル山脈付近で産出し、白金がルーブル貨幣に使われていた関係で残渣がロシア周辺で研究されました。1827年にロシアのオサンによって単離され、ルテニウムと名付けられましたが、再現性がないため撤回されました。1844年にロシア・カザンのクラウスによって再調査され、新元素として確認されました。ウクライナ~西ロシアを表すラテン語から命名されています。王水に溶けないなど面白い性質がある貴金属で、有機金属錯体として触媒や光機能分子として研究が盛んにおこなわれています。8族で鉄の下ですが、化学的性質から「白金族」と呼ばれます。また、…

臭素の発見者

昨日の研究所の名前に入っていた Antoine Jerone Balard バ「ら」ール(1802-1876)は、貧乏な家庭に生まれて Univ. Montpellierを卒業後、薬剤師・教師をしながら実験を続け、臭素と塩素の化学を切り開きました。出世作は、海藻抽出物からヨウ素を除くことによる臭素の発見です。臭素は美しい液体ですが、近づくと呼吸器に悪く、男性の不妊の原因になるとのことなので要注意です。Balardはこの業績でUniv. Sorbonneの教授になり、ハロゲンの研究の他に、同僚の研究室を回って議論して研究を助けたといわれています。PasteurはBalardの学生で、助手として雇…