世界の研究所 量子医科学研究所 & QST病院(旧:放射線医学総合研究所)

今週の世界の研究所は、千葉にある量子医科学研究所を取り上げます。少し前までは、放射線医学総合研究所とよばれていましたが、最近、国立研究開発法人・量子科学技術研究開発機構(QST)の傘下に入りました。ここは付属病院(QST病院)があり、加速器で作った粒子線によるガンの治療法を開発しています。他にも、PETやfMRIを用いた脳研究もやっているようです。放射線の生物への影響や応用および被ばく治療を担当する放射線医学研究所と、基礎から農業応用まで含む量子生命科学研究所が併設されています。 https://www.nirs.qst.go.jp/index.shtml 今週はこの研究所関連の技術を見ていき…

Justice 第四章 金銭を払って代理を立てることの正当性

今週のJusticeは第4章、”Hired help / Markets and morals” 金銭を払って代理を立てることの正当性を議論しています。代理業務の対象は兵役と出産です。全く違う話ですが、道徳的には似た問題です。いろいろな変遷を経て現在は次のようになっているそうです。兵役は多くの国で義務ではなく給料をもらう仕事となり、富裕層の割合が減り、貧困層出身の割合が増えている。これで愛国心を発揮できるか?という論点です。代理出産は、生殖技術の発達によって受精卵を育てるだけの「代理母」が可能になり、インドなどでは商業的に誘致している場所があるそうです。これらの是非は功…

放射性元素の応用 241Am, 63Ni, 60Co

放射性元素の応用として主なものは、トレーサーや線源です。トレーサーは、放射性同位体でC,N,O,Pなどを置き換えた化合物を用いて、その元素がどこに行ったかを追跡することで反応経路や生体分子の分離(クロマトグラフィ類似のゲル電気泳動など)に用いていましたが、やはり放射能は扱いが面倒なので、生体分子にくっつく蛍光試薬など非放射性の方法がいろいろ開発されています。安定同位体の質量分析による追跡もその一つです。今日とりあげる放射性元素は、線源として多用された241Amと63Niです。241Amは半減期432年のα線源で、煙感知器に用いられました。煙の粒子がくると散乱されて電流が減ることを利用します。6…

PET診断で使われるフッ素同位体 18F

今日の放射性核種はフッ素同位体の18Fです(安定同位体は19F)。これは半減期110分で陽電子を放出します。陽電子放出断層写真法(positron emission tomography, PET)で使います。18Fを含むfluorodeoxyglucose を加速器→自動合成で作って注射します。 http://www.seirei.or.jp/hamamatsu/patients-info/examination/pet_Inspection/pet/index.html 合成装置や化合物、合成法の開発などは東京都の研究所の下記のページが見つかりました。楽しそうですね。他にも11C,13N,…

43番元素のテクネチウム

今日は43番元素のテクネチウムです。原子番号が小さい(Mnの下、Reの上)にもかかわらず安定同位体が存在しません(98Tcが430万年の半減期)。これは原子核理論の難問で、すっきりとした説明は難しいようです。原子核の液滴モデルに基づく半経験式 von Weizaecker model で正しく説明できない2つのうちの1つだそうです。 https://physics.stackexchange.com/questions/40960/why-is-technetium-unstable https://en.wikipedia.org/wiki/Semi-empirical_mass_formu…

Kharkiv Institute of Physics and Technology (ウクライナ・ハリキーウ物理工学研究所)

今週の世界の研究所は、最近攻撃された Kharkiv Institute of Physics and Technology (ハリキーウ物理工学研究所)です。報道では無事とのことですが、同所のweb サイトはつながらなくなっています。調べてみるといろいろ歴史があります。 ・Shubnikov-de Haas 振動のシュブニコフが低温グループを率いていたが、1938年に粛清された。Shubnikovは優れた実験家で、第二種超伝導体という概念の発見もしています。教科書のLandauとLifshitzも在籍していて同時に逮捕された。 https://en.wikipedia.org/wiki/Le…

Justice 第三章 リバタリアニズム(自由至上主義)

勝手に、金曜日は古典、哲学、経済学などの本を読んで重要な英単語を紹介することにしています。理由は、外国人と小さなパーティや飲み会をするときに深い会話をすると文化の違いが理解できて面白いのと、仕事にも役立つと思うからです。私の経験では、時事問題だけでなく、関連して深い内容を振ってくる人が予想より多いです。言語はもののの見方・考え方を作るので、7000語レベルの英語が使えると世界が広がると思います。さて、Justice 第三章 Do we own ourselves? - Libertarianism です。富の再分配をどこまですべきか、個人の安全のための規制(例:ヘルメットやシートベルト)を義務…

46番元素パラジウム

今週は元素の話をしています。今日は46番元素パラジウム Pd です。これも白金族の一員ですが、周期表で白金の上なのでこれは間違えないでしょう。 水素ガスが接すると水素原子になり溶け込んで透過して反対側から分子になって出てくる不思議な性質があります。このため、水素を使う燃料電池に重要です。銀歯はパラジウムを20%含みます。また触媒としても重要です。2010年のノーベル化学賞はパラジウムを使った反応に与えられました。 問題は、この元素も偏在が著しいことで、ロシアが40-60%という高いシェアをもちます。 2014年のクリミア侵攻の際も問題になっていました。 https://10mtv.jp/pc/…

44番元素ルテニウム

元素の話は尽きませんが、今日は44番元素ルテニウム(Ru)です。白金族元素はウラル山脈付近で産出し、白金がルーブル貨幣に使われていた関係で残渣がロシア周辺で研究されました。1827年にロシアのオサンによって単離され、ルテニウムと名付けられましたが、再現性がないため撤回されました。1844年にロシア・カザンのクラウスによって再調査され、新元素として確認されました。ウクライナ~西ロシアを表すラテン語から命名されています。王水に溶けないなど面白い性質がある貴金属で、有機金属錯体として触媒や光機能分子として研究が盛んにおこなわれています。8族で鉄の下ですが、化学的性質から「白金族」と呼ばれます。また、…

臭素の発見者

昨日の研究所の名前に入っていた Antoine Jerone Balard バ「ら」ール(1802-1876)は、貧乏な家庭に生まれて Univ. Montpellierを卒業後、薬剤師・教師をしながら実験を続け、臭素と塩素の化学を切り開きました。出世作は、海藻抽出物からヨウ素を除くことによる臭素の発見です。臭素は美しい液体ですが、近づくと呼吸器に悪く、男性の不妊の原因になるとのことなので要注意です。Balardはこの業績でUniv. Sorbonneの教授になり、ハロゲンの研究の他に、同僚の研究室を回って議論して研究を助けたといわれています。PasteurはBalardの学生で、助手として雇…