63Niを使った原子力電池

昨日の記事で「眉唾」と書いてあった63Ni原子力電池についてみてみましょう。63Niは62Ni(安定同位体)に中性子を照射するとできるそうです。β崩壊で電子を出して63Cu(安定同位体、天然の銅の60%を占める)に変わるので、壊変後は安定です。ベータ線(電子)のエネルギーも平均17keV、最高66keVなので低エネルギーの部類に入ります。反射高速電子線回折(RHEED)のエネルギーが20keVなので、それを超小型(物質のみ)で作れるのは魅力的で、ガスクロマトグラフィ、帯電防止装置、遮蔽能力を測定する厚さ計などに使われています。密封線源の場合は管理が緩いですが、紛失すると届け出が必要です。壊れて…

世界の研究所: 英国 Cabot Institute for the Environment @ Univ. Bristol

先週は原子力電池に関するニュースをいくつか見ました。1つは英国University of BristolのCabot Institute for the Environment による14Cダイヤモンド電池、もう一つは中国の会社(Betavolt社)の63Ni電池です。後者は今年はじめの発表のようで、14Cの記事をみたら勝手に「おすすめ」されたのではないかと思います。 https://www.bristol.ac.uk/cabot/what-we-do/diamond-batteries/ https://insideevs.com/news/704871/china-betavolt-ato…

Why Nations Fail (5):第5章 専制下での限界による経済成長の停止はしばしば悲劇を生む

金曜日の読書 Why Nations Fail 今週は5章です。収奪的な政治経済制度の下での成長の限界と、成長が終わる時に発生する悲劇について説明されています。最初の例はソ連です。本の説明を単純化すると下記です。 帝政ロシアの独裁→1917年ボリシェビキ革命による独裁の成立→経済を科学的に再整理し発展を計画(米国からの使節が「私は未来を見た、上手くいっている未来を I’ve seen the future. It works」とコメント)→1928年から1960年まで年6%のGDP成長→1970年代に停滞に陥る→1988年に崩壊→ロシア→・・・ です。 停滞の理由は、労働者に発想を…

GPSの話題3つ 相対論補正、4つの衛星のメッセージを同時に聞く方法、位相検波のハードウェア

GPSの話題であと3つ話したいことがあります。 (1) 相対論補正:原子時計は簡単なものでも10^-11の精度があります。測位衛星は2万キロの上空(cf. 地球の半径は3000キロ)を飛んでいるので、第一宇宙速度8km/sよりはだいぶおそく3.9km/sだそうです。それでも原子時計の精度では遅れが生じ、下記記事によると1日あたり7μ秒遅れるそうです。相対論補正は1-√(1-(v/c)^2)で、v=3.9km/s, c=3x10^5km/sとすると8.45x10^-11の割合で、1日86400sをかけると7x10^-6sとなるのであっていますね。この遅れは補正しているそうです。 https://…

いつも数十個の測位衛星が上空を飛んでいる

GPSを補完し精度をあげるための衛星(測位衛星)をみるシステムを「みちびき」がつくっています。常時数十個の衛星がいることに驚きます。日本上空は多いのですが、アフリカや南米でも相当な数が飛んでいます。 https://app.qzss.go.jp/GNSSView/gnssview.html 衛星の位置は地上の監視局というのが測っているようです。日本はつくばにGEONET中央局というのがあるようです。管轄は国土地理院、なるほどと思いました。 https://www.gsi.go.jp/denshi/denshi_38136.html cmまで精度をあげるための仕組みも作られ運用されています。pp…

なぜGPSには4つの衛星の信号が必要か

GPS衛星は1.57542GHz,1.22760GHz,1.17645GHzで同じ内容を発信しているようです。4つの衛星の信号を携帯電話やカーナビが受信して10cmの精度で位置がわかるということから、仕組みを考えてみましょう。衛星が発信している情報は、自分(衛星)の3次元座標、現在時刻でしょうか。受信機と衛星の距離によって受信する現在時刻の数値が違うはずです。距離をコンパスのように3つ使えば受信機の位置を3次元で特定できますね。ただし、受信側が正確な時計を持っていないと距離の差3つしかわからないので、4個目の衛星が必要です。つまり、未知数として受信機の座標(x,y,z)と現在時刻(t)の4つを…

世界の研究所: 準天頂衛星「みちびき」

今週の世界の研究所は、準天頂衛星「みちびき」をとりあげます。これは内閣府のwebに一般向けの説明があります。 https://qzss.go.jp/ GPS (global positioning system)は専用の人工衛星4つ以上からの信号を集めてその時間差から自分の位置を割り出す仕組みです。 もともと米軍の衛星の信号を使っていましたが、米軍の衛星からは精度を隠すため100mくらいの誤差を含んだ信号が発信されていて、初期のカーナビの表示は道路を走っていたのに急に川の中に移動したりして面白かった記憶があります。それでは困るので、米軍のほかに各国がGPS用の衛星群を打ち上げています。日本では…

Why Nations Fail (4):第4章 1346年からのペストの流行が産業革命の遠因だった

金曜日の読書 Why Nations Fail 今週は4章です。偶然の出来事が大きな進路の違いを生み、繁栄した国と貧困にあえぐ国が生じるという主張を展開しています。偶然の出来事の積み重ねが歴史である、と言っていますが納得できます。まず、ヨーロッパで包括的(inclusive)な社会ができた理由を1346年から繰り返し猖獗を極めたペストに結び付けています。全人口の1/3が亡くなったため、当時の封建社会で下層階級であった農民の数が減り、労働力の価値が上がったため、条件の良い領地に移動できるようになります。これがイングランドで何度か起こる革命の遠因であり、それによって国王や領主の力が制限されて包括的…

ナノスケールの金属3Dプリンティング

市販されている金属の3Dプリンティングは昨日までに説明したように微粉末をレーザー加熱で融かしてくっつけるものでした。加工寸法はレーザーのスポット径で決まり、0.1mm程度です。それを2~3桁縮める方法が今年の8月に発表されました。無料で読めるのが下記です。 https://www.nature.com/articles/s41563-024-02031-7 https://www.instrument.com.cn/news/20240822/737574.shtml フェムト秒レーザーを使います。レーザーを圧縮して短いパルスにしているため1パルス当たりの光が強いので励起状態がさらに励起される…

金属用3Dプリンタのレーザー波長

金属用3Dプリンターはレーザーで金属粉を融かしてくっつけています。動画を見ると、火花があがっています。 https://www.youtube.com/watch?v=8L6ac1fdgWU 窒素またはAr雰囲気で金属が燃えるはずはないのに火花が上がっているのは不思議ですね。何が起こっているのでしょうか? これはおそらくレーザーで加熱された微粒子が熱膨張でお互いにはじきあって一部が飛び出しているのでしょう(spattering)。色からすると飛び出した粒子の温度は1000℃は超えていると思います。その分の量が減るのを考慮する必要があるでしょう。下に形成されたものがあるか、粉のままかによって飛び…