市販されている金属の3Dプリンティングは昨日までに説明したように微粉末をレーザー加熱で融かしてくっつけるものでした。加工寸法はレーザーのスポット径で決まり、0.1mm程度です。それを2~3桁縮める方法が今年の8月に発表されました。無料で読めるのが下記です。
https://www.nature.com/articles/s41563-024-02031-7
https://www.instrument.com.cn/news/20240822/737574.shtml
フェムト秒レーザーを使います。レーザーを圧縮して短いパルスにしているため1パルス当たりの光が強いので励起状態がさらに励起されるような「二光子過程」が起こります。二光子過程では、光の強度分布の二乗の分布になるため、波長で決まる回折限界よりもずっと細い構造を描くことができます。加えて、焦点部分にエネルギーが二乗で集中するため、焦点の1点だけで反応を起こすことができ、焦点をずらしていくことで3次元の任意の図形が描けます。欠点は加工速度でしょうか。
上記論文(武漢大学)では、金属カルボニル溶液中に焦点を絞ったパルスレーザーを照射し、光分解により金属ナノ粒子を析出させ、同時に融かしてくっつけて構造体を作ります。いったん金属が生じると、表面プラズモンの光電場増強効果が起こるのでさらに光分解が促進されます。
論文の図にあるように、200nmくらいの線でできた複雑かつ自在な物体を作ることに成功しています。寸法精度は10nmくらいでしょうか。この方法を思いつく人はたくさんいるでしょうが(私も夢想したことはあります)、数千万円のレーザーを買って光の焦点をnmで動かす光学系を組み上げ(数千万円)、nm精度のステージ上に溶液を乗せてから金属カルボニルという猛毒物を扱う(有機化学者は扱っていますが、機械工学やレーザーの人には抵抗があると思います)というのはかなりハードルが高く、お金とマンパワーに糸目をつけないところでないとできません。この論文は著者が5人しかいないので、かなり頑張ったのでしょう。コストと製造速度の点で実用になる可能性は低いので、現在の日本では大学・研究期間・企業とも予算が通らないだろうと思います。将来、再生エネルギー等の価格が下がり、人類が豊かになってこのような技術の限界を破る試みがいろいろなところでできるようになることを願いたいです。
英語は上記記事から。
“(ポリマーについてはできていた。ポリマーに金属を混ぜて後で加熱する方法も行われたが)But the post-print thermal processing that is required to remove the polymer and consolidate the metal feedstock (nanoparticles or their precursors) at temperatures up to 1,000 °C poses multiple challenges, including excessive linear shrinkage, incomplete densification and an inherent incompatibility with standard complementary metal–oxide–semiconductor technology and other thermally sensitive substrates. ”
consolidate 固化する
feedstock 供給原料
precursors 前駆体
pose multiple challenges 多くの困難を提示する
linear shrinkage 線形収縮
incomplete densification 濃縮不足、密度不足
inherent incompatibility そもそも適合していない
“… elegantly address the challenge with a polymer-free optical approach that combines laser-induced synthesis of nanoparticles and their consolidation in a single step, circumventing the need for thermal processing while maintaining most of the advantages of the DLW method. ”
address the challenge その困難に答える/対応する (こういう言い回しが論文では大切です)
circumvent サーカン「ヴェ」ント 回避する