61番元素Pmの錯体が今年初めて作られていました。追加で60Coとガンマナイフの話。

ベータ崩壊を電力に変えるbetavoltaicに使われる同位体に147Pmがあります。Pmはプロメチウムで、安定同位体がない元素です。147Pmの半減期は2.6年で、あまり長くありません。寿命が短いと原子数当たりの崩壊速度が速く(毎秒の崩壊数であるベクレル(Bq)が大きい)、量が少なくて動作するので超小型化に向いています。しかし短寿命なら化学電池で十分ですね。いろいろ調べていたら、今年になってプロメチウムの錯体が初めて作られたという論文がNatureに出ていました。これは無料で読めます。米国Oak Ridge National Laboratoryの研究です。
https://www.nature.com/articles/s41586-024-07267-6
Fig.1のPmの3価の錯体がピンク色なのは初めて見ました。確かに一見の価値はあります。放射能が強いとのことで、wikipediaにも単体金属の写真は載っていませんが、化合物なので希釈されているのと、カメラの前に透明な遮蔽版を入れたのでしょうか?ランタノイドなので蛍光も出ると思います。書いてありませんが何色に光るのでしょうか。
Fig.3はランタノイド収縮をEXAFSデータから議論しています。これまで欠けていたPmのところが埋まりました。
実験手法のところが面白いです。放射性同位体を扱う施設で、グローブボックス(glovebox)とHEPAフィルター付きのドラフト(fume hood)を使ったとのこと。
238Pu(プルトニウム)を製造するときの廃液から回収したそうです。Oak Ridge National Labは核兵器も扱っているので238Puも作っているのでしょう。回収時に強いガンマ線がでるランタノイド元素141,144Ceと154-156Euがあるので分けるのがたいへんだったと書いてあります。長い歴史の中で今年までPm錯体の合成が行われていなかった理由も納得です。
プロメチウムの錯体を作って役に立つのか?という疑問を持つのではないでしょうか。放射線医学(診断や治療)の用途もいまのところメジャーではありません。診断ではPETに使う陽電子を出すβ+崩壊や特定の臓器に集まるもの以外は同位体を使わない方法が簡便なので用途にならず、治療ではガンマ線を出すような元素(60Coなど)は「ガンマナイフ」の用途がありますが、プロメチウムの同位体はそれも違います。錯体を作ったのは純粋に好奇心の観点から偉いと思いますが、世の中を変えるような話ではなさそうです。
https://www.h.u-tokyo.ac.jp/neurosurg/rinsho/GK.htm
※別の話ですが、ガンマナイフの装置をどうやって作っているか、興味があります。人間は60Coにはさわれません。下記はインドでデリー大学化学科のゴミから60Coが発見されたという14年前のニュースに関連して取り扱いの実演が出ています。鉛ガラス2mの向こうでマジックハンドで扱うそうです。60Coの不法廃棄は世界で何回か起こっていますが、致死的で、絶対に起こって欲しくない事故です。
https://www.youtube.com/watch?v=LZsSdab4qh8

half life 半減期
lanthanide 「ら」ンさナイド ランタノイド
complex 錯体
fume hood = draft chamber ドラフトチャンバー fume フューム は煙、蒸気 
※下水道などに使う鉄筋コンクリートでできた「ヒューム管」は fume とは関係なく、Hume兄弟という発明者の名前から来ています。 https://www.hume-pipe.org/about/index.html
diagnosis 診断
therapy 治療
Prometheus プロメテウス  人間に火を与えた神(ギリシャ神話)
” Whereas this lanthanide contraction phenomenon taught in general chemistry textbooks has been inferred mostly from theory and Shannon’s effective ionic radii database, it still lacks experimental structural evidence for a complete set of lanthanides in solution that includes radioactive Pm.”
lanthanide contraction phenomenon ランタノイド収縮の現象
infer イン「ファ」ー ほのめかす
Shannon’s effective ionic radii database シャノンのイオン半径の表 ←これは材料屋はよく使います

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