ぺニングトラップ

昨日紹介した論文は凝った実験で説明が難しいです。
荷電粒子を磁場中に高周波電場でサイクロトロン運動(ローレンツ力による円運動を止めないように電場を与える)させて真空中に保存する「ぺニングトラップ」というのを駆使しています。
異なる構造のぺニングトラップを連結させて、熱運動による円運動の揺らぎを減らすように行ったり来たりさせます。不均一磁場を使って円運動の熱揺らぎを軸方向の振動と混合させ、もう一つのトラップに輸送してから軸方向の振動にちょうどよい時間だけブレーキをかける、という過程を繰りかえすというイメージでしょうか。右向きに動いているものだけを取り出してその向きの成分を減速させる、というのがMaxwell’s daemonということのようです。
28.6 MHzと657kHzの高周波で回転運動している1個の反陽子を行ったり来たりさせて何時間も実験しているのは、素晴らしい手技だと思います。
ぺニングトラップ、磁気ボトルなど、懐かしい言葉が出てきました。昔、分子のイオンを捕まえて1分子の化学反応を見る実験が流行っていて、私が学生のころは下火になりつつも研究している人がいました。色々な試みの中から超音速分子線技術ができたのが私が小学生くらいの時ですね。これは細いノズルから高圧ガスと一緒に分子を噴出させることによって、断熱膨張による冷却で手軽に低温の分子が大量に得られます。ただし、一方向に1km/sなどの超音速で移動します。温度、はその速度の揺らぎで定義されます。
超音速分子線はパルスレーザーによる分光や、2つ以上のビームをぶつけて反応させる実験を行うのが容易で、今でも使われています。
ぺニングトラップ(磁場・不均一電場と高周波)や磁気ボトル(不均一磁場と高周波)は貯められる数が少ないですが、反物質の研究で使われているのですね。
ぺニング(Frans Michelle Penning 1894-1953)は、フィラメントのない真空計(ぺニングゲージ)や励起原子をぶつけてイオン化するぺニングイオン化法やぺニングトラップを発明した電場の魔術師です。
https://en.wikipedia.org/wiki/Frans_Michel_Penning
ぺニングトラップ愛好家の動画がありました。これは反物質ではありません。

似たものにパウルトラップ(Paul Trap)があり、これは四重極質量分析計を発明した高周波電場の魔術師(1913-1993)であるWalfgung Paulの発明です。Paulは1989年のノーベル物理学賞をもらっています。ぺニングも長生きしていればもらっていたでしょう。
磁気ボトルの動画がありました。無いのは暇な時に作ってみたいですね。

ぺニングトラップは最近ではイオンを狙った位置に置いて量子コンピュータを作る研究にも使われています。これにはレーザー冷却や光ピンセット作用も併用されていると思います。明後日解説したいと思います。

反陽子は、負に帯電した水素原子(化学ではヒドリドhydrideという)を高速でイリジウムのターゲットにぶつけて作るそうです。
https://alpha.web.cern.ch/science/antiproton-source
ここから、ぺニングトラップに導くまでに2回減速をしているそうなので、明日はそれを見てみましょう。

英語は 上記論文から。
daemon デーモン、悪魔
axial アキシアル 軸の、軸方向の
subsequent measurements サブ「スィ」ーケント 次に続く測定
histogram ヒストグラム 
can be clearly distinguished 明確に区別できる
rms width = root mean square width
detection threshold 検出閾値(しきいち、いきち)
perspective パース「ペ」クティヴ 展望

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