Hillbilly Elegy(9):イェール大学法科大学院に進学し、エリートの仲間入りをする

アメリカ大統領選は大接戦で蓋を開けてみるまでわからないようです。金曜日の読書”Hillbilly Elegy”の著者J.D.Vance氏は共和党の副大統領候補ですが、話がうまく、機を見るに敏で、どっちに転んでも将来の注目株だと思います。さて、本は第12章、オハイオ州立大学を卒業してからYale UniversityのLaw Schoolに進学します。イェール大学はivy leagueアイビーリーグに属する有名大学です。 https://en.wikipedia.org/wiki/Ivy_League Law Schoolは今では日本でも存在する「法科大学院」で、弁護士を…

マイクロRNAと疾病

マイクロRNAはあいまいさと複雑さをもったタンパク質合成の制御機構ですが、血流や組織液で運ばれ、細胞間のコミュニケーションにも使われます。ここが不調になる病気はいろいろあって、 わかりやすいのは細胞が暴走する がん です。血液や尿中での多種のマイクロRNAの濃度が異常になることが知られていて、診断に使おうとする会社もあります。 問題は、個人差や年齢による違いがあると考えられるので、統計的にパターンから異常を検出しないといけません。これはAIの応用先としてなじみがよいと思います。 https://www.ncc.go.jp/jp/information/event/50th_event/scie…

RNA干渉とsiRNAおよびmiRNA:あいまいさを許すことにより複雑さが飛躍的に増大する

今週の話は短いRNA分子によるタンパク質合成過程の制御に関するもので、「RNA干渉 RNAi」の一種です。RNA干渉を起こす短いRNAにはmiRNAのほかに、siRNAというのがあります。miRNAがmRNA(メッセンジャーRNA)の相補配列と完全には一致しないため結合の強さや相手に「あいまいさ」が存在するのに対し、siRNAは完全に相補的なため、特定のmRNAと一対一に対応し強く結合します。それを見つけた酵素によってRNA誘導サイレンシング複合体(RNA-induced silencing complex, RISC)が形成され、最後には切断・分解されてmRNAが失われます。一方、miRNA…

マイクロRNAの発見に至る経緯:実験系をうまく選ぶことは重要である

今週のmiRNAの発見者たちは一時期同じ研究室にいました。線虫を分子生物学の素材に使って成果を上げたProf. Robert Horvitzの研究室で、Horvitzは2002年にノーベル賞をもらっています。線虫は実体顕微鏡で取り扱いやすい大きさで、透明な生物ですぐ内部がわかるため、X線や薬品で突然変異を起こさせた後、それをピックアップして遺伝子解析をするのが楽、すぐ増えるので飼うのが簡単など、多くの利点があります(使い始めたのはHorvitzのボスのSydney Brenner, 兄弟弟子のJohn Sulstonと3人同時受賞)。我々でいうと物質は普通決まっているので、実験系を選ぶのが大切…

世界の研究所:マイクロRNAデータベース

ここ3年程、「今日の英語」でどこよりも速いノーベル賞解説を目指していましたが、今年は都合により遅くなりました。申し訳ありません。物理学賞と化学賞のAIの話は、私の大学院集中講義で話していますのでそれはまたの機会にして、今週は医学生理学賞のマイクロDNA(miRNA)の話を見ていきましょう。 データベースができていますね。英マンチェスター大学の研究室が運営しているようです。 https://www.mirbase.org/ 日本語解説としては https://www.cosmobio.co.jp/support/technology/a/microrna.asp https://ja.wikip…

Hillbilly Elegy(8):大学を2年弱で卒業

金曜日の読書”Hillbilly Elegy”は第11章、海兵隊を満期除隊してオハイオ州立大学を1年11か月で卒業します。海兵隊では、最終的には駐屯地の広報担当を任されました。これは著者の「コミュ力」が高いことを意味していると思います。少年期の苦労で空気を読み適切な応対をする能力が身についていたのでしょう。 本章を読むと米国の公立大学の制度の理解が進みました。 ・夏休みに講義を入れることで4年制の過程を2年未満で修了し、しかも「成績優秀」のお墨付きで卒業証書をもらっています。おそらく「優」や「秀」の数の基準をクリアしたのでしょう。日本では年間単位数の上限が決まっているた…

レーザー航跡場加速器を内視鏡に仕込む

レーザー航跡場加速器の発明者の最近の文章がありました(pdf注意)。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/pasj/19/4/19_190407/_pdf 留学前の学生時代に上野の不忍池に鴨が泳いでいるのをよく見かけていて、そこからの発想だそうです。 応用について述べられていますが、放射線治療に用いるのは有効だと思います。上の文章では内視鏡に仕込むことを考えています。もし実現すれば気軽に使えるようになるでしょう。また、体表からではなく患部に直接当てられるので、威力や位置精度(副作用の軽減)が増すでしょう。 ファイバーレーザーの改良で高強度パルスレーザーが小…

ponderomotive force

高強度のパルスレーザーについて調べていくと”ponderomotive force” という言葉が出てきます。 ポンデロ「モ」ゥティヴ という妙な発音の言葉です。語源は ponderが「重さ」、oがつなぎ、motiveが「動き」なので「重動力」と訳すようです。 意味は、強い振動電場があるとき、荷電粒子が電場の強いほうから弱いほうに向かう力を受ける、という効果です。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%AD%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%86%E3%82%A3%E…

レーザー航跡場加速器の発明

レーザープラズマ加速器を考案したのはポスドクだった日本人(田島俊樹教授)ととその指導教員(John M. Dawson教授)です(1979年)。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%BA%E3%83%9E%E5%8A%A0%E9%80%9F https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.43.267 偉大な発明だと思います。最初の論文はコンピュータシミュレーションでしたが、5年後に実証されました。 https://www.nature.com/arti…

世界の研究所:上海交通大学・李政道研究所

企業の競争の話が続いたので、今週は浮世離れした明るい話題ということでレーザーを使った加速器の話をしましょう。いくつか研究所がありますが、大規模な装置を持っている上海交通大学の李政道研究所(Tsung-Dao Lee Institute, TDLI)を見てみましょう。 https://tdli.sjtu.edu.cn/EN/about/overview 李政道博士は今年の8月に97才でなくなりましたが、E.Fermiの弟子、同門の楊振寧博士(101才で存命)とともに素粒子反応における弱い相互作用のパリティ対称性の破れを発見してノーベル物理学賞を若くしてもらっています(1957)。 TDLIは上海…