確認済みの超高圧における高温超伝導(203K)、送電線の損失、超伝導送電

昨年は室温超伝導の虚報が2回も大きなニュースとして報じられました。1986年の銅酸化物高温超電導体発見直後はいろいろ虚報があり、USO(unidentified superconducting object)という造語も定着しましたが、最近はしばらくなかったことです。 それだけ期待が大きいのと、H2S系での超高圧超伝導(Tc=203K。これは各地で追試が成功している)があるので、それほど荒唐無稽ではなくなったということもあるでしょう。 https://www.nature.com/articles/nature14964 https://www.sankei.com/article/20160…

超高圧室温超伝導の研究不正の経緯

昨日の室温超伝導の研究不正は https://www.nature.com/articles/d41586-024-00716-2 によると下記のような経過です。 ・4年前の論文では、学生たちが知らないデータが載った原稿が教員から朝早く送られ、その日のうちに投稿された。温度を下げると室温付近で抵抗がゼロになったデータについて学生から質問されると、「ロチェスター大学に赴任する前に測定した」と答えた。  マイスナー効果を示せ、というコメントが寄せられ、そのデータを追加した。  2年たって生データの数値が公開されたが、他の研究者からそのデータの縦軸が等間隔になっていることが指摘され、著者に照会があっ…

世界の研究所:室温超伝導の研究不正の舞台となったロチェスター大学機械工学科

昨年夏、室温超伝導のニュースがありましたが、いろいろな疑義により論文にならないまま否定されつつあります。その他にも高圧下での室温超伝導の報告が4年前と1年前になされ、私も授業の超伝導の回に紹介していましたが、論文は撤回されました。今月、本件は研究不正として雑誌の調査チームから詳細なレポートが出ました。 https://www.nature.com/articles/d41586-024-00716-2 舞台は米国のUniversity of Rochesterの機械工学科です。この大学は卒業生や教員からノーベル賞受賞者13人を出している東海岸の名門私立大学で、経済学(ノーベル賞3人)、レーザー…

氷はどうしてすべりやすいか

北国で摩擦といえば、凍結した地面での靴底やタイヤのスリップ防止です。氷がどうしてすべりやすいか、というのは現在でも研究が行われています。 関与する要因は3つと言われていて、(1)摩擦熱によって水が解けて潤滑する (2)圧力で水が解けて潤滑する (3)表面1nm程度は融点が下がっていて、もともと解けた特殊な水の層(premelting layer)がある です。圧力をかけると溶ける、というのは水の特殊性です。水分子は水素結合でお互い四面体的につながったネットワークをつくっています。H-O-HのOに水素結合で隣の分子のHが2つくっついています。四面体ネットワークは隙間が多いので、圧力をかけるとネッ…

超潤滑

現代ではナノスケールで物質を制御することができるようになったので、摩擦についても面白いことが実現するようになっています。 昨日のAmonton-Coulombの法則の原因は、2つの物質が接触するときに摩擦は起こり、拡大して見ると凸凹の表面の山同士が擦りあうときにくっついて引きはがすときに力が必要なのが摩擦力の源泉であるということでした。 完全に平らな表面が2つ接触したとして、その間に働く力は何でしょうか?ファンデルワールス力、クーロン力、金属結合力、共有結合力などいろいろありますが、平行に動かすときに働く力はクーロン力と共有結合力が大きいです。それ以外は、平行に動いてもエネルギーがほとんど変わ…

世界の研究所 機械系の学会IMechE, IOM3 とトライボロジー

トライボロジーという学問体系があります。摩擦や潤滑を扱う学問で、実用上たいへん重要です。今週末、一般向けの講義をしないといけないので例によって付け焼刃の勉強をしています。摩擦において、分子原子レベルで何が起こるのか、例えば高分子なら分子がちぎれるのか、潤滑剤がダメになるときは何が起こるのか、マッチを擦って火がつくのは摩擦熱の効果だけか、など化学的にも面白い話題がありそうです。 わかりやすい歴史のまとめを見つけました。 https://www.machinerylubrication.com/Read/32382/comprehensive-exploration-of-tribology この…

硫黄酸化還元酵素(SOR)は中空の球体

硫黄を酸化還元する酵素 SOR(sulfur oxygenase reductase)は面白い形をしています。 https://www.rcsb.org/structure/7X9W 中空の球体です。こんなのが指先の操作で見えるのですから、いい時代です。4回対称性と3回対称性があって、出口のようなものがいくつか開いています。きれいです。 https://www.rcsb.org/3d-view/7X9W/1 使っている金属イオンは Fe3+のようです。 https://www.rcsb.org/3d-view/7X9W?preset=ligandInteraction&label_as…

硫黄細菌のエネルギー源

硫黄細菌は、硫黄や硫化水素を酸化して硫酸などにする際にエネルギーを得る細菌で、土壌中、海水中、下水溝などにいるそうです。 H2O +1/2O2 -> H2O + S ΔH= -176kJ/mol 4つの属があり、一部はCO2の還元にそのエネルギーを使っているそうです。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A1%AB%E9%BB%84%E7%B4%B0%E8%8F%8C 逆に、有機物を酸化しつつ硫酸を還元するsulfur-reducing bacteriaもいるようです。 https://en.wikipedia.org/wiki/Sulfur-reduci…

世界の研究所:東北大学・加齢科学研究所とスーパスルフィド

今週は、予告通り硫黄細菌を調べていこうと思います。検索で引っかかって面白かったのは人間を含む生体内に存在する、硫黄が数珠つなぎになった「スーパスルフィド」で、2021年に学会誌の特集号が組まれていてタダで読めます。 https://seikagaku.jbsoc.or.jp/index.html?vol=93&no=5 この特集号は読みごたえがあります。 -S-..-S-S-を含むタンパク質や小分子は2014年に生体内で広範に使われていることがわかったそうで、大発見ですね。この発見は東北大学・加齢科学研究所その他日本国内で行われたようです。先週東北大に出張していたこともあり、今週の研究…

C1 化学と不均一系触媒

今週はC1 chemistryについて普通でない切り口から解説していますが、オーソドックスなCOを使った反応は膨大な量の研究があります。 溶液中の錯体で配位子を精密に作りこむ均一系触媒もいろいろありますが、金属や金属酸化物のナノ粒子、他の物質(担体という)表面に触媒となる数原子が載った不均一系触媒の研究が多いです。これは高温高圧で使えるので、気体を原料とした大量合成に向いています。 不均一系触媒は、昨日の話にもあったように、最近は量子化学計算の精度が上がったことと、電子顕微鏡で原子が見えるようになったことから進展著しい分野です。 私は化学者としては酸素以外の16族(S,Se,Te)に愛着がある…