世界の研究所:韓国 Institute of Basic Sciences (IBS)

今週の世界の研究所は、韓国Ulsan(蔚山)のInstitute of Basic Science(IBS)をとりあげます。先週のNatureにここの論文が出ていました。1025℃にしたGa-Fe-Co-Si合金にメタンを吹き付けたらダイヤモンドができたとのこと。 液体基板を用いたCVDで、相図で安定なグラファイトでなくてダイヤモンドができたのは確かに新しい発見です。今週と来週ははダイヤモンドの合成について解説してみましょう。 IBSは2011年設立のようです。在籍研究者は600人強です。蔚山は、韓国の南東、釜山の少し北にあり、現代自動車をはじめとする現代財閥(Hyundai)の企業城下町とい…

分子動力学における温度の設定

分子動力学の醍醐味は、「温度」を設定できることです。温度は、各粒子のエネルギーの揺らぎの幅と考えていいと思います。温度を扱う体系は「熱力学」とか「統計力学」と呼ばれていて、「熱力学」は確立された古い学問だと思われていましたが、確率に関することも密接にかかわってくるので、最近のコンピュータの発達に伴う情報の予測などでアナロジーの元となってまた面白くなっています。 これらを学ぶには、分子動力学シミュレーションをやりながら教わるとわかりやすいと思います(もちろん、学生側が分子に関心がなければついてこないでしょう)。なかなかその講義をする機会はないですが、1学期16回分を組み立てるのは面白そうです。 …

ReaxFFによるシミュレーション結果

昨日は午後数時間をかけてReaxFFでやりたかったことができるようになりました。化学式MoS2の層状構造をもった無機物のReaxFFパラメータが論文で公開されていたのを解読して314個のパラメータを取り込ませて分子動力学エンジンLammpsで計算できます。これでいろいろ実験結果の理解が深まります。 例えば、この物質を閉鎖空間で強熱すると融解すると思われますが、第一原理計算では計算時間がかかりすぎて再現が難しいです。動画にしたのが下記です。これでいろいろモデルを設計できるようになります。 https://youtu.be/_D32aIu8oW4 パラメータの記述の形式がわからずエラーを多発しまし…

分子運動のシミュレーション

分子動力学計算をすると例えば下記のような動画が得られます。これは私が計算した有機分子(フタロシアニン)の蒸着過程です。これは12コアの計算機で数時間で終わりました。 https://www.youtube.com/watch?v=87oRvq8zmUA 原子がピョコピョコ動いているのが分子振動で、10^-12秒(1ps)の桁の時間です。 分子をバネと質点であらわすのが古典分子動力学で、上の動画はそれです。粗い近似で、化学結合の組み換えは扱えません。 例えば、CO2が水に溶けて炭酸水になる過程などの計算はできません。 一方、量子力学を使って分子の電子状態をちゃんと考えてから復元力を求めて行うこと…

世界の研究所: Penn State Materials Research Institute と ReaxFF

今週の世界の研究所は The Pennsylvania State University (PennState) の Materials Research Institute を取り上げます。Penn Stateは、昔から材料科学に強く、特に強誘電体の研究では世界的な研究者がたくさんいました。 https://www.mri.psu.edu/mri/facilities-and-centers 現在は2次元物質、強誘電メモリ、誘電体及び強誘電体、環境発電、原子層コーティング、電池及びエネルギー貯蔵デバイス、放射能、バイオデバイス、計算科学、自己組織化有機エレクトロニクス、半導体加工ハブ、社会実…

高温ガス炉の核燃料は芥子粒くらいのウラン化合物をセラミックコートしたもの

高温ガス炉の特色は、核燃料がセラミックコートされたサブmm程度の微粒子の集合体でできていることです。大きな利点は、核分裂生成物が微粒子の外に出ていかないので安全性が高いこと(これは昨日の「塵」の問題で本当かどうかわかりませんが)、 核燃料の密度をコントロールするのが容易なため、大きさや出力に合わせて燃料を作りやすいこと、核反応を多く起こせること(大きい燃料体は核反応が進むとボロボロになると考えられますが、小さい粒子ならば変形が容易)、などがあげられると思います。日本の大洗に作っている高温ガス炉はpebble bed式でなく、棒状に固めてある(prism block)そうなので、摩擦による発塵は…

ヨウ素-硫黄サイクルによる水分解で熱エネルギーから水素を作る

高温ガス炉では950℃のヘリウムを作ります。熱の発生の原理は単純で、臨界状態の放射性物質の核反応による発熱です。ウラン235など一部の放射性物質は、原子核分裂を起こすときに高速の中性子を出します。高速中性子はウラン235との反応性が低いですが、減速材で速度を落としてあげると別のウラン235にぶつかったときに核分裂を引き起こします。これが連鎖反応です。連鎖反応が過激に起こると原子爆弾になってしまいますが、ウラン238等核反応しない物質で適度に薄めた核燃料では制御された発熱ができます。 中性子の減速と遮蔽が制御には重要で、中性子を吸収する物質(ホウ素、カドミウム等の化合物)でできた制御棒を入れて中…

世界の研究所:日本原子力研究開発機構の高温工学試験研究炉(JAEA-HTTR)

今週の世界の研究所は、日本原子力研究開発機構(JAEA)の高温工学試験研究炉(High Temperature engineering Test Reactor)を取り上げます。 3月28日に冷却停止時の安全性確認試験をして、実証されたというニュースがありました。 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02298/032900009/ セラミックスで覆われた粒状の特殊な核燃料を使うことにより冷却が行われなくても安全性を確保しているそうです。熱媒体は950℃まで加熱されるヘリウムガスです。この熱を使って水素を作るそうですが、どうやるのでしょうか。…

カカオは土壌から重金属を吸い上げる

カカオの木は土壌から重金属を吸い上げる性質があるようです。カカオ中のNiやCdは中南米など場所によっては問題になっているようですが、販売されているものは当然基準をクリアしているので大丈夫のはずです。 https://www.frontiersin.org/journals/plant-science/articles/10.3389/fpls.2022.1055912/full ガーナでは金の違法採掘による土壌汚染で生態系に影響がありカカオの授粉に影響が出ているようです。まさか昔のように水銀を使っているとは思わないですが… https://www.intechopen.com/chapters…

臨界磁場、コヒーレント長、磁場侵入長

室温超伝導ができたら、超伝導電磁石に使えるかもしれません。精密検査で体の中を見るMRI(磁気共鳴イメージング)や分子の構造を解析するNMR(核磁気共鳴)などで強力な電磁石(>10T、Tは磁場の単位テスラ)が必要です。超伝導でない電線で電磁石を作ると、鉄芯の磁化が約2Tで飽和してしまうために、鉄芯を使って磁力を稼ぐことができません。 すなわち、コイルだけの空芯電磁石になりますが、大電流が必要で、電気抵抗による発熱のため冷却が大掛かりになってしまいます。電流をパルス的に与えるか、超伝導線でコイルを作るかということになります。パルス磁場ではMRIは行えないので、液体ヘリウムで冷却した超伝導体が…