分子動力学における温度の設定

分子動力学の醍醐味は、「温度」を設定できることです。温度は、各粒子のエネルギーの揺らぎの幅と考えていいと思います。温度を扱う体系は「熱力学」とか「統計力学」と呼ばれていて、「熱力学」は確立された古い学問だと思われていましたが、確率に関することも密接にかかわってくるので、最近のコンピュータの発達に伴う情報の予測などでアナロジーの元となってまた面白くなっています。
これらを学ぶには、分子動力学シミュレーションをやりながら教わるとわかりやすいと思います(もちろん、学生側が分子に関心がなければついてこないでしょう)。なかなかその講義をする機会はないですが、1学期16回分を組み立てるのは面白そうです。
教科書としては、特に大きな高分子(タンパク質など)のシミュレーションは深くて面白い議論が可能な題材で、下記の本などはおすすめです。

計算機のプログラムで温度を制御するには、室温付近で温度を反映した広い分布を持っている粒子の運動エネルギーを制御する方法が簡単です。
例えば、運動エネルギーの平均値を設定温度に対応する値に合わせるためにすべての粒子の速度を何倍かする方法(Berensen Thermostat)が考えられます。下記では「速度の縮尺」と言っています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%BC%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%A2%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%83%E3%83%88
しかし、これはエネルギーやその揺らぎが各自由度に正しく分配されないという問題点があり、内部自由度が低温となった物体が高速で飛行する「空飛ぶ氷効果」という面白い名前がついています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%96%E5%8A%B9%E6%9E%9C
運動エネルギーだけではなく全体を原理的に正しく扱う方法が1984-85に解析力学を使って導かれており、Lammpsではデフォルトになっています。私が大学生だったのはそのしばらく後に広まってきたころで、学会で聞いてきた先生が大発見(発明?)があったと熱力学の講義で言っていました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%83%BD%E5%8B%A2%EF%BC%9D%E3%83%95%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%A2%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%83%E3%83%88
そのほかにも、揺らぎを正規分布した乱数として運動方程式に取り入れて計算する方法 ランジュバン動力学 も使われています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%90%E3%83%B3%E5%8B%95%E5%8A%9B%E5%AD%A6
これは、確率過程(数理経済学や最近のデータ科学(推論)で多用される)と密接なつながりがあり、機械学習など思いもよらないところに登場することがあります。

英語は、上記から単語を拾ってみます。
醍醐味 辞書ではepitomeが出ましたが、あまり見ません。 a real thrill of , a really nice thing about くらいでしょうか。
epitome エ「ピ」トーム 典型例、極致 level 11 She looked the epitome of elegance. 彼女は優雅さの極致である。
サーモスタット(定温制御装置) thermostat
ゆらぎ fluctuation
熱力学 thermodynamics
統計力学 statistical mechanics ※ これは直訳ですね。
解析力学 analytical mechanics
自由度 degree of freedom ※ これも直訳ですね。英語で覚えるといいと思います。
分配する distribute
空飛ぶ氷効果 flying ice cube effect
デフォルト default
大発見 a great discovery
大発明 a great invention
乱数 randomness, random number
運動方程式 an equation of motion
ランジュバン動力学  Langevin dynamics
確率過程 stochastic process スト「カ」スティック 語源はギリシャ語の「狙う aim at」だそうです。この分野ではよく出てくる単語なので覚えるといいでしょう。
推論 口語は guess でも通じると思いますが、「あてっぽこ」のニュアンスもあります。 inference 「イ」ンフェレンス をよく使います。 level 8
ベイズ推論 Bayes inference
数理経済学 mathematical economics

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