世界の研究所: Penn State Materials Research Institute と ReaxFF

今週の世界の研究所は The Pennsylvania State University (PennState) の Materials Research Institute を取り上げます。Penn Stateは、昔から材料科学に強く、特に強誘電体の研究では世界的な研究者がたくさんいました。
https://www.mri.psu.edu/mri/facilities-and-centers
現在は2次元物質、強誘電メモリ、誘電体及び強誘電体、環境発電、原子層コーティング、電池及びエネルギー貯蔵デバイス、放射能、バイオデバイス、計算科学、自己組織化有機エレクトロニクス、半導体加工ハブ、社会実装と起業などの16個のセンターを持っています。
現在注目されていてしかも面白い題材を取り上げていて、なかなか魅力的な組織形態と言えるでしょう。日本だと東北大金属材料研究所(金研)や東工大フロンティア材料研究所(旧・応セラ研)等に似ています。それぞれのセンターの中身は長期計画で折に触れて見ていくことにして、今週は計算科学センターを取り上げたいと思います。webページはほとんどなにも載っていません。
https://www.mri.psu.edu/materials-computation-center
ここは、分子動力学で化学反応を扱う ReaxFF (reaction + force field) を開発しています。私の理解では、最近日本で開発された機械学習を使った高速計算Matrantisなどの人力版で、特定の物質に特化した高速計算ができます。
https://en.wikipedia.org/wiki/ReaxFF
カリフォルニア工科大学のProf. W.A. Goddard IIIと Dr. A. van Duin(現在PennStateで上記計算科学センター長)が2001年に最初の論文を出しました。分子動力学は原子を質点(おもり)、化学結合をバネ(3原子の角度変化や4原子がかかわる1本の結合のひねりなども含む)としてパラメータ化するものですが、化学結合が組替わる場合は扱うことができませんでした。原子間が何重結合になっているかということをエネルギーと距離から判定してそれぞれの結合次数(0も含む)に対応するパラメータを用意することで近似的に化学結合の組み替え(=化学反応)を扱います。
第一原理計算に比べると100倍速いと言われています。いま、自分の研究で無機物を原子レベルで変形させる計算を行いたいので、試行錯誤している中の一つとしてReaxFFを少し扱えるようになりました。今週は、このあたりに関する重要な概念について解説したいと思います。

英語は、https://en.wikipedia.org/wiki/CHIPS_and_Science_Act から。
CHIPS and Science Act “チップス法” と言われている、2022年8月に制定された米国の法律で、米国内の半導体産業の振興が目的です。PennStateのMaterials Research Instituteもこの予算を使っていると思われます。
CHIPS = “Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors”
“The act authorizes roughly $280 billion in new funding to boost domestic research and manufacturing of semiconductors in the United States, for which it appropriates $52.7 billion.”
boost 加速する、ブーストする
domestic ド「メ」スティック 国内の
appropriate (動詞)資源を~に割り当てる、充当する (形容詞)適切な、ふさわしい level 3 ※動詞も覚えてください。
$280 billion = 43 兆円、$52.7 billion = 8兆円です。8兆円が直接の予算で、残りは投資(企業が出すのか、税金優遇や貸付などの間接的な補助金なのか?)とのことです。
これに比べると日本は少ないです(先日、一企業に5900億円というニュースがありました)。大学の研究や教育にどのくらい出るかはあまり期待できませんが、知恵と工夫で頑張りましょう。が、米国との対立では過去何度も痛い目にあっているので、根性論で張り合わないほうがいいと思います。
subsidies for chip manufacturing on U.S. soil 米国本土での半導体製造に対する補助金  subsidy 国の補助金、助成金 level 7
“…upon completion in the operational/manufacturing stage, where 40% of the permanent new workers will need two-year technician degrees and 60% will need four-year engineering degrees or higher.”
 実際の運用/製造段階が完成した暁には常勤の新労働力は40%が2年の技術系の学位(専門学校)、60%が4年(大学)もしくはそれ以上の工学系の学位を必要とする。
bipartisan バイ「パー」ティザン 二大政党が提携した level 12
“The U.S. Department of Commerce was granted the power to allocate funds based on companies’ willingness to sustain research, build facilities, and train new workers.”
Department of Commerce 「コ」マース 商務省
be granted the power to ~する権限を与えられた
willingness 喜んでする意思
sustain 保持する
build facilities 設備を建設する
“$200 million would go to the National Science Foundation to resolve short-term labor supply issues”
short-term 短期的な
labor supply issues 労働力提供の問題
※300億円が短期的な半導体教育予算として支給されるということですね。。。 我々は徒手空拳と言っていいですが、金をかけるだけが教育のやり方ではありません。

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