加速器でガンマ線を作るしくみ

CyberKnifeはロボットアームに平行度の高い強力X線発生装置を取り付けるのが新しい着想でした。線形加速器(linac)を使っているとのことですが、詳細な文献が見つかりません。Accuray社の特許は見つけました。ロボットアームにつけるものではないですが、加速器の使い方が書いてあります。 https://patentimages.storage.googleapis.com/71/f9/e7/f7d0b0481bb818/WO2010019311A2.pdf 1MV~9MVというかなり高エネルギーの電子を作ってタングステンなどの重元素のターゲットにぶつけるようです。タングステンターゲットに…

世界の研究所:米国スタンフォード大発のベンチャーAccuray社

今週は、先週紹介したガンマナイフの最新版を調べていて見つけた、米国スタンフォード大学発のベンチャーAccuray社をとりあげます。1990年創業で”CyberKnife”という医療機器を作っていて、日本にも数十台入っています。成功したベンチャーと言えると思います。日本法人もありますね。創業者は附属病院の脳外科医です。スタンフォード大学は加速器や放射光施設も持っているので、専門家が多く立ち上げやすかったのだと思います。体の内部の任意形状の3次元組織を外から壊せるというのは素晴らしい技術です。 https://www.youtube.com/watch?v=mcC0_azJ…

61番元素Pmの錯体が今年初めて作られていました。追加で60Coとガンマナイフの話。

ベータ崩壊を電力に変えるbetavoltaicに使われる同位体に147Pmがあります。Pmはプロメチウムで、安定同位体がない元素です。147Pmの半減期は2.6年で、あまり長くありません。寿命が短いと原子数当たりの崩壊速度が速く(毎秒の崩壊数であるベクレル(Bq)が大きい)、量が少なくて動作するので超小型化に向いています。しかし短寿命なら化学電池で十分ですね。いろいろ調べていたら、今年になってプロメチウムの錯体が初めて作られたという論文がNatureに出ていました。これは無料で読めます。米国Oak Ridge National Laboratoryの研究です。 https://www.natu…

ベータ線を電力に変えるしくみ

17keVのβ線を電力に変えるにはどうするのでしょうか?太陽電池と似た機構を使います。半導体に高エネルギー粒子が当たると化学結合を作っている価電子が多数弾き飛ばされ、最終的には電子・正孔対が多数生じます。ただの半導体だと、電子と正孔が再結合して光や熱を出して終わりですが、半導体にpn接合などが作ってあって内部電界が存在すると電子と正孔が反対方向に進み分離されます。そこに金属電極を付けておけば、電子と正孔が電極に現れ、起電力が生じ、負荷回路がつながっていれば電流が流れます。起電力の最大値は半導体のバンドギャップになります。太陽電池のような可視光の場合は光子1個に対して電子正孔対は1対(紫外線をナ…

63Niを使った原子力電池

昨日の記事で「眉唾」と書いてあった63Ni原子力電池についてみてみましょう。63Niは62Ni(安定同位体)に中性子を照射するとできるそうです。β崩壊で電子を出して63Cu(安定同位体、天然の銅の60%を占める)に変わるので、壊変後は安定です。ベータ線(電子)のエネルギーも平均17keV、最高66keVなので低エネルギーの部類に入ります。反射高速電子線回折(RHEED)のエネルギーが20keVなので、それを超小型(物質のみ)で作れるのは魅力的で、ガスクロマトグラフィ、帯電防止装置、遮蔽能力を測定する厚さ計などに使われています。密封線源の場合は管理が緩いですが、紛失すると届け出が必要です。壊れて…

世界の研究所: 英国 Cabot Institute for the Environment @ Univ. Bristol

先週は原子力電池に関するニュースをいくつか見ました。1つは英国University of BristolのCabot Institute for the Environment による14Cダイヤモンド電池、もう一つは中国の会社(Betavolt社)の63Ni電池です。後者は今年はじめの発表のようで、14Cの記事をみたら勝手に「おすすめ」されたのではないかと思います。 https://www.bristol.ac.uk/cabot/what-we-do/diamond-batteries/ https://insideevs.com/news/704871/china-betavolt-ato…

GPSの話題3つ 相対論補正、4つの衛星のメッセージを同時に聞く方法、位相検波のハードウェア

GPSの話題であと3つ話したいことがあります。 (1) 相対論補正:原子時計は簡単なものでも10^-11の精度があります。測位衛星は2万キロの上空(cf. 地球の半径は3000キロ)を飛んでいるので、第一宇宙速度8km/sよりはだいぶおそく3.9km/sだそうです。それでも原子時計の精度では遅れが生じ、下記記事によると1日あたり7μ秒遅れるそうです。相対論補正は1-√(1-(v/c)^2)で、v=3.9km/s, c=3x10^5km/sとすると8.45x10^-11の割合で、1日86400sをかけると7x10^-6sとなるのであっていますね。この遅れは補正しているそうです。 https://…

いつも数十個の測位衛星が上空を飛んでいる

GPSを補完し精度をあげるための衛星(測位衛星)をみるシステムを「みちびき」がつくっています。常時数十個の衛星がいることに驚きます。日本上空は多いのですが、アフリカや南米でも相当な数が飛んでいます。 https://app.qzss.go.jp/GNSSView/gnssview.html 衛星の位置は地上の監視局というのが測っているようです。日本はつくばにGEONET中央局というのがあるようです。管轄は国土地理院、なるほどと思いました。 https://www.gsi.go.jp/denshi/denshi_38136.html cmまで精度をあげるための仕組みも作られ運用されています。pp…

なぜGPSには4つの衛星の信号が必要か

GPS衛星は1.57542GHz,1.22760GHz,1.17645GHzで同じ内容を発信しているようです。4つの衛星の信号を携帯電話やカーナビが受信して10cmの精度で位置がわかるということから、仕組みを考えてみましょう。衛星が発信している情報は、自分(衛星)の3次元座標、現在時刻でしょうか。受信機と衛星の距離によって受信する現在時刻の数値が違うはずです。距離をコンパスのように3つ使えば受信機の位置を3次元で特定できますね。ただし、受信側が正確な時計を持っていないと距離の差3つしかわからないので、4個目の衛星が必要です。つまり、未知数として受信機の座標(x,y,z)と現在時刻(t)の4つを…

世界の研究所: 準天頂衛星「みちびき」

今週の世界の研究所は、準天頂衛星「みちびき」をとりあげます。これは内閣府のwebに一般向けの説明があります。 https://qzss.go.jp/ GPS (global positioning system)は専用の人工衛星4つ以上からの信号を集めてその時間差から自分の位置を割り出す仕組みです。 もともと米軍の衛星の信号を使っていましたが、米軍の衛星からは精度を隠すため100mくらいの誤差を含んだ信号が発信されていて、初期のカーナビの表示は道路を走っていたのに急に川の中に移動したりして面白かった記憶があります。それでは困るので、米軍のほかに各国がGPS用の衛星群を打ち上げています。日本では…