世界の研究所:Univ. of Maryland, Institute for Research in Electronics and Applied Physics (IREAP)

先週、CO2レーザーによって放射性物質を遠隔検出する技術についての論文が業界のニュースになりました。 https://physicsworld.com/a/co2-laser-enables-long-range-detection-of-radioactive-material/ 米国 Univ. of Maryland のInstitute for Research in Electronics and Applied Physics (IREAP)と核を扱う米国の国立研究所(Los Alamos, Brookheaven, Lawrence Livermore)の共同研究です。 http…

掛谷の針集合のハウスドルフ次元=3

3次元空間の掛谷の針集合のハウスドルフ次元が3であることを証明したという話題の論文をざっと見ましょう。 https://arxiv.org/pdf/2502.17655 私は本格的な数学の論文を読むのはほぼ初めてですが、面白い構成だと思いました。歴史的経緯や論文の目的を書いたintroductionの次に、以後の説明のための重要な用語の定義が書いてあって、それから証明の考え方(philosophy)、証明の概略、謝辞、証明本文、文献となっています。証明の概略までで10ぺージ余、証明本文が110ページ余、文献は31個しかなくて1ページで127ページです。3次元空間を扱っているためか、イメージを喚…

ルベーグ測度

私が大学1年生の時の数学の勉強はうんうん唸りながら教科書(「解析概論」など)を読んでいました。難しい本(「関数論」)は数人で輪講したり、時には予備校の先生がボランティア(少し払った気がしますが、格安)でチューターになってくれたりもしました。場所は喫茶店で、先生は確かクラスメートの高校の先輩だったと思います。地方から東京に出たばかりの学生としては、お江戸には信じられないような恵まれた環境があるものだなと驚いたことを覚えています。今はテレビ会議でいろいろできるので、空間を超えた寺子屋のようなものが作れると面白いですね。今回インターネットで検索していて数学の勉強の仕方もずっと効率的になっているのを痛…

ハウスドルフ次元

今回解決されたと言われている問題は、「掛谷予想の3次元版、すなわち、「n次元における掛谷の針集合のハウスドルフ次元がnである」という予想が、n=3のとき正しい」です。掛谷の針集合は昨日説明しました。針(線分)を自由に回転できるために必要な領域のことです。針を回転しようとしている次元が平面の場合n=2, 3次元空間の場合n=3です。昨日は、掛谷の針集合の面積が任意の正の値よりも小さい(通常の意味ではゼロですが、ゼロとは違うと言いたいようです)ことを述べました。掛谷予想は2次元の時はすでに証明されていて、今回はn=3が解決されたというニュースです。さて、ハウスドルフ次元というのが曲者です。 htt…

トランズモンの実装

超伝導量子ビット「トランズモン」は、超伝導体のコイルとコンデンサがループ状につながったもの、昔の名前で「タンク共振回路」です。いまはLC共振回路というそうです。昔の名前は、液体の入れ物(tank)にホースをつないだものからの連想で、その方が味があると思うのですが・・・。 https://ja.wikipedia.org/wiki/LC%E5%9B%9E%E8%B7%AF googleの量子コンピュータのqubitの共振周波数は5GHz程度だそうです。超伝導は抵抗ゼロで電流を運べるので、一度励振すると損失無く振動するはずですが、いろいろな損失があり、振動は100μs程度で減衰するそうです(縦緩和…

トランズモン

超伝導量子ビットのうちGoogle、IBM、理研などが注力しているのは「トランズモン」方式です。解説のweb siteがあります。誤植やリンク切れがありますが、わかりやすい良いサイトだと思います。 https://qualsimu.com/textbook/notebooks/section2/0_1_representation/Transmon.html 超伝導のコイルとコンデンサでLC共振器を作ると、超伝導のクーパー対の波動関数は長時間維持されるので共振器の電気的振動を量子ビットとして使うことができます。 ジョセフソン素子を使っていますが、それは共振器に非線形性を与えてエネルギー準位(共…

超伝導量子ビットの方式

超伝導量子ビットの方式は2つに収斂しています。「トランズモン(transmon)」と「磁束量子ビット(fluxonium)」です。説明は基礎知識が必要なので難しいですが、やってみましょう。わかりやすくする努力をした専門家による解説記事がいくつかあります。 Googleや理研が手掛けているトランズモンは https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe/85/12/85_1048/_pdf https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu/90/4/90_209/_pdf Dwave社が手掛けている磁束量子ビットにつなが…

世界の研究所:理化学研究所(理研)量子コンピューター研究センター

今週は量子コンピュータの話をしましょう。研究機関はたくさんありますが、理化学研究所(理研)に量子コンピューター研究センターというのがあり、色々な方式の研究をしています。今回は主に超伝導を使った方式を解説します。 https://www.riken.jp/research/labs/rqc/ 理研には私が学生のころ(3-40年前)には超伝導パラメトロンの研究室があり、超伝導量子コンピュータにつながる技術がありました。 https://www.riken.jp/press/2014/20140725_1/index.html https://www.riken.jp/pr/historia/com…

CAR-T細胞療法が効かない場合

T細胞の攻撃対象である抗原対応性を外から編集したCAR-T細胞療法は万能なわけではなく、効かない場合もあります。よくまとまった下記の論文を見つけました。 https://jhoonline.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13045-021-01209-9 一つは、CAR-T細胞が標的とするMHC-Iを隠している(抗原消失)がん細胞があると対応できません。これは胎児がごく小さいときに母親の免疫系に攻撃されないようにMHC-Iを隠す方法が遺伝子に組み込まれているためのようです。がん細胞はいろいろな変異をおこして免疫系をかいくぐったものが生き残るので、MHC…

CAR-T細胞療法

CAR-T細胞療法は現在第3世代のようです。 https://www.cancer.gov/about-cancer/treatment/research/car-t-cells がん細胞の表面にある情報伝達部位(←これが何なのかは明日説明します)に結合する抗体医薬品は分子標的薬として実用化されていますが、高価なモノクローナル抗体を何回も投与しないといけません。患者自身のキラーT細胞にがん細胞を認識する抗体をくっつけてしまえばたくさん攻撃できるだろう、というのが基本です。キラーT細胞は適切な信号をもらうと攻撃モードになります。上記記事にあるように、CAR-T細胞はがん細胞の表面を認識する抗体と…