D-waveは配線の問題をどう解決しているか

脳のニューロン(神経細胞)には1000本の入力端子(シナプス)があり、本体に入って重みづけ和ののち非線形演算を行って1つの出力を出すという構造になっています。1000本の入力端子それぞれが他のニューロンの出力につながってその出力(電圧パルスの頻度)を受け取り、また演算して、という過程が1000億のニューロンにわたって行われるわけです。この構造を電子回路で作ろうとすると配線であふれかえってしまいます。 私が講義で見せている昔のスーパーコンピュータのようになります。下記の図で青いのが配線で、圧倒的な体積を占めています。修理のときはこれを解きほぐす必要があるので大変だったでしょう。 https://…

低温メカの天国

D-Waveのハードウェアについても動画があります。本社内のデモ機の中身が見えます。低温メカ好きには天国のような研究所です。ビジネスとして動かせているのがうらやましいです。 https://www.youtube.com/watch?v=Lb1nE_5pZvs 15mKで動作するので、5K,1K,100mKのシールドステージがあり段階的に室温からの輻射熱を除去しています。ランニングコストを下げるため、気化したヘリウムの再凝縮機もあるでしょう。チップがコネクタも入れると手のひらサイズで思ったより大きくて驚きました。クライオスタット(低温環境の領域)もかなり大きいです。超伝導の輪に一部弱いところを…

量子やきなまし法

D-wave社のquantum annealing (量子焼きなまし法)については同社がいろいろな解説文やyoutubeを出しています。わかりやすいです。量子力学の教材としても良いと思います。 https://www.youtube.com/watch?v=zvfkXjzzYOo https://www.youtube.com/watch?v=UV_RlCAc5Zs https://www.youtube.com/watch?v=tnikftltqE0 https://www.youtube.com/watch?v=kq9VqR0ZGNc https://dwavejapan.com/app/…

世界の研究所: D-wave Quantum 社

先週は組み合わせ最適化問題を含むOperations Researchについて解説しました。ハードウェアとしては通常のシリコンでできたコンピュータで十分なのですが、より速く、より省電力を目指した専用ハードウェアも開発されています。その中で、超伝導回路の量子状態を使った専用機を1990年代から開発しているD-Wave Quantum社を紹介しましょう。 https://www.dwavequantum.com/ https://www.youtube.com/watch?v=2eFzNzfHXfM この会社は2022年に上場しましたが、一時上場廃止の警告をうけるほど株価が低迷していました($1未…

ゴリラガラス

シリコン+アルカリ(+ホウ素)の酸化物ガラスの破壊は日常体験するところですが、原子レベルの過程についてはあまり報告例がなく、研究は現在進行中のようです。下記2022年の論文のほか2025年のフランスの博士論文がある程度です。 https://arxiv.org/abs/2205.02461 試料づくりが難しい、絶縁物なのでチャージアップ(帯電)して電子顕微鏡が使いにくい、アモルファスなので原子配列の観察が難しいなど、実験には困難がいろいろ考えられます。X線顕微鏡の分解能がもうすこし上がれば研究対象になると思います。X線でも収束ビームをあてるとチャージアップは起こると思いますが電子線よりは影響は…

ナノ・インデンター

試料が大きくても小さくても、応力が小さいときは応力とひずみは比例関係にあり、これは弾性領域(elastic region)です。それを超えると応力がそれほど増えていないのにずるずる変位する領域があり、塑性領域(plastic region)です。その先に降伏(yield)、破壊(breaking)が起ります。下記の動画ではグラフが2段階に波打っている現象を説明しています。実際に使うときは弾性領域ですが、絞り加工などは塑性領域なので、その後の機械特性が悪くならないようにいろいろ研究しなければならないのでしょう。 https://www.youtube.com/watch?v=zAbxJ33qT-…

透過電子顕微鏡中での破壊観察

材料が力学的に破壊されるときに原子レベルで何が起こっているか、については透過電子顕微鏡(TEM)の試料をピエゾ素子を使って動かして破壊を起こしながら観察するという手法が1990年代から行われています。動画がなかなかないのですが、下記の論文に水素脆化した鉄の破壊の様子がMovie 1,2として載っています。今年発表されたマックスプランク鉄研究所と九州大学の共同研究です。おそらくタダで読めると思います。 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1748013225001100 TEMの試料は厚さ100Å程度に薄く加工しなければならないの…

世界の研究所:Max Plank Institute of Sustainable Materials, renamed from “Iron Research”

いま二次元物質の劈開のシミュレーションをやっています。物質の破断の原子レベルの過程の一種なので、関連してどのような研究が行われているか調べてみました。 ChatGPTに聞くと、一番有名な研究機関は デュッセルドルフのMax Plank Institute of Iron Researchとのことでしたが、この研究所は2024年の8月27日からMax Plank Institute for Sustainable Materials と改名されました(日本なら新年度に変えると思いますが、奇妙な日付ですね)。計算、界面化学、合金設計、微細構造力学の4部門があります。 https://www.mpi…

有限要素法、発散定理(ガウスの定理)、グリーンの定理、ストークスの定理、プラニメータ

有限要素法の具体的な計算方法を見てみましょう。物理法則は通常、短く記述できるため微分方程式で与えられています。流体に関するものはエネルギーの保存則と物質の保存則になります。まとめたのがナビエ・ストークス方程式ですが、ややこしくなるので、保存則から出てくる熱や物質の拡散を表す拡散方程式(熱伝導方程式)を例にとります。これはフィックの法則の3次元版で、 k△T=-∂q/∂t (熱伝導の場合)、∂c/∂t=DΔc のような形をしています。ただし、Tは温度、cは濃度、kやDは係数。また、ラプラシアン Δ=(勾配∇の二乗)で、1次元の場合は ∂2/∂x2 です。 導出は https://ja.wikip…

有限要素法と関数解析学

有限要素法は、機械工学(構造力学)の分野で発展した手法で、当初は「力が変形に比例する」性質をもつ弾性体で実際の部品の形状を作って力の分布を調べて破壊が起こらない形状を求めるような用途が重要な応用でした(1950年代)。実際の物質は力(応力)と変形(ひずみ)は比例関係にない(塑性をもつ)ため、任意の関係を扱えるように拡張すると、熱、電磁気や流体なども扱えるようになった、という理解をしていますが、順序については要確認です。 https://www.asahi-kasei-plastics.com/knowledge-cae/plastics-cae1/ https://ja.wikipedia.o…